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I

内部アルコキシ効果 Inside Alkoxy Effect

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概要

鎖状光学活性アリルエーテルのC=C二重結合に対して1,3-双極子付加環化が進行する場合、立体選択性が発現する。これを上手く説明するモデルとして、内部アルコキシ効果(Inside Alkoxy Effect)が提唱されている。

基本文献

  • Stork, G.; Kahn, M. Tetrahedron Lett. 1983, 24, 3951. doi:10.1016/S0040-4039(00)88233-7
  • Houk, K. N.; Moses, S. R.; Wu, Y. D.; Rondan, N. G.; Jager, V.; Schohe, R.; Fronczek, F. R. J. Am. Chem. Soc. 1984, 106, 3880. doi:10.1021/ja00325a040
  • Houk, K. N.; Rondan, N. G.; Wu, Y.-D.; Metz, J. T.; Paddon-Row, M. N.  Tetrahedron 1984, 40, 2257. doi:10.1016/0040-4020(84)80009-5
  • Cha, J. K.; Christ, W. J.; Kishi, Y. Tetrahedron 1984, 40, 2247. doi:10.1016/0040-4020(84)80008-3
  • Vedejs, E.; McClure, C. K. J. Am. Chem. Soc. 1986, 108, 1094. doi:10.1021/ja00265a048
  • Houk, K. N.; Dhu, H. Y.; Dong, Y.; Moses, S. R. J. Am. Chem. Soc. 1986, 108, 2754. doi:10.1021/ja00270a044
  • Raimondi, L.; Wu, Y.-D.; Brown, F. K.; Houk, K. N. Tetrahedron Lett. 1992, 33, 4409. doi:10.1016/S0040-4039(00)60096-5
  • Haller, J.; Strassner, T.; Houk, K. N. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 8031. doi:10.1021/ja971342g
  • Annunziata, R.; Benaglia, M.; Cinquini,M.; Cozzi, F.; Raimondi, L. Eur. J. Org. Chem. 1998, 1823. [abstract]
  • Raimondi, L.; Benaglia, M. Eur. J. Org. Chem. 2001, 1033. [abstract]
  • Patel, A.; Vella, J. R.; Ma, Z.-X.; Hsung, R. P.; Houk, K. N. J. Org. Chem. 2015, 80, 11888.  doi:10.1021/acs.joc.5b02085
<review>

開発の経緯

1983年にGilbert Storkらによってオスミウム酸化の系ではじめてモデルが提唱された。後の1984年にKendall Houkらによってニトリルオキシド1,3-双極子付加環化の系を用いた計算化学的裏付けがなされた。

Kendall N. Houk (1943-)

 

反応機構

1,3-アリル位反発による立体配座効果だけでは説明できないため、立体電子効果まで含めて理解する必要がある。

アルコキシ基のC-O σ*軌道がC=C π軌道と共鳴できる配座であるほど、アルケンが電子不足になるため、求電子剤との反応が進行しづらくなる。同じ理由から、置換基RのC-C σ軌道がC=C π軌道と共鳴できる配座であるほど、反応は進行しやすくなる。

これら軌道の重なりが成立しつつ立体反発を最小化できる配座がすなわち、置換基Rが二重結合平面と直交(anti)し、アルコキシ基が内部に向く(inside)配座となる。この配座において、置換基Rとの立体反発を避ける方向から反応剤が近づいてくる遷移状態を想定すると、立体選択性が説明される。

反応例

全合成への応用

Bromodanicalipin Aの合成[1]

(+)-Frondosin Aの合成[2]:Ru触媒を用いる[5+2]付加環化において、inside alkoxy modelを用いる立体選択性の説明が成されている(上段遷移状態が優勢)。

(画像は[2]より引用)

(+)-Citreoviralの全合成[3]:ヨードラクトン化の立体化学がinside alkoxy modelで説明されている。

参考文献

  1. Fischer, S.; Huwyler, N.; Wolfrum, S.; Carreira, E. M. Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 2555. doi:10.1002/anie.201510608
  2. Trost, B. M.; Hu, Y.; Horne, D. B. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 11781. doi:10.1021/ja073272b
  3. Murata, Y.; Kamino, T.; Aoki, T.; Hosookawa, S.; Kobayashi, S. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 3175. doi:10.1002/anie.200454212

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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