シモン反応 (Simon reaction) は、覚醒剤の簡易的検出に用いられる有機反応。主に、脂肪族二級アミンであるメタンフェタミンや MDMA (メチレンジオキシメタンフェタミン) の検出に用いられる。シモンズ-スミス反応 (Simmons-Smith Reaction) とは異なる。
概要
発色機構の詳細は不明なようである[1]。
あくまでも簡易的な検出法であり、覚醒剤摂取者以外であっても、二級アミン構造を有する薬剤 (クロルプロマジンの代謝物など) の服用者も陽性反応を示すため、陽性者に関してはより精密な鑑別が求められる。関東化学より市販されているシモン反応試薬キットの使用プロトコルは以下の通り。
① 検体採取用さじで検体を数 mg 採取し、白色滴板の1穴に添加する。
② 検体に20%炭酸ナトリウム水溶液、1%ニトロプルシッドナトリウム水溶液、アセトアルデヒド+エタノール混合溶液を各1滴ずつ添加し、混合する。
③ 反応液の色を観察し、薬物を判定する。
元は赤橙色の試薬であるが、メタンフェタミン (二級アミン) が存在すると、青〜青藍色を呈する。検出限界は 10 μg 程度である。
二級アミンであっても、その呈色速度には差異が見られる (図1)。メタンフェタミン (図2) は即座に濃い青色を呈するが、エフェドリン類 (図2) の呈色は遅い[2]。
図1 シモン反応による薬物の呈色 |
図2 上図1の各薬物の構造式 |
薬剤師国家試験での出題例
本反応はメタンフェタミンの呈色反応として、薬剤師国家試験の衛生分野での問題に何度か出題されている。以下は第109回の必須問題より (正答はメタンフェンミンである1)。
ちなみに、2はアンフェタミン、3はモルヒネ、4はコカイン、5はテトラヒドロカンナビノールであり、いずれもシモン反応陰性である。
改良法の開発
偽陽性物質や、検査をすり抜けるためのメタンフェタミン誘導体を用いた巧妙な手口に対応するため、星薬科大学の 伊藤 里恵 講師のグループはシモン反応をベースとした改良法の開発に取り組んでいる。以下は、当該研究が日本薬学会第142年会学生優秀発表賞を受賞した際のプレスリリースの引用。
現在、我が国で最も乱用されている違法薬物は覚せい剤の一つであるメタンフェタミン (MA) であり、捜査現場における簡易検査にはシモン反応が用いられています。しかし、従来のシモン反応は脂肪族二級アミンの構造を持つ一部の類似化合物も陽性となり、これら偽陽性物質によって誤認鑑定を引き起こす恐れがありました。また、MAをtert-ブトキシカルボニル (t-Boc) 誘導体化した t-Boc-MA が密輸される事案が報告されており、これらは従来のシモン反応では陰性となるため、鑑定をすり抜ける恐れがありました。そこで本研究では、MA、偽陽性物質および t-Boc-MA を異同識別するために、分子インプリントポリマー (MIP) とシモン反応を組み合わせた固相誘導体化法を用いる系統的分析法を検討しました。
偽陽性物質にプロリン(Pro)、ヒドロキシプロリン(HYP)、N-メチルベンジルアミン塩酸塩 (NMe-BA) および N-イソプロピルベンジルアミン塩酸塩(NIP-BA)を選定しました。MA、各偽陽性物質およびt-Boc-MAをSupelMIP SPE-Amphetamines (MIP) に負荷し、塩基性水溶液で洗浄後、MIPにシモン試薬を加え、固相ゲルの色調を観察しました。その後、1%炭酸ナトリウム水溶液/メタノール混液 (7:3) で溶出した液 (第一段階溶出液) に再度シモン試薬を加え、色調の変化を観察しました。更にMIPを精製水で洗浄し、2 M塩酸をMIPに通した後、MIPを70℃の恒温槽で20分間加熱しました。その後、精製水で溶出した液 (第二段階溶出液) を塩基性 (pH約10) にした後、シモン試薬を加え、色調を観察しました。
その結果、Pro および HYP は固相ゲルの色調によって、NMe-BA と NIP-BA は第一段階溶出液の色調によって、それぞれ MA との異同識別が可能となりました。また第二段階溶出液の色調で t-Boc-MA の存在の有無を確認することが可能となりました。これらの結果を基に、MA と偽陽性物質の異同識別および t-Boc-MA の検出が可能となる系統分析法を構築しました。本研究で構築した方法を用いることで、MA 検出の定性確度を向上させ、偽陽性・偽陰性物質による誤認鑑定の発生を抑制できると考えられます。
“安部 武蔵さん(薬学科6年 薬品分析化学研究室 )が日本薬学会第142年会学生優秀発表賞を受賞しました”
星薬科大学プレスリリースより引用[2]
余談
シモン反応キットの構成物質であるニトロプルシッドナトリウムが医薬用外毒物に指定されており、使用には注意が必要である。
参考文献
[1] 厚生労働省科学研究成果データベース、覚せい剤取締法[2] 税関 Japan Customs, 覚せい剤原料の2,3 の呈色反応について
[3] 星薬科大学プレスリリース、2023年2月3日
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