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ホウ素アート錯体の1,2-メタレート転位 1,2-Metallate Rearrangement

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ホウ素原子は空のp軌道を有することから、3配位と4配位両方の構造を安定的にとることができます。3配位のボランは求電子的に振る舞う一方、4配位のホウ素アート錯体(ボレート)は求核種としてはたらきます。これらのボレート上のアルキル基やヒドリドは、脱離しうる置換基がある場合、容易に1,2-メタレート転位を起こします。

身近なところでは、オレフィンのヒドロホウ素化反応で対応するアルコールを得る際においても、酸化過程の素反応として重要な役割を担っています。

過酸化水素の代わりにアミンオキシドを用いた場合も同様です[1][2]

 

また、Zweifel Olefinationにおいてもボレートの形成と転位が鍵となっており、形式的には無触媒下で鈴木-宮浦クロスカップリングとは相補的な幾何異性体を与える合成上有用な反応です。

各種の全合成に頻用されるMatteson reactionも同様のプロセスで進行します[3][4]

ホウ素上の置換基が同一でない場合にどの置換基が転位するかは反応に依存し、膨大な検討が行われています[1][2]

イリドの求核攻撃によって形成されたホウ素アート錯体は、分子内に脱離基を有することから、続く1,2-メタレート転位によって有用な有機ホウ素化合物を与えることが知られており、古くから研究されています[5][6][7]

 

転位反応は発エルゴン過程であり、特にヒドリドの転位では熱暴走につながるような激しい発熱が観測されます。その熱力学的挙動については、イリドを用いたDSC測定により詳細に検討されています。転位を起こしやすい置換基ほど著しく発熱的に進行することが示されています[7]

Aggarwalらはキラルな硫黄イリドをとボランを反応させることにより、生成するアルコールの立体選択性を制御することに成功しています[8][9]

近年ではラジカル機構で進行する転位反応の例も発見されており、1,2-転位にとどまらず多彩な生成物へのアプローチが可能となっています[10]

最近では、反応中間体のイリド-ボランアート錯体が安定に存在することを活かしたリビング重合を用いたポリマーの精密合成など、高分子化学の領域でも応用が進められており、今後の進展に目が離せません[11][12]

 

参考文献

[1] V. K. Aggarwal et al. Pure Appl. Chem., 2006, 78, 2, pp. 215-229.

http://dx.doi.org/10.1351/pac200678020215

[2] A. Bottoni et al. J. Org. Chem., 2003, 68, 9, 3397-3405.

https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jo026733e

[3] E. J. Corey et al. Tetrahedron, 1997, 8, 22, 3711-3713.

https://doi.org/10.1016/S0957-4166(97)00528-4

[4] M. Mark Midland et al. J. Org. Chem., 1998, 63, 4, 914-915.

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jo972041s

[5] T. Röder et al. Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 1981, 20, 1038-1039.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.198110381

[6] K. J. Shea. et al. Organometallics, 2003, 22, 1124-1131.

https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/om0208568

[7] K. J. Shea. et al. Tetrahedron, 2004, 424, 149-155.

https://doi.org/10.1016/j.tca.2004.05.024

[8] V. K. Aggarwal et al. Org. Biomol. Chem., 2008, 6, 1185-1189.

https://doi.org/10.1039/B718496D

[9] V. K. Aggarwal et al. J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 14632-14639.

https://doi.org/10.1021/ja074110i

[10] A. Studer et al. J. Am. Chem. Soc., 2021, 143, 9320-9326.

https://doi.org/10.1021/jacs.1c04217

[11] N. Hadjichristidis et al. Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 2019, 58, 6295-6299.

http://dx.doi.org/10.1002/anie.201901094

[12] N. Hadjichristidis et al. Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 2021, 60, 8431-8434.

http://dx.doi.org/10.1002/anie.202015217

 

関連書籍

S. Matteson et al. he Matteson Reaction. In Organic Reactions.

https://doi.org/10.1002/0471264180.or105.03

K. Aggarwal et al. Chem. Record, 2009, 9, 24-39.

https://doi.org/10.1002/tcr.20168

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化学メーカー勤務。学生時代は有機をかじってました⌬
電気化学、表面処理、エレクトロニクスなど、勉強しながら執筆していく予定です

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