2009年12月29日、30日という年末に2010年化学10大ニュース【PartI】【PartII】を発表しました。それを見ていただいた@ecochemさんが、「力作! ところで今年の10大分子は?」とTwitterでつぶやきました(29日 2:59PM)。それを拾った、@az4uさんがフォームを作成(同日4:41PM)し、ハッシュタグ#sci_onを構え、Twitter上で突如はじまった、
「2009年10大分子」
企画。31日の正午で受付終了と大変短い時間でしたが、多数のご意見をいただき、2010年1月5日ついに決定いたしました!@az4uさんが暫定公式ページを立ち上げてくださり、こちらにもノミネート分子、10大分子が発表されていますが、改めてこの化学者のつぶやきでもまとめたいと思います。
2009年10大分子はこちら!
ラパマイシン rapamycin
マウスの寿命を1割伸ばすと報告された薬。もともとは抗生物質、いろんな薬理作用が知られてたんですが、長寿に結びつくとは予想外でした。
ハーバード大シュライバーによって全合成、受容タンパク質が単離され、作用機序が明らかとなった免疫抑制剤FK506の類縁体であるラパマイシン。今年の7月にこの物質に長寿作用があると報告されました(Nature 460, 392-395 Doi:10.1038/nature08221)。将来的に「夢の長寿薬」なる怪しい製品がでてきてもおかしくありません。ただ、ラパマイシン自身も免疫を抑える薬の一種ですので感染症などの危険性があることは事実です。
*関連リンク
・長寿の秘薬?ラパマイシン(有機化学美術館・分館)
・Highlights: 生理:ラパマイシンで長生き?(Nature Japan)
E7389
天然物由来骨格の抗がん剤。むちゃくちゃ難しい構造でなのですが、日本の製薬会社エーザイの研究陣が、24年かけ、執念で医薬にまで仕上げました。
お疲れ様でしたといいたいです。今から24年前、名古屋大学上村大輔名誉教授らによってE7389のリード化合物であるハリコンドリンが単離されました。その後、岸義人ハーバード大教授によって全合成され、そこからエーザイと共に医薬品として上市するために並々なる努力、研究を積み重ねてきました。関係者は感無量といった所だと思います。
*関連リンク
【エーザイ】新規抗癌剤「エリブリン」をスイスで先行承認申請(ケムステニュース)
ペラミビル:医薬品
もうすぐ発売される、タミフル・リレンザにつづく抗インフルエンザ薬。タミフル・リレンザとことなり注射薬。異例の速度で承認され、期待の高さがうかがわれます。
米バイオクリスト社が開発した抗インフルエンザ薬(残念ながら日本産ではない)でノイラミニダーゼ阻害作用によりその効果を発揮する。つまり、MOA(作用機序: mode of action)はタミフル・リレンザと同じです。日本では、塩野義製薬が2007年に独占開発・販売権を取得しました。タミフル、リレンザに勝るのは難しいかもしれないが、投与法が3者ともことなるので、用途で幅を持たせることができるようになるでしょう。
*関連リンク
・塩野義 抗インフルエンザ薬を承認申請(ケムステニュース)
CO2
二酸化炭素です。温暖化問題ではいろいろとお騒がせの分子。年末には、温暖化データ捏造騒ぎなんてのもありましたね。ホントの所はどうなのかわかりませんが。
最も小さいが、最も騒がれた分子のひとつといってもよいでしょう。COP!5での日本の25%削減目標やクライメートゲート事件などでやっぱり嫌われ者になってしまいました。よく知られ、最も嫌われている彼は悲しんでいるかもしれません。
*関連リンク
・科学史上最悪のスキャンダル?! “Climategate”
青色色素デルフィニジンlavonoid 3′,5′-hydroxylaseH遺伝子:
「青いバラ」の青さの原因となる物質と、それを創りだすのに必要な遺伝子。サントリー技術陣の20年の苦心の結果開発、去年発売です。
DPP-4:
新規糖尿病治療薬のターゲット分子。DPP4阻害薬は、インスリンを増やし、グルカゴン(血糖値を上げるホルモン)を減らし、血糖値をコントロールします。昨年末、日本初のDPP4阻害薬が発売。海外では、すでにブロックバスターです。
BSI-201:
これまでの乳がん治療薬が効かないとされるトリプルネガティブ乳がんの新薬候補。この薬のメカニズムのPARP阻害薬というのは、もともとアポトーシス阻害剤(細胞死抑制)。これが、抗がん剤に化けました。
オセルタミビル(タミフル):
ご存知タミフルと言うことで、去年も大活躍
L-グルタミン酸 L-Glutamic acid:
池田菊苗氏が昆布から発見して、今年100周年(その後、その一ナトリウム塩を「味の素」として商品化)。
リボソーム:
超巨大分子。2009年ノーベル化学賞
*分子の概要解説は@drug_discoveryさんおよびノミネートシートから
その他のノミネートされた分子(13分子)
以下の13分子がノミネートされました。我々がノミネートした分子も入っています。パラウアミン Palau’amineは年末に発表されたので、来年もノミネートされる可能性があります。また、上記の10位内に入った分子も来年も活躍することでしょう。
シクロプロプ-2-エンカルボン酸 cycloprop-2-enecarboxylic acid: 筋肉も溶かす毒キノコ成分
パラウアミン Palau’amine: 全合成の最注目化合物、ついに陥落
(+)-ハプロフィチン Haplophytine :メキシコ産の植物Haplophyton cimicidumの葉っぱに含まれる、駆虫効果を示すアルカロイドです。 このたび東京大学・福山教授および東北大・徳山教授らによって、世界初の全合成が報告されました。
クロザピン Clozapine : 抗精神病薬の最後の砦とされる薬が、ドラッグラグの壁を超えてようやく日本で発売。リスク管理の点でも注目。
トリクロサン Triclosan : 薬用石けんや歯磨剤、各種消毒剤に使用されることのある有機塩素系殺菌剤。プレダイオキシンとして知られているもののひとつで、JPCCN特別指定有害物質。
シクロパラフェニレン Cyccloparaphenylene : 最小カーボンナノチューブ。Bertozzi、伊丹、山子らが合成
N-ヘテロ環状カルベン(NHC): 論文で毎週おみかけしました。
ビニグロール Vinigrol: Coreyも作れなかった超複雑天然物の全合成
フェブキソスタット febuxostat: 久々に出た尿酸低下薬(痛風治療薬)大人の皆さんに必要かもしれません
アドヘサミン Adhesamine : 細胞を集めて増やすユニークな化合物
AMPA型グルタミン酸受容体: 中枢神経系での興奮性シナプス伝達はGluA2によって生み出される.今年の12月に報告されたRat由来GluA2の結晶構造は,この受容体がどのようにシナプス伝達を生じるかを明らかにし,神経科学・膜タンパク質の構造生物学両面において今年最大級の成果となった.
GRPR(gastrin releasing peptide receptor) : 「痒み」を選択的に伝達する神経の伝達に関与するとされる受容体。「痒み」が最大の問題であるアトピー性皮膚炎との関連性解明に期待。
RPS23R1: adenylate cyclasesと相互作用して、Alzheimer病患者で蓄積が見られる2つのタンパク質、Aβの減少とリン酸化Tau両方の減少をもたらす。Alzheimer病治療への臨床応用が期待されるタンパク質である。
グリシドール(およびその脂肪酸エステル類)Glycidol(and acyl derivatives): 今秋、新生消費者庁による花王「エコナ」の特保許可取り消しで社会を騒然とさせた物質。
*分子の概要解説は@drug_discoveryさんおよびノミネートシートから
大会関係者および審査員
発案者 @ecochem
審査委員長 @drug_discovery
審査委員 @OrgChemMuse @chemstation @kasoken
選考推薦人 @chemstation
サイト作成&大会事務局 @az4u
特に発案者の@ecochem、進行、説明共に抜群であった@drug_discovery さん、すべての仕切りを行った@az4uさんお疲れ様でした!!
Twitterユーザーからの感想と講評
超短期間の企画にもかかわらず、たくさんのご感想および講評をいただきました。以下いくつか抜粋させていただきます。このサイトをみた方はハッシュタグ#sci_onまでご感想をお寄せください。
@wolfire2525 明日使うレポート作成にかかっていたが、「10大分子」が面白杉。
@wolfire2525 全くの門外漢ですが、凄く面白い!司会の仕切りも、合いの手の解説もお上手。観客思わず拍手
@shyamamo: 面白い企画です。
@kujitora: 「2009十大分子」企画が面白すぎる。分子をノミネートってその響きがたまりません。楽しみました。ありがとうございます。
@showjinx: 見事なまでに2009年の10大分子がタミフルしか名前わからなかったww
@ikoka008 福山先生万歳!
@hidt4 やっぱラパマイシンの論文は印象深かったですよなあ。あとは医学系分子が多い中でCO2が目立ってるな。。。年末から気軽に盛り上がれる企画で2010も期待
@K_Tachibana 青春あるでひどの年末公開録音でも取り上げられたペラミビルが堂々3位に
@flatfish51 接戦だ
@junkusuda 10大分子」今年度やるとしたら、エントリー期間がもうすこしあるといいですね。今回は、急遽決まった企画にしてはいい分子が集まったと思います。やはり、みんなの印象に強烈に残るものばかりだからでしょうか
みなさんお疲れ様でした!次回はもっと….
いかかであったでしょうか?すべて今年の話題に上った分子達です。一般の方からしてみれば二酸化炭素やタミフルぐらいしかわかりません!といった意見もあるでしょう。ただ、CO2対策やインフルエンザの流行、糖尿病やガン、ノーベル賞、長生き、味の素などなど一般的にも知られているキーワードの中心となっています。すなわち、”彼ら”は現在活躍しているもしくは将来的にデビューして身のまわり存在している可能性は大いにあるのです。
突如はじまった企画ですので、なかなか手はずも整えることもできず、コミュニティーの志向から医薬品、生理活性物質ばかりがそろってしまった感は否めないです。また、投票形式も選択肢のなかからワンクリックで選ぶ(ノミネートもできる)Vote形式の方がよかったかもしれません。この反省を踏まえて、2010年末にはもうすこし期間を設け、材料系や一般の方々も一緒になって、注目された分子たちを紹介できるとよいと思っております。
最後にこのように簡単にリアルタイムで意見や感想が言い合えるツイッターの存在価値は高いということを述べて終わりたいと思います。そして、それには有用な情報交換ができる”ヒト“が必要です。私も来年に向けて”彼らに”目を光らせていますので、ぜひ来年は(も)ご参加をよろしくお願いいたします!
【追記】
@ecochemさんより
「10大分子」関係者(観客を含む)は「サイエンスカフェにいがた」 参加費400円を無料にさせていただきます(旅費は自己負担…)。お申込みの際『10大分子を見た』とタグとともにお書きください。
ということです、皆さんぜひ参加してみてはいかがでしょうか。