光化学反応と有機化学 |
光エネルギーによって開始される反応を光化学反応(photochemical
reaction)と呼ぶ。以下の反応が示すように、反応駆動力に熱を用いるか光を用いるかでは全く生成物が異なり、別の機構が生じていることがわかる。逆に、この点を考慮すると普通の手法では合成できない分子を有機合成するための強力な手法となりうる。
▼分子の励起
光を吸収した分子のうち、どれくらいの分子が光反応を起こすに至ったかを示す指標が量子収量(quantum yield)であり、Φで表す。量子収量は以下の式で定義される。
基底状態の分子(S0)が光エネルギーを吸収すると、HOMOの電子がLUMOへ遷移して励起される。励起状態には2種類あり、HOMOとLUMOのスピン状態が逆平行なものを一重項励起状態(S1)、平行なものを三重項励起状態(T1)とよぶ。一般に三重項状態のほうが、相当する一重項状態より電子反発が少なく、より安定なエネルギー準位にある。一重項-三重項間の系間移動はスピン反転を伴うため一般に禁制(forbidden)遷移である。同じ多重度同士での系内移動に比べて起こる確率は非常に低い。以下に遷移の模式図を示す。スピン状態の違いのため、一重項状態と三重項状態では異なる反応が起きる。
一般に電子の質量は原子核に比べ非常に小さいので、電子遷移はきわめて短時間(10-16sec以内)に起こる。これは原子核振動の周期(10-12〜10-14sec)より短いため、原子間の相対的な位置は電子遷移によりほとんど変化しない。これをFranck-Condon原理と呼ぶ。
▼増感
ある分子を、他の分子を介して強制的・間接的に特定の多重度励起状態にすることを増感(sensitization)という。この増感作用の仲立ちをする分子は増感剤(sensitizer)と呼ばれる。
増感剤として働く物質は、ベンゾフェノン、m-ジシアノベンゼン、色素ローズベンガルなどが知られている。フラーレンC60も増感剤として働くという報告がある。
▼光反応の例 ・転位反応
Peterno-Buchi反応は[2π+2π]型環形成反応の一種であるが、協奏的にではなく、段階的機構(エキシプレックス-ラジカル機構)で進行する。溶媒の極性が高まると電荷移動が支配的になり、ラジカルイオン対が生成し、環はできにくくなる。
また、三重項増感剤存在下で生成させた一重項酸素もしくはスーパーオキシドの付加反応も似た機構で進む。
・開裂反応
▼ペリ環状反応まとめ (2002.3.8 by cosine)
▼参考、関連文献
・「構造有機化学―有機化学を新しく理解するためのエッセンス」斎藤勝裕 三共出版
▼関連リンク
・有機って面白いよね!〜ペリ環状反応〜
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【用語ミニ解説】
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■増感剤
光増感剤。反応する物が光を吸収するのではなく、光増感剤が光を吸収し、そのエネルギーが反応する物に移動して、反応が進む物質。化学反応の触媒のようなもの。
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