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化粧の化学

 

化粧

 

 「美しくいたい」ということは人間の本能的な欲望で、これを満たすために化粧がある。その歴史は古代エジプト人は今生み出されている化粧品のほとんどを何らかの形で使っていたということが遺物からわかっているというほど長い。

 

 化粧品は薬事法で「身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、または皮膚もしくは毛髪を健やかに保つために身体に塗布、散布その他これに類する方法で使用することが目的とされているもので、人体に対する作用が緩和なものを言う」(第二条第三項)とされている。

 

 現在、多種多様な化粧品が市場に出回っていることは言うまでもない。最近の化粧品の傾向としては老化予防高安全性環境対応などを考慮したものが目立っている。

 

基礎化粧品

 

 基礎化粧品は皮膚生理を補完しすることによって皮膚の恒常性を維持するためのものである。皮膚の洗浄、水分の補給、油分の補給、皮膚の賊活、シミ・ソバカスの防止などその働きによって5種類に分けることが出来る(表1)。

 

化粧料

役割

種類

洗顔料

皮膚の洗浄

クレンジングクリーム、洗顔クリーム、石鹸など

整肌料

水分補給

保湿化粧水、柔軟化粧水など

保護料

油分補給

ミルキーローション、エモリエントミルクなど

賊活料

皮膚の賊活

マッサージクリーム、マッサージローションなど

美白料

日焼け止め

シミ・ソバカス防止

エッセンス、ホワイトニングクリームなど

サンプロテクトミルク、サンブロッククリームなど

表1 基礎化粧品の役割と種類

 

 洗顔は肌の手入れのを行う際の一番目のステップである。皮膚にはさまざまな汚れが付着している。これらを長時間にわたって放置しておくと炎症の原因となる。このために洗顔によってこれらの汚れを除去する必要がある。汚れにはメークアップ化粧品や皮脂などの油溶性の汚れとほこり、汗、垢などの水溶性の汚れがあり、前者は油性クレンジング剤に配合されている油性原料や界面活性剤によって除去することができ、後者は起泡性の水性洗顔料によって落とすことが出来る。

 

 洗顔を行うと過剰に油分を落としてしまうために肌は乾燥気味になる。これを補うのがグリセリンやNMF成分、ヒアルロン酸等が配合されている化粧水(整肌料)である。これらは一時的な効果はもっているが持続性という点では問題がある。このため乳液やクリームなどで油分を補うことが有効である。

 

 このような物理的効果のほかに化粧品中にはビタミン類や色素細胞の働きを抑制する成分など肌の生理に有効に働く成分を含有させている。ビタミンCは代表的な化粧品成分の一つで皮膚表面の色素細胞のメラミン合成を阻害する作用や、しわと関係の深いコラーゲンの合成を助ける役割を持っている。ビタミンEは皮脂の酸化を予防し、ビタミンAは正常な角化を促す役割を持っている。他にもビタミンB,B,Dやこれらの誘導体などを含有しているものがおおい。

 

 化粧品に用いられる原料は化粧品原料基準、JCID(日本汎用化粧品原料集)とメーカー開発原料を合わせると2000種類以上の原料があり、製剤化するための基材としての原料と添加剤に大別することが出来る。この中から製品化するために用途によって十数種類の原料を組み合わせて使用されている。原料はその化粧品の特性だけで選ばれるのではなく他の原料との相性や匂い、色、安全性などを十分に考慮して考えられている。

 

 

メークアップ化粧品

 

 メークアップ化粧品は先に述べたように古くから使用されており、化粧の歴史はメークアップの歴史とも言えるほどである。

 

 メークアップ化粧品はまずベースメークアップ化粧品とポイントメークアップ化粧品の2つに分けることができ、それぞれ目的ごとに数種類に分けることが出来る。

 

 

種類

役割

ベースメークアップ

白粉

肌の色を整え白くする

肌に透明感を与える

汗や皮脂を抑制する

ファンデーション

肌色を美しくする

肌の欠点をカバーする

ポイントメークアップ

口紅

唇に色をつけアクセントをつける

頬紅

明るく健康的に見せる

顔の立体感を出す

アイライナー

目の輪郭を強調する

マスカラ

睫毛を長く見せ目元を強調する

アイシャドー

目元の表情を豊かにする

アイブロー

睫毛の形を整える

ネールエナメル

指に表情を与える

表2 メークアップ化粧品の種類と役割

 

 メークアップ化粧品には上記のような役割(美的役割)のほかにも紫外線から皮膚を守ったり、唇や肌の乾燥を防ぐという役割も持っている。さらにメークアップすることによって安心感を与えるといった心理的役割も認められている。化粧をしている時のほうが「積極的になれる」「自信が持てる」「ゆとりが出来る」等の心理効果が実際に現れている。

 

▼メークアップ化粧品の原料と形状

 

 メークアップ化粧品の組成や形状は時代とともに大きく変化しているが、いずれの場合においても有機顔料、無機顔料、パール顔料などの色材を種々の基材中に分散させているものがほとんどである。主な成分は水、油脂、界面活性剤、色素、香料、防腐剤、酸化防止剤、安定剤であり、この他にも保湿剤やビタミンなどを加えられているものもある。使用目的によって粉末状、固形状、乳化状などさまざまな形をとっている。

 

▼ベースメ−クアップ化粧品

 

 白粉は日本において古くはこめの粉などを用いていたが、6世紀ごろには鉛白(塩基性の炭酸鉛)が中国からわたってきた。しかし、鉛中毒にかかる人がたくさん現れ明治時代に製造販売が禁止されている。これ以来無機顔料の開発が行われるようになった。現在は毒性がなく、被覆力、付着力の優れた酸化チタンや酸化亜鉛が用いられている。

 

 戦後、欧米の影響を受けて白粉による薄化粧から肌色を演出するファンデーションがもちいられるようになった。ファンデーションはFe(赤)、FeOOH(黄)、Fe(黒)の三種類の酸化鉄を混合して肌色を作っている。肌の色は黒褐色のメラミンと黄色のカロチン(少量)、毛細血管中のヘモグロビンの赤によって支配されている。酸化鉄のみでは肌の色とメタメル現象(分光学的性質の相違による異なる色が特定の観察条件下で同じに見える現象)を起こしてしまうため、自然な仕上がりに見えなくなってしまうことがあり、このため、再度の高い有機顔料の赤を少量添加するなどの工夫がなされている。

 

▼ポイントメークアップ化粧品

 

 現在、さまざまな色調や彩度をもった有機顔料が合成されている。しかし人体への安全性からさまざまな問題も抱えており、そのため規制も厳しくなっている。化粧品に用いることの出来るのは厚生省令で定められたもののみであり、その中でも粘膜への使用を禁止しているものがあり、これは口紅に配合することが出来ない。しかし、最近は精製技術の進歩によって毒性を持つ不純物の分離が可能となったためこれによって使用が可能となった色素もある。例えば、赤色204号であるレーキレッドCBA中には接触アレルギー性を示す1−フェニルアゾ−2−ナフトールとその誘導体を含有していたが、現在ではこれらを含まない赤色204号が工業的に合成されている。

 

図1

 

化粧品の安全性

 

 化粧品は直接身体に使用するものであるため、その安全性を確保することは必須である。化粧品原料は安全性が確保されているもののみで法律によって定められている。しかし、化学物質である化粧品は皮膚を刺激したりアレルギーを起こす可能性がゼロであるとは言えない。

 

 安全性の確認は、原料の純度(有害不純物の混入防止)、皮膚刺激性、感作性(アレルギー反応を起こす抗体を作る性質)が必要となる。原料一つ一つは安全であっても、これらを配合することによって皮膚を刺激するなどの作用が現われてしまうこともある。また、製造直後は安全な物質であっても腐敗(酸化)することで皮膚刺激性が上がったり、熱や光によって変性してしまうものもある。

 

 これらを防ぐためには化粧品の使用上の注意をしっかり読みそれぞれ見合った方法で保存することによって防ぐことが出来る。また、アレルギー問題に関してはパッチテストを行い十分に確認した後に用いることが重要である。

 

 

 私、ボンビコールは男であるため化粧をしたことはない(あたりまえか・・・)。しかし、化学のみでなく薬学、心理学など多くの分野の集大成であり、奥の深いものであるように感じます。化学(科学)って面白いよね!?

 (by ボンビコール)

 

参考、関連文献

 

・お化粧と科学 日本化学会編 大日本図書

・化粧品の科学 尾澤達也 裳華房 

 

関連リンク

 

日本輸入化粧品協会

日本接触皮膚炎学会

化粧品技術者向けデータベース-Cosmetic-Info.jp