機器分析は研究に不可欠なツールです。座学として化学を勉強しているだけでは、分析化学のありがたみをあまり感じられないかもしれません、しかし実際に研究を始めてみると、必要な情報を得るためにどのような分析機器を使うべきか、あるいは、得られた分析結果をどのように解釈するべきかなど、常に分析について考えなければなりません。本記事では、研究に必要なルーティンワークとして使用する分析機器の基礎知識から、容易にはアクセスできないけれど研究の決め手となりうる高度な分析に関する記事をまとめます。本記事が、研究に行き詰まったときの相談先になれば幸いです。
分光法のおおまかな地図
機器分析の多くは、電磁波を利用して、その電磁波のエネルギーに相当する分子の応答を分析します。そのため、多様な電磁波がどの程度の波長やエネルギーを持っているかを、大まかに把握しておくことは重要です。下の表に、電磁波の名称とそれを利用した分析手法をまとめました。
核磁気共鳴 –NMR–
原子が置かれた環境を調べることができる分析手法です。原子同士の繋がり方もわかるため、化合物の構造決定法として強力な手段になりえます。
- NMR の基礎知識【原理編】·【測定·解析編】
- NMR の測定がうまくいかないとき ① · ②
- NMR Chemical Shifts –溶媒の NMR 論文より
- 合成化学者のための固体 DNP-NMR
- 天然有機化合物のNMRデータベース「CH-NMR-NP」
- 固体 NMR
- 卓上 NMR
- NMR 菅
振動 –IR · ラマン–
IR 分光は、分子の特定の官能基が赤外線を吸収して振動することを利用した分析手法です。有機分子に含まれる官能基の種類を確認したり、金属錯体に結合した小分子の結合の活性化の度合いを見積もるために利用されます。ラマン分光も振動に関する情報を得る分析手法ですが、透過光ではなく散乱光を観測するため、より低い波数の振動 (金属-配位子結合など) も観測できる利点があります。
可視 · 紫外 –UV-vis–
電子遷移による吸収を利用して、分子の電子的な性質を分析するために利用されます。
- UV-Vis スペクトルの楽しみ方
- 比色法の化学 前編 · 後編
X 線分析
固体試料の構造決定において絶大な威力を発揮します。X 線回折は比較的アクセスしやすい X 線分析である一方、シンクロトロン (Spring-8 など) を用いたX 線吸収分析 (XAS や EXAFS) は、容易には利用できなません。しかし、結晶性ではない化合物の局所的な幾何構造や電子構造も分析できるため、分析を諦め掛けていたあの化合物の構造決定に利用できるかもしれません。
電子線回折/電子顕微鏡
熱分析
物質の熱に対する挙動を調べるために利用される技術です。
電気化学測定
電位の制御のもと電流を観測し、電子が関わる反応を分析する技術です。
クロマトグラフィー · 電気泳動
化合物の極性の差などを利用して試料を分離する分析手法です。
- 薄層クロマトグラフィー thin-layer chromatography
- 高速液体クロマトグラフィ high performance liquid chromatography
- TLC と反応の追跡
- キャピラリー電気泳動の基礎知識
質量分析
試料をイオン化し、その (質量)/(電荷) に応じて試料を分離する分析手法です。分子量の測定などに利用されます。
メスバウアー
γ線を利用して、特定の原子核の酸化状態や電子的なスピン状態について分析する手法です。主に 57Fe にしか利用できない分析手法ですが、鉄化合物を研究する際には、化合物内の鉄の電子構造に関する有益な情報が得られる場合があります。
天秤
データ解析
機器分析そのものとは関係ありませんが、データを解析したり、得られた結果から見やすい図を作成することも、研究者のスキルとして重要です。