本コンテンツでは現在3000記事超ある記事の中からカテゴリやコンテンツを超えたまとめ版を紹介してきたいと思います。
第一弾は「日本人化学者による卓越した化学研究!」
ケムステで紹介しインタビューもさせていただいた、日本人化学者による最新化学の潮流をつくるような研究のまとめです。随時更新していきます。
2016年
Micro Flow Reactorで瞬間的変換を達成する
“Submillisecond organic synthesis: Outpacing Fries rearrangement through microfluidic rapid mixing”
Heejin Kim, Kyoung-Ik Min, Keita Inoue, Do Jin Im, Dong-Pyo Kim, Jun-ichi Yoshida, Science2016, 352,691-694. DOI: 10.1126/science.aaf1389
京大吉田潤一先生らの研究結果
ミリ秒以下で反応可能なフローマイクロリアクターを製作し、分子内転位反応の一つであるフリース転位反応を完全制御することに成功しました。
C70の中に水分子を閉じ込める
“Synthesis of a distinct water dimer inside fullerene C70”
Zhang, R.; Murata, M.; Aharen, T.; Wakamiya, A.; Shimoaka, T.; Hasegawa T.; Murata, Y. Nature Chem. 2016, published online. DOI: 10.1038/nchem.2464
京都大化研村田靖次郎先生らの研究結果
1つもしくは2つの水分子をフラーレンC70の中に閉じ込め、それらの水分子の挙動を解析することに成功しました。
2015年
芳香環メタ位を触媒のチカラで狙い撃ち
“A meta-selective C–H borylation directed by a secondary interaction between ligand and substrate”
Kuninobu, Y.; Ida, H.; Nishi, M.; Kanai, M. Nature Chemistry 2015, 7, 712. DOI:10.1038/nchem.2322
東京大学金井・國信先生らによる研究結果
新しい有機金属触媒を用いたメタ位選択的な芳香族C–H結合ホウ素化を報告しました。
マイクロ波とイオン性液体で単層グラフェン大量迅速合成
“Ultrahigh-throughput exfoliation of graphite into pristine ‘single-layer’ graphene using microwaves and molecularly engineered ionic liquids”,
Matsumoto, M.; Saito, Y.; Park, C.; Fukushima, T.; Aida, T.
Nature Chem. 2015, 7, 730–736. DOI: 10.1038/nchem.2315
東京大学 相田先生らの研究成果
マイクロ波とイオン性液体で単層グラフェンの大量迅速合成を可能としました。
天然にある中間体から多様な医薬候補を創り出す
“Use of a biosynthetic intermediate to explorethe chemical diversity of pseudo-natural fungal polyketides” Asai, T.; Tsukada, K.; Ise, S.; Shirata, N.; Hashimoto, M.: Fujii, I.; Gomi, K.; Nakagawara, K.; Kodama, E. N.; Oshima, Y. Nat. Chem.2015, DOI: 10.1038/NCHEM.2308
東北大学薬学部の浅井・大島先生らによる研究結果
天然に頼るばかりではなく「人工反応をうまく絡ませる」ことによってリード創出を行う方法論「多様性指向型半合成(Diversity-oriented semi-synthesis)」を提唱・実践しました。
センチメートルサイズで均一の有機分子薄膜をつくる!”シンプル イズ ザ ベスト”の極意
“Rational synthesis of organic thin films with exceptional long-range structural integrity”
Seiki, K.; Shoji, Y.; Kajitani, T.; Ishiwari, F.; Kosaka, A.; Hikima, T.; Takata, M.; Someya, T.; Fukushima, T. Science, 2015, 348, 1122.
東京工業大学の福島孝典先生らによる研究成果
『分子を”キレイに整列”させてセンチメートル(10-2 m)サイズの大きさの物質をつくる』ということが可能であると思いますか?ベンゼン環3枚がプロペラ状につながった分子であるトリプチセンの誘導体を使って、センチメートルスケールで欠陥(ドメイン境界)のない高性能な有機分子薄膜を作り出しました。
フロー法で医薬品を精密合成
“Multistep Continuous Flow Synthesis of (R)- and (S)-Rolipram Using Heterogeneous Catalysts”
Tsubogo, T.; Oyamada, H.;Kobayashi, S. Nature, 520, 329–332 DOI:10.1038/nature14343
東京大学の小林修教授らによる研究成果
医薬品など有用分子を効率よく供給するためには、化学による”反応条件“の開発に加えて、理想的な”反応場“の開発も重要なファクターの1つです。加えて、環境問題への注目が集まる昨今、廃棄物をできる限り排出しないクリーンな合成法がより求められています。
「不均一触媒型カラムだけを用いた連続フロー法による医薬有効成分rolipramの不斉合成」を報告しました。
超分子ポリマーを精密につくる
“A rational strategy for the realization of chain-growth supramolecular polymerization”
Kang, J.; Miyajima, D.; Mori, T.; Inoue, Y.; Itoh, Y.; Aida, T Science 2015, 347, 646. DOI:10.1126/science.aaa4249
理研の創発物性科学研究センター創発ソフトマター機能研究グループの宮島大吾研究員、相田卓三グループディレクター(東大院工・教授)と姜志亨大学院生(東大院工)、阪大工学研究科の井上佳久教授らの共同研究グループによる研究成果
超分子ポリマーの合成上の問題の1つとして、長さや大きさ(分子量分布)を揃えたポリマーを精密につくることは困難であることが挙げられます。この問題に対して、解決の糸口をみつけた研究です。
スターバースト型分子、ヘキサアリールベンゼン合成の新手法
“Synthesis and characterization of hexaarylbenzenes with five or six different substituents enabled by programmed synthesis”
Suzuki, S.; Segawa, Y.; Itami, K.; Yamaguchi, J.
Nature Chem.2015 AOP DOI: 10.1038/nchem.2174
ベンゼンの水素が6つすべてアリール基で置換された「ヘキサアリールベンゼン」はアリール基を変えることで驚くべき構造多様性を有します。今回C-Hカップリング反応などを駆使して「4つの異なるアリール基をもつチオフェン」を合成し、チオフェン誘導体とジアリールアセチレンとのDiels-Alder反応を用いることにより6つのアリール基がすべて異なるヘキサアリールベンゼンをはじめて合成することに成功しました。
2014年
ナノ孔に吸い込まれていく分子の様子をスナップショット撮影!
“In situ X-ray snapshot analysis of transient molecular adsorption in a crystalline channel”
Kubota, R.; Tashiro, S.; Shiro, M.; Shionoya, M. Nat. Chem. 2014, 6, 913. DOI: 10.1038/NCHEM.2044
東京大学塩谷光彦教授・田代省平助教らのグループによる研究結果
塩谷教授らは独自開発した多孔性結晶MMF (下図)[1]における吸着~分析の実験手順を精密に組み上げることにより、この観測困難な吸着過程を鮮明に捉えています。
ベンゼン環が壊れた?!ー小分子を活性化するー
“Carbon-carbon bond cleavage and rearrangement of benzene by a trinuclear titanium hydride”
Hu, S.; Shima, T.; Hou, Z. Nature, 2014, 512, 413 DOI:10.1038/nature13624
理研侯教授による研究結果
「水素化化合物による低温でのベンゼン環の切断」です。世界で初めて室温レベルでベンゼン環の二重結合を切断した今回の成果。その意義、歴史的経緯、詳細、今後の展開と4つに分けてご紹介しましょう。
究極のナノデバイスへ大きな一歩:分子ワイヤ中の高速電子移動
“Electron transfer through rigid organic molecular wires enhanced by electronic and electron-vibration coupling”
Sukegawa, J.; Schubert, C.; Zhu, X.; Tsuji, H.; Guldi, D. M.; Nakamura, E. Nat. Chem.2014, doi:10.1038/nchem.2026
東京大学の中村栄一教授・辻准教授らによる研究結果
π共役平面を持つ有機分子を分子ワイヤとして用い、ワイヤ中の電子移動速度が常温・溶液状態で従来の840倍程度まで加速されることを発見しました。常温で働く分子ワイヤとしては初めての例になります。
有機硫黄ラジカル触媒で不斉反応に挑戦
“An organic thiyl radical catalyst for enantioselective cyclization”
Hashimoto, T.; Kawamata, Y, Maruoka, K. Nat. Chem. 2014, 6, 702 DOI:10.1038/nchem.1998
京都大学の丸岡啓二教授らによる研究結果
「有機硫黄ラジカル」を用いたユニークな不斉触媒反応に挑戦し、「脱イオン反応」を達成しましたので紹介したいと思います。
酸化反応条件で抗酸化物質を効率的につくる
High-turnover hypoiodite catalysis for asymmetric synthesis of tocopherols
Uyanik, M.; Hayashi, H.; Ishihara, K. Science, 2014, 345, 291. DOI:10.1126/science.1254976
名古屋大学の石原一彰教授らによる研究成果
触媒として金属を用いない脱水素型カップリング反応で光学活性なクロマン類の大量供給可能な化学合成法を開発しました。
無限の可能性を合成コンセプトで絞り込むーリアノドールの全合成ー
Total Synthesis of Ryanodol
M. Nagatomo, M. Koshimizu, K. Masuda, T. Tabuchi, D. Urabe, M. Inoue, J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 5916. DOI 10.1021/ja502770n
東京大学井上教授らによる研究成果
最難関複雑分子の一つであるリアノドールの全合成です。
CO2の資源利用を目指した新たなプラスチック合成法
“Copolymerization of Carbon Dioxide and Butadiene via a Lactone Intermediate”
Nakano, R.; Ito, S.; Nozaki, K. Nature Chem. 2014, 6, 325. doi:10.1038/nchem.1882
東京大学の野崎京子教授らの研究成果
独自に考案した合成法を用い、CO2とブタジエンを重合させ、まったく新しい形の高分子材料(プラスチック)をつくる方法を開発することに成功しました。
2013年
生物に打ち勝つ人工合成?アルカロイド骨格多様化合成法の開発
Biogenetically inspired synthesis and skeletal diversification of indole alkaloids
Mizoguchi, H.; Oikawa, H.; Oguri, H. Nat. Chem.2013, 6, 57. DOI:10.1038/nchem.1798
北海道大学の大栗、及川教授らの研究成果
アルカロイド生合成の経路をフラスコ内で模倣して、同じ中間体から一挙に5種類の化合物群の作り分け(骨格多様化合成)に成功しました。
触媒のチカラで不可能を可能に?二連続不斉四級炭素構築法の開発
Ligand-enabled multiple absolute stereocontrol in metal-catalysed cycloaddition for construction of contiguous all-carbon quaternary stereocentres
Ohmatsu, K.; Imagawa, N.; Ooi, T. Nat. Chem. 2013, ASAP. DOI: 10.1038/nchem.1796
パラジウム錯体を触媒とする不斉環化付加反応による二連続不斉四級炭素構築の実現に挑み、独自の分子構築のアイデアと配位子設計“ion-paired ligand”[1]を駆使することによって見事につくり上げることに成功しました。
ナノグラムの油状試料もなんのその!結晶に封じて分子構造を一発解析!
X-ray analysis on the nanogram–microgram scale using porous complexes
Inokuma, Y.; Yoshioka, S.; Ariyoshi, J.; Arai, T.; Hitora, Y.; Takada, K.; Matsunaga, S.; Rissanen, K.; Fujita, M. Nature2013, 495, 461, doi:10.1038/nature11990
東京大学藤田教授・猪熊助教(現講師)らによる研究結果
科学的に一言で述べるなら「非結晶性化合物のX線結晶構造解析を可能にした」という報告になります。
構造解析に携わる研究者であれば100人が100人、のどから手が出るほど欲しがる技術の一つである一方、その実現自体はにわかに信じがたいものです。
一体全体、どのような発想がこれを可能にしたのでしょうか?
究極の二量体合成を追い求めて~抗生物質BE-43472Bの全合成
“Total Synthesis of the Antibiotic BE-43472B”
Yamashita, Y.; Hirano, Y.; Takada, A.; Takikawa, H.; Suzuki, K. Angew. Chem. Int. Ed.2013, 52, 6658. DOI: 10.1002/anie.201301591
東京工業大学鈴木教授らによる研究結果
難関二量体天然物の一種であるBE-43472Bの全合成が達成されました。2009年にNicolaouによる全合成が報告されて以来、2例目の全合成になります。
2011年
未踏の構造に魅せられて―ゲルセモキソニンの全合成
Total Synthesis of Gelsemoxonine
Shimokawa, J.; Harada, T.; Yokoshima, S.; Fukuyama, T. J. Am. Chem. Soc.2011, ASAP. DOI: 10.1021/ja208617c
東京大学(現名古屋大学)の福山教授らによる研究結果
未踏の課題に挑戦し、それを独創的発想で解決していく取り組みは、たとえ興味本位であったとしても先端的頭脳の凄みが十二分に感じられます。ゲルセモキソニンの全合成は、まさにそんな研究成果の一つといえるでしょう。