[スポンサーリンク]

ケムステニュース

Googleの面接で話した自分の研究内容が勝手に特許出願された

[スポンサーリンク]

This is what happened when I went to visit a giant tech company, in hopes for collaboration, but later found that they tried to patent some of my research instead!  (引用:Gigazine12月4日)

ケミストリーに直接関連するトピックではありませんが興味深いニュースだったので取り上げました。

Jie Qi博士はMITメディアラボで電子絵本について研究していますが、Googleとの面接後に自分の研究内容を無断で特許出願されたという体験をしたそうです。ことの始まりはGoogleからの招待から始まりました。

  1. Qi博士がD2の時にGoogle ATAP (Advanced Technology and Projects)に招待されて訪問。
  2. 自分の研究テーマについてチームと議論をしたところ、Google ATAPの研究内容と関連が高いことが判明し急きょ就職の面接を受けた。この時は、チームのヘッドとも研究について議論ができて、夏のインターンシップに招待されるかもと期待した。
  3. Google ATAPから仕事のオファーを受けたが、博士課程を修了することを優先するため断った
  4. 二年後、友人からQi博士の研究内容に非常に近い特許がGoogleから出願されていると聞いた
  5. 特許の出願人は、面接官の数人。面接で話したことはしっかりと特許に記載されているが、話さなかったことは記載されていない。

特許を発見したQi博士は下記のようなアクションを取りました。

  1. 特許登録の阻止:Googleの出願した特許は、まだ登録されていなかったので先行研究をとにかく集め、米国特許庁に提出した。
  2. Googleとの交渉:幸いにもQi博士のチームのヘッドはGoogle ATAPのヘッドと知り合いだったので、コンタクトを取り、電話会議を行った。するとGoogleはQi博士をInventorとして加えるオファーしか出さなかったので断った。

1に関して、情報提供という制度のことだと思われ、これは出願公開から 6ヶ月以内又は,最初の拒絶理由通知の日のうち,いずれか遅い方までに特許の審査に関する情報を提供できる制度のことです。誰でも情報を提供することができ、日本では匿名での申請も可能です。この場合、Qi博士にとってはこの特許は登録されてほしくないので、先行文献を提出=この特許の請求には新規性がないので特許にならないとしようとしました。特許の審査は特許庁が行い、審査官ももちろん先行文献を調べますが、はっきりと情報提供によって先行文献の存在を明確に示すことができます。

情報提供を行った記録

2に関して、Inventorはその名の通り発明者でAssigneeが譲受人であり、この特許の場合、Inventor:Googleの社員、Assignee:Googleという会社となっています。実際に権利を行使するのは、Assignee=Googleという会社であるため、Qi博士がInventorに加わってもGoogleは何も変わることなく権利を行使できると言えます。それはQi博士の望むことではないため断ったようです。

結局Googleの特許は拒絶され、Googleもその後のアクションを取らなかったため放棄状態となっています。今後、同様の特許が出願されてもこのGoogleの特許自体が先行文献となるので、登録されることはないようです。

現在の特許の状況、 Failure to Respond to an Office Action:庁指令に対し期限内に応答なし

Qi博士は、特許が登録前に気づきアクションを取ることができ、ヘッド同士が知り合いで、すぐに話すことができたため良い結果になったと記しています。ただし特許については審査官が判断することなので仮にQi博士が情報提供をしなくても拒絶された可能性も、情報提供されても登録されてしまった可能性もあります。また、大企業は社員に特許出願を推奨していて出願すればボーナスがもらえる場合があるため、大学の学生にもボーナスを出して特許出願に対抗すべきと主張していますが、これには同意できません。なぜなら学生は純粋な研究に専念しその結果として論文や特許を発表することは問題ありませんが、特許出願ありきで研究することは教育上問題だと思うからです。

このような面接で話したことを勝手に発表される可能性はどの分野でも起こりうることだと思います。特許は、実験データが無くても出願することはできるためこの電子絵本のようにオリジナリティが高いアイディアを口外することは他社による特許出願リスクがあることは知っているべきです。しかしながら印象が良ければ次のビックチャンスが来るかもしれない大企業の面接という場面では、自分の研究をたくさん示すことは自然であり、学生にとっては難しい判断となると思います。

大学による特許出願については慎重になるべきだと思いますが、自分の研究を守るために常に特許を含めて最新の文献をチェックし、自分の発表内容と関連のある特許が見つかれば特許担当者に相談することが必要だと思います。

関連書籍

[amazonjs asin=”4806530204″ locale=”JP” title=”改訂8版 化学・バイオ特許の出願戦略 (現代産業選書―知的財産実務シリーズ)”] [amazonjs asin=”4807908901″ locale=”JP” title=”企業人・大学人のための知的財産権入門(第3版): 特許法を中心に”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 「水素水」健康効果うたう表示は問題 国民生活センターが業者に改善…
  2. 健康食品 高まる開発熱 新素材も続々
  3. 韓国に続き日本も深刻化?トラック運送に必要不可欠な尿素水が供給不…
  4. エーザイ、米国で抗てんかん剤「Banzel」(ルフィナミド)の小…
  5. 定番フィルム「ベルビア100」が米国で販売中止。含まれている化学…
  6. トムソン:2007年ノーベル賞の有力候補者を発表
  7. 小児薬、大人用を転用――アステラス、抗真菌剤
  8. 新規糖尿病治療薬「DPPIV阻害剤」‐熾烈な開発競争

注目情報

ピックアップ記事

  1. マグネシウム Magnesium-にがりの成分から軽量化合物材料まで
  2. ジョージ・オラー George Andrew Olah
  3. gem-ジフルオロアルケンの新奇合成法
  4. 中嶋直敏 Nakashima Naotoshi
  5. 投票!2019年ノーベル化学賞は誰の手に!?
  6. ドラマチック有機合成化学: 感動の瞬間100
  7. 第65回「化学と機械を柔らかく融合する」渡邉 智 助教
  8. 国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟でのColloidal Clusters 宇宙実験
  9. ミツバチの活動を抑えるスプレー 高知大発の企業が開発
  10. アミジルラジカルで遠隔位C(sp3)-H結合を切断する

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年12月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

先端の質量分析:GC-MSおよびLC-MSデータ処理における機械学習の応用

キャラクタライゼーションの機械学習応用は、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)およびラボオートメ…

原子半径・電気陰性度・中間体の安定性に起因する課題を打破〜担持Niナノ粒子触媒の協奏的触媒作用〜

第648回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科(山口研究室)博士課程後期2年の松山…

リビングラジカル重合ガイドブック -材料設計のための反応制御-

概要高機能高分子材料の合成法として必須となったリビングラジカル重合を、ラジカル重合の基礎から、各…

高硬度なのに高速に生分解する超分子バイオプラスチックのはなし

Tshozoです。これまでプラスチックの選別の話やマイクロプラスチックの話、およびナノプラスチッ…

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP