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ベックマン開裂 Beckmann Fragmentation

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概要

ケトキシムのN-O開裂を駆動力としてカチオン性転位を進行させる反応(ベックマン転位)において、オキシムα位置換基がカルボカチオンを安定化させる場合、ニトリルとカルボカチオンを与える開裂反応が競合する。これをベックマン開裂(Beckmann Fragmentation)と呼ぶ。カルボカチオンはE1脱離もしくは求核剤捕捉によって様々な化合物へと変換される。

基本文献

<Review>

開発の経緯

1886年にBeckmann転位の副反応としてはじめて報告され、1890年にO. Wallachによって最適化された条件が報告された。

反応機構

α位が4級炭素・ヘテロ原子(O, S, N)置換の場合には、α-カルボカチオンが安定化されるために、開裂が促進されやすくなる。β位にケイ素やスズが存在する場合にも優先する。転位によって化合物構造に歪みが生じる(熱力学的不利な)場合にも開裂が優先する。

反応例

カルボカチオン中間体の捕捉

三フッ化ジエチルアミノ硫黄(DAST)由来のフッ素アニオンによって捕捉される系[1]。

塩素で捕捉する形式[2]

カルボカチオンを脱離能のあるルイス塩基で捕捉し、引き続く有機金属試薬との反応へと供する系[3]

ケイ素およびスズ配向型形式

βケイ素配向型Beckmann開裂[4]

βスズ配向型Beckmann開裂[5]

全合成への応用

(±)-byssochlamic acidの合成[6]

(+/-)-modhepheneの合成[7]:α位酸素原子が開裂をアシストする。

(−)-elegansidiolの合成[8]

昆虫フェロモンの合成[9] : ケイ素配向型のBeckmann開裂。

関連動画

参考文献

  1. Kirihara, M.; Niimi, K.; Momose, T. Chem. Commun. 1997, 6,  599. doi:10.1039/a607749h
  2. Błaszczyk, K.; Koenig, H.; Mel, K.; Paryzek, Z. Tetrahedron 2006, 62, 1069. doi:10.1016/j.tet.2005.11.005
  3. (a) Fujioka, H.; Matsumoto, N.; Ohta, R.; Yamakawa, M.; Shimizu, N.; Kimura, T.; Murai, K. Tetrahedron Lett. 2015, 56, 2656. doi:10.1016/j.tetlet.2015.03.089 (b) Fujioka, H.; Matsumoto, N.; Kuboki, Y.; Mitsukane, H.; Ohta, R.; Kimura, T.;  Murai, K. Chem. Pharm. Bull. 2016, 64, 718. doi:10.1248/cpb.c16-00006
  4. Nishiyama, H.; Sakuta, K.; Osaka, N.; Arai, H.; Matsumoto, M.; Itoh, K. Tetrahedron 1988, 44, 2413.  doi:10.1016/S0040-4020(01)81693-8
  5. Bakale, R. P.; Scialdone, M. A.; Johnson, C. R. J. Am. Chem. Soc. 1990, 112, 6729. doi:10.1021/ja00174a053
  6. Stork, G.; Tabak, J. M.; Blount, J. F. J. Am. Chem. Soc. 1972, 94, 4735. doi:10.1021/ja00768a055
  7. Laxmisha, M. S.; Subba Rao, G. S. R. Tetrahedron Lett. 2000, 41, 3759. doi:10.1016/S0040-4039(00)00486-X
  8. Cao, L.; Sun, J.; Wang, X.; Zhu, R.; Shi, H.; Hu, Y. Tetrahedron 2007, 63, 5036. doi:10.1016/j.tet.2007.03.123
  9. Nishiyama, H.; Sakuta, K.; Itoh, K. Tetrahedron Lett. 1984, 25, 223. doi:10.1016/S0040-4039(00)99845-9

関連反応

外部リンク

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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