化学者を魅了してやまない複雑な骨格を持つ天然物たち。どのような生合成経路により作られているのかを紹介した記事をまとめてみました。
生合成遺伝子の探索
生物は、どのようにして複雑な天然物を合成しているのだろうか?
天然物の生合成を明らかにするには、生合成遺伝子を明らかにする必要があります。
近年の遺伝子工学の発展により、昔に比べ生合成遺伝子の解明・研究がスピードアップしています。次世代シーケンサーの登場によりゲノム情報が得られるようになり、ゲノム編集技術により植物でも遺伝子破壊実験をより効率的に行うことができるようになりました。
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生合成酵素の機能解明
有機合成で有用な触媒反応が活躍するように、生体内の生合成では酵素が活躍します!
生合成遺伝子が特定できたら、次は発現させて、酵素の機能解析を行うことが一般的です。しかし、試験管内(in vitro)で酵素の活性を出すことは難しく、研究は一筋縄ではいきません。また、生合成経路終盤の酵素では、複雑な天然物の中間体を酵素反応の基質として用意しなくてはならず、研究が困難です。また、酵素の活性を測定することができても、詳細な反応機構はわかりません。そこで、X 線結晶構造解析などを用いて酵素反応機構が決定されます。近年では、計算化学などの助けも借りながら反応機構が明らかにされています。
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計算化学による反応機構解析
生合成遺伝子・酵素を明らかにできても、詳細な反応機構を知ることは難しいです。近年、計算機や基礎理論の進展により計算化学が身近になってきました。アメリカの Dean Tantillo はテルペンの環化酵素を Kendll Houk はDiels Alder 反応について精力的に研究を行っています。
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有用物質の生産
異種発現を用いて、培養困難 or 成長の遅い生物の遺伝子をより培養の容易な生物に組み込むことで、有用天然物を大量生産しようとする試みが、近年、数多数報告されています。
もっとも有名な例としては、2015年のノーベル賞としても有名な化合物 アルテミシニン Artemisinin の酵母を用いた生産系が挙げられます。この研究は、ジェイ・キースリング Jay Keaslingらにより達成されました。また、最近ではオピオイド化合物を大腸菌で生産する研究も報告されています。
生合成研究者
天然物界の二人の巨人、クリストファー・ウォルシュ Christopher Walsh と ピーター・リードレイ Peter Leadlay、
この二人の名前は絶対に覚えたほうが良いです。
他、ポリケタイドやテルペノイド、植物、微生物などそれぞれのトピックで有名な人たちを順に覚えていくのが良いかと思います。
- クリストファー・ウォルシュ Christopher Walsh
- ピーター・リードレイ Peter Leadlay
- チャイタン・コシュラ Chaitan Khosla
- シェリル・サイ Shiou-Chuan (Sheryl) Tsai
- シューミン・リー Shu-Ming Li
- ジェイ・キースリング Jay Keasling
- クリスチャン・ハートウィッグ Christian Hertweck
- ブラッドリー・ムーア Bradley Moore
- サラ・オコナー Sarah E. O’Connor
- ベン・シェンBen Shen
- ジョン・トーソン Jon S. Thorson
- ラッセル・コックス Rusesl J. Cox
- イー・タン Yi Tang
- ヨン・ピエール Jorn Piel
- テッド・ベグリーTadhg P. Begley
- ロルフ・ミュラー Rolf Muller
- ディーン・タンティロ Dean J. Tantillo