[スポンサーリンク]

B

ブンテ塩~無臭の含硫黄ビルディングブロック~

[スポンサーリンク]

ブンテ塩はR-S2O3の構造を持つ有機硫黄化合物(塩)の総称で、カテネーションを起こしたS-S結合を有しています。この特性を活かした有機硫黄化学の重要な合成中間体として、また、ラジカル重合開始剤や感光性染料、さらにはパーマの毛髪処理剤として注目されています。以下では代表的な合成法、反応と最近の研究、応用例をご紹介します。

ブンテ塩の構造

製法

・ハロゲン化アルキルとチオ硫酸塩のSN2反応[1]

合成例

1-ブロモブタンからの合成 [2]

・スルフェン酸クロリドと亜硫酸塩[3]

スルフェン酸クロリドからの合成

ハロゲン化アルキルと亜硫酸塩のSN2反応では調製不能な芳香族ブンテ塩も合成できることが特徴です。

反応

・S原子上での求核置換

Na[O3S2R] + NaSR’ → RSSR’ + Na2SO3

ブンテ塩とチオラートとの反応[1]

→チオラートを作用させることにより、合成法の限られる非対称ジスルフィドを簡便に調製可能です。

ほかの求核剤とも反応します。たとえばシアン化物イオンCNと反応してチオシアン酸エステルを与えます[4]。

ブンテ塩の合成とシアン化合物イオンとの反応

・加水分解

加水分解

酸触媒下での加水分解によって対応するチオールへ変換されます。

・酸化

過酸化水素による酸化 [2]

ヨウ素や過酸化水素などの穏和な酸化剤によりジスルフィドを与えます。

より強力な硝酸ではスルホン酸、塩素ではスルホン酸クロリドまで酸化されます。

・チオアセタール化[5]

アルデヒドとの反応

ブンテ塩は無臭のチオール等価体としてふるまい、穏和な条件でアルデヒドのチオアセタール化に用いることができます。

最近の進展

・ヨウ素触媒下でインドール誘導体の3-位にスルフィドを導入できます[6]。

(画像:[6])

・悪臭のないチオール等価体として、エノンへのマイケル付加に利用された[7]ほか、アルケンへの付加[8]も報告されています。

(画像:[7])

(画像:[8])

・同じく臭気のないチオール等価体という特性を活かし、モノフルオロメチル化剤として利用されました[9]。

(画像:[9])


応用

・ラジカル重合開始剤

ある種のブンテ塩は光によってS-S結合がホモリティックに解列するため、ラジカル重合開始剤としての利用が検討されました[10]。

ブンテ塩の光分解(画像:[10])

・染料

感光性染料としての利用が検討されました[11]。

・パーマ

パーマ(縮毛矯正)に用いる毛髪処理剤には、従来人体に有害なホルムアルデヒドとグリオキシル酸が用いられてきましたが、近年ブンテ塩を利用する手法が開発されています[12]。

 

参考文献

*総説 Current Organocatalysis, 2018, 5, 182-195. DOI : 10.2174/2213337206666181122101209

  1. Org. Synth. 58: 147. doi:10.15227/orgsyn.058.0147
  2. J. Am. Chem. Soc.”. 64, s. 149-150, 1942. DOI10.1021/ja01253a040
  3. J. Org. Chem.”. 20, s. 475-487, 1955. DOI10.1021/jo01122a010
  4. Siegfried HauptmannOrganische Chemie, 2. durchgesehene Auflage, VEB Deutscher Verlag für Grundstoffindustrie, Leipzig, 1985, S. 470, ISBN 3-342-00280-8.
  5. J. Am. Chem. Soc.”. 63, s. 658-659, 1941. DOI10.1021/ja01848a007
  6. J. Org. Chem. 2016, 81, 10, 4262–4268. https://doi.org/10.1021/acs.joc.6b00636
  7. RSC Adv., 2015, 5, 27107-27111. https://doi.org/10.1039/C5RA01381J
  8. Synlett 2017, 28,A-F. DOI: 10.1055/s-0036-1588144
  9. Org. Lett. 2018, 20, 19, 6270–6273. https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.orglett.8b02753
  10. 工業化学雑誌, 1970, 73 巻, 4 号, p. 805-811. https://doi.org/10.1246/nikkashi1898.73.4_805
  11. Bulletin of the Chemical Society of Japan 1973, Vol.46, No.5, 1509-1511. https://doi.org/10.1246/bcsj.46.1509
  12. 特表2020-515568

関連書籍

[amazonjs asin=”4759814167″ locale=”JP” title=”現代有機硫黄化学: 基礎から応用まで (DOJIN ACADEMIC SERIES)”] [amazonjs asin=”4759800913″ locale=”JP” title=”有機硫黄化学 (合成反応編)”]
gaming voltammetry

berg

投稿者の記事一覧

化学メーカー勤務。学生時代は有機をかじってました⌬
電気化学、表面処理、エレクトロニクスなど、勉強しながら執筆していく予定です

関連記事

  1. ベンジルオキシカルボニル保護基 Cbz(Z) Protectin…
  2. フォン・ペックマン反応 von Pechmann Reactio…
  3. ダルツェンス縮合反応 Darzens Condensation
  4. デミヤノフ転位 Demjanov Rearrangement
  5. コールマン試薬 Collman’s Reagent
  6. ノッシェル・ハウザー塩基 Knochel-Hauser Base…
  7. キャロル転位 Carroll Rearrangement
  8. ストレッカーアミノ酸合成 Strecker Amino Acid…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 凸版印刷、有機ELパネル開発
  2. ダフ反応 Duff Reaction
  3. 阪大で2億7千万円超の研究費不正経理が発覚
  4. 富山化学 新規メカニズムの抗インフルエンザ薬を承認申請
  5. 第32回フォーラム・イン・ドージン ~生命現象に関わる細胞外小胞の多彩な役割~ 主催:同仁化学研究所
  6. 本多 健一 Kenichi Honda
  7. ヴィ·ドン Vy M. Dong
  8. 求電子的インドール:極性転換を利用したインドールの新たな反応性!
  9. 「MI×データ科学」コース実施要綱~データ科学を利用した材料研究の新潮流~
  10. ホウ素の力でイオンを見る!長波長光での観察を可能とするアニオンセンサーの開発

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年3月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

2024年の化学企業グローバル・トップ50

グローバル・トップ50をケムステニュースで取り上げるのは定番になっておりましたが、今年は忙しくて発表…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP