α-ハロケトンにピリジンを作用させて得られるピリジニウム塩、 α,β-不飽和カルボニル化合物、およびアンモニアの三成分縮合によりピリジンが得られる。
基本文献
- Zecher, W.; Kröhnke, F. Chem. Ber. 1961, 94, 690–697. DOI: 10.1002/cber.19610940317
- Zecher, W.; Kröhnke, F. Chem. Ber. 1961, 94, 707–712. DOI: 10.1002/cber.19610940319
Review
- Kröhnke, F. Synthesis 1976, 1–24. DOI: 10.1055/s-1976-23941
反応機構
原料の α-(1-ピリジル)ケトンは、α-ハロケトンとピリジンの SN2 反応により調製する。
このピリジニウム塩のメチレン部位はエノール化しやすく、活性メチレンとみなせる1。すなわち、求核剤として作用し、α,β-不飽和カルボニル化合物に対し共役付加する。続くプロトン移動により 1,5-ジケトンが形成されるが、これは単離されずにアンモニアと二度の縮合反応を起こす。その際、途中でピリジニウム塩が脱離するため芳香族系が完成し、ピリジンを与える。
特徴
- ピリジン環を完成させるための酸化が不要
ピロール、フラン、およびチオフェンのような 5 員環の芳香族ヘテロ環化合物は、1,4-ジケトンにヘテロ原子源を作用させるだけで得られる (Paal-Knorr 型ヘテロ環合成)。しかし 6 員環化合物であるピリジンの場合、単純に 1,5-ジケトンに窒素原子源を縮合させるだけでは芳香族系が完成しない問題が存在する。そのため、たとえば Hantzsch の方法では、ピリジンを得るためにジヒドロピリジンを酸化する必要がある。
Kröhnke ピリジン合成では、1-ピリジル基が追加の二重結合を形成するための脱離基となる (上述の反応機構を参照)。そのため、ピリジン環を完成させるための酸化工程が不要となる。
- 種々の置換基を持つ 2,4,6-三置換ピリジンを合成可能
下の反応スキームで示されるように、この反応は 2,4,6-三置換ピリジンを与える。特に、トリアリールピリジンやオリゴピリジンの合成に有用である。導入できるアリール基はベンゼン環、ピリジル基、2-チエニル基、2-フリル基など幅広い。さらに、変法を利用すれば NH2 基や SH 基の導入も可能である (後述する)。
- アセチル基を 2–3 工程で 2-ピリジル基へ変換
ピリジニウム塩の前駆体である α-ハロケトンは、アセチル基のハロゲン化により調製できる。したがって見方を変えると、アセチル基を (1) ハロゲン化、(2) ピリジニウム化 、そして (3) ピリジン化の計 3 工程で 2-ピリジル基に変換したことになる。なお、アセチル基にヨウ素とピリジンを作用させることによって、直接ピリジニウム塩を得ることもできる (Ortoleva-King 反応)2。これを利用すれば、アセチル基を 2 工程で 2-ピリジル基へ変換できる。
- 非対称ピリジンに対して 2 通りの合成経路を提案可能
例えば下のスキームに示すような非対称ピリジンを合成したい場合には、メチル基を持つピリジニウム塩を利用するか (このとき、フェニル基を持つ α,β-不飽和ケトンを使う)、フェニル基を持つピリジニウム塩を利用するか (このとき、メチル基を持つ α,β-不飽和ケトンを使う) のどちらかを選ぶことができる。実際には、一方の経路では収率が低くなることはある。
いくつかの変法
二置換ピリジンの合成
2,6-二置換ピリジンを合成したい場合、Michael 受容体として無置換の α,β-不飽和ケトンを利用するか、Mannich 塩基を利用してそれを系中で発生させる。また、2,4-二置換ピリジンを得るには、6 位にカルボン酸を持つピリジンを合成してから脱炭酸するとよい。
四置換ピリジンの合成
四置換ピリジンの合成も不可能ではないが、収率は低くなる。その場合は、下のスキームのように α,β-不飽和カルボニル化合物の α 位にあらかじめ置換基を導入しておく。
逆に言えば、ピリジウム塩の α 位に置換基を仕込んでおくことはできない。もしそのようなピリジニウム塩を利用した場合、共役付加は上手くいくが、つぎにアシル基が切断されるため、ピリジン形成は起こらない。
ピリジニウム塩の前駆体に、メチルケトン以外を利用する
ピリジニウム塩の前駆体を工夫すれば、アリール基以外の置換基も導入できる。具体的には、α-ハロニトリルあるいは α-ハロジオチオエステルを用いることで、それぞれ 2-アミノピリジンあるいは 2-スルファニルピリジンが得られる。これらの反応では、環外に伸びた C=X 二重結合の互変異性により環内に二重結合が導入される。
ピリドンの合成も可能である。それを行うには α-ハロエステルから得たピリジニウム塩を利用する。反応機構の要点は次の通りで、最後の環化の段階において脱水縮合ではなく付加脱離反応が進行する。上述したジチオエステルを利用した例では互変異性によりピリジンへ変換されたこととは対照的に、この場合はピリドンが単離できる。
反応例 –オリゴピリジンの合成–
Kröhnke ピリジン合成を利用してオリゴピリジンを合成するためには、単純に考えると次の 2 つの戦略が考えられる。
アセチルピリジン由来のピリジニウム塩を利用する
ピリジン環をもつ α,β-不飽和カルボニル化合物を利用する
この戦略により下のスキームのように、ビピリジン、テルピリジン、分岐状クアテルピリジンを構築できる。
ここではそれ以外の方法によりオリゴピリジンを合成する方法を紹介する。
ビピリジンの合成
ブタン-2,3-ジオンとアルデヒドとのアルドール反応により双頭の α,β-不飽和カルボニル化合物を調製する。これに 2 当量のピリジニウム塩を作用させると、Kröhnke ピリジン合成が 2 回進行し、ビピリジンが得られる。
テルピリジンの合成
上述した Ortoleva-King 反応により、2,6-ジアセチルピリジンからビスピリジニウム塩を調製する。これに 2 当量の α,β-不飽和カルボニル化合物を作用させると、テルピリジンが得られる。
クアテルピリジンの合成
双頭の α,β-不飽和カルボニル化合物に、2 当量のアセチルピリジン由来のピリジニウム塩を縮合させると、クアテルピリジンが形成される。
キンクエピリジンの合成
Mannich 反応により、2,6-ジアセチルピリジンから Mannich 塩基を調製する。これに 2 当量のアセチルピリジン由来のピリジニウム塩を作用させると、キンクエピリジンが得られる。
シクロセキシピリジンの合成4
カップリング反応により直線状セキシピリジンの両端を閉環する手法はうまくいかなかった。種々検討した結果、キンクエピリジンから Kröhnke ピリジン合成を用いて 6 つ目のピリジン環を構築しつつ閉環する手法により、シクロ 2,2’:4,’4’’:2’’,2’’’:4’’’,4’’’’:2’’’’,2’’’’’:4’’’’’,4-セキシピリジンが合成された。
この反応では、反応性が高い α,β-不飽和アルデヒドをアセタール保護しておき、系中で脱保護して、それを利用するという変法を利用している。系中でゆっくりと α,β-不飽和アルデヒドが発生したため分子間反応が抑制され、分子内反応による閉環が効率的に進行したものと考えられている。
参考文献
- Kröhnke, F. Angew. Chem., Int. Ed. 1963, 2, 225–238. DOI: 10.1002/anie.196302251
- King, L. K. J. Am. Chem. Soc. 1944, 66, 894–895. DOI: 10.1021/ja01234a015
- Kröhnke Pyridine Synthesis. In Comprehensive Organic Name Reaction and Reagents [online]; Wang, Z. Ed.; 2010, Chapter 379, pp 1965–1968. DOI: 10.1002/9780470638859.conrr379
- Kelly, T. R.; Lee, Y.-J.; Mears, J. R. J. Org. Chem. 1997, 62, 2774–2781. DOI: 10.1021/jo962236k
- 本記事の反応例は、特に明記していない限りこのレビューから引用した: Kröhnke F. Synthesis 1976, 1–24. DOI: 10.1055/s-1976-23941
関連反応
- 有機反応を俯瞰する –縮合反応
- 有機反応を俯瞰する –Mannich 型縮合反応
- 有機反応を俯瞰する –ヘテロ環合成: C—C 結合で切る
- クネーフェナーゲル縮合 Knoevenagel Condensation
- マイケル付加 MIchael Addition
- ハンチュ ジヒドロピリジン合成 Hantzsch Dihydropyridine Synthesis
- パール·クノール ピロール合成 Paal-Knorr Pyrrole Synthesis
- ボールマン·ラーツ ピリジン合成 Bohlmann-Rahtz Pyridine Synthesis
- Ortoleva-King-reactie [外部リンク: Wikipedia (オランダ語)]