Cram則 -Cram's rule- |
Cram則って何だ?ということからまずはじめよう。
▼ Cram則って何?
説明のため例としてアルキルリチウムとエチルリチウムとの反応について考えてみる。 アルデヒド炭素はsp2混成であるから、不斉中心はないが、エチル基が導入されて2級アルコールになると、不斉炭素となる。
いま、アルデヒドとして、ベンズアルデヒド(Ph-CHO)のようにもともと不斉中心がないものを用いて、エチルリチウムと反応させると、新たに生じる不斉炭素は式(1)のようにR配置とS配置のものが等量でき、生成物全体は
しかし、アルデヒドがもともと不斉炭素を持つもの(例えばMePhCHCHOのようなもの)を持つ場合、式(2)のように生成物は互いにジアステレオマーの関係になる。
左をA右をBとすると、この生成比もまた1:1の等量なのだろうか? 答えはNO。その生成比は必ずしも1:1にならないのである。 そして、このジアステレオマーの比を1:1からずらす要因を考えるよりどころというのが Clam則(図1)である。
▼ Clam則の考え方
図1 基本的なクラム則
次の説明の通りNewmann式でこのCramモデルを書いて表してみよう。
1、不斉炭素のついている3つの基をL、M、Sとしてあらわす。(L>M>S) 2、一番大きなLをアルデヒド基の酸素から一番遠くに書く。(アルデヒド基の酸素と立体的に反発し、双方ができるだけ遠くなるようなコンフォメーションをとっていると仮定。) 3、エチルリチウムを近づけてみる。
生成物はA、Bどちらのほうが多くなるかわかっただろうか? ヒントはエチルリチウムが反応するとき、エチルリチウムは立体障害の少ないS側から近づきやすいということ。
Clam則はいずれもアルキル基などの場合に適用されるもので、他のヘテロ原子が入ると合わなくなる。また、L、M、Sのいずれかに酸素原子が入ると、この酸素原子とカルボニル酸素原子の間に金属イオンが入って環状の錯体を作って安定する。 これらはそれぞれ、双極子モデル(図2左)、キレーションモデル(図2右)という。
図2 双極子モデル(左)とキレーションモデル(右)
最近ではこのほかにも、いろいろなモデルが提唱されており、Felkin-Anhモデル(図3)という遷移状態モデルが広く知られている。
図3 Cram則におけるFelkin-Anhモデル 有機って面白いよね!! (2000/6/22 ブレビコミン) |
【用語ミニ解説】
■Cram
(写真:UCLA Department of Chemistry & Biochemistry)
Donald J. Cram。Cram則の提案。その他クラウンエーテルの合成で有名。1987年「高い選択性で構造特異的な反応を起こす分子(クラウン化合物)の合成」によりJ・M・レーン,C・J・ピーダーセンとノーベル化学賞受賞。
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■Newmann式
■ヘテロ原子
窒素や酸素原子、硫黄原子など。
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