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N末端選択的タンパク質修飾反応 N-Terminus Selective Protein Modification

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N末端はタンパク鎖の中で1箇所しか存在しないため、これを標的とする修飾反応は必然的に高い位置・化学選択的を実現でき、均質な修飾体を与える事が出来る。また、修飾に伴う高次構造への影響も少ない。加えておよそ80%のタンパク質においては、N末端がタンパク表面に露出している。このため活用可能機会も多くなる。

しかしながら多くの場合、適用可能なアミノ酸種に制限があったり、結合が不安定であったりなどの問題もある。応用目的に照らし合わせて、適切な修飾法を選ぶことが重要となる。

基本文献

<Review>
<Chemist’s Guide>

反応例

大きく分けて以下のとおり分類される。

1)pH制御による手法

N末端アミノ基とリジン側鎖アミノ基は生理的条件下でともにプロトン化されているが、カルボニルの誘起効果のためそのpKa値が異なる[1]。このため、溶媒を適切なpHに設定して反応を行なうことで、これらを区別してN末端選択的な修飾が行なえる。アシル化、還元的アミノ化[2]、アジド転移[3]、ケテン付加[4]などが報告されている。末端のアミノ酸種を選ばずおこなえるのが利点。

2)アミノ酸側鎖を関与させる手法

N末端のCys, Ser, Thr, Trpなどは側鎖の巻き込みを介した環化反応、もしくは構造特異的反応に附すことができる。このため N末Cysについては自然界にほとんど存在しないため、多くは遺伝子操作技術によって導入する必要がある。

Cys: Native Chemical Ligationについては別項を参照。アルデヒドとのチアゾリジン形成法[5]は酸性pHと過剰量の試薬が必要であり、結合の可逆性が問題となる。この観点はo-B(OH)2-benzaldehydeの使用で解決出来る[6]。2-シアノベンゾチアゾール(CBT)との反応も、普通のCys側鎖との結合が可逆となるため、N末端選択的に進行する[7]。

Trp: Pictet-Spengler環化形式で末端選択的反応が進行する[8]。

Ser/Thr:Cysと類似の形式でオキサゾリジン型修飾が行えるものの、加水分解耐性が低いという問題がある。このため、NaIO4酸化などによってアルデヒドを露出させ、オキシムリゲーションなどの足がかりにする方法が一般的に用いられる[9]。ただし、NaIO4による他残基の酸化的損傷には注意が必要。

3)N末酸化によるカルボニルの露出→オキシム/ヒドラゾンリゲーション

Ser/Thrに限定せずN末端に活性カルボニルを露出させる方法として、アルデヒド試薬によるトランスアミネーション反応が活用されている。ピリドキサール-5’-リン酸(PLP)[10]やRapoport Salt[11]がこの目的にはよく用いられ、またNaIO4酸化よりも穏和である。ただし、特定のアミノ酸配列(AKT配列)が収率向上の為には重要である。オキシム/ヒドラゾンはそれぞれ加水分解に対する安定性に差があるので、留意する必要がある[12]。

4)その他の化学的手法

イミダゾリジノン形成法[13]、Proを標的とする酸化的修飾法[14]が知られている。前者の方法は結合に可逆性がある。後者の方法では、unpaird Cysとも反応しうるので予めジスルフィドとして保護しておく必要がある。

5) 酵素的手法

穏和な生体適合条件で行えることが最大の特徴。

Sortase A(SrtA)を用いる方法[15]:もっともよく使われる手法の一つ。LPXTG配列を認識し、オリゴGly配列とペプチド交換を起こす酵素反応を活用する。反応は可逆であり、酵素の接近しやすさによっても変換効率は変わりうる。

N-ミリストイルトランスフェラーゼ(NMT)を用いる手法[16]:N末にGXXXS/T(K)配列を持つペプチドを認識し、ミリスチン酸を付加させる酵素反応を活用する方法。生体共役反応への実用には、末端にアジドもしくはアルキンをもつカルボン酸を縮合させる形式を用いる。

Subtiligaseを用いる手法[17]:プロテアーゼSubtilisinの変異導入によりリガーゼとした酵素を用いる。N末端選択的な修飾が可能。

Butelase 1を用いる手法[18]:SrtAと同じく可逆であるため、反応剤は過剰量必要となっていたが、チオエステル基質を用いることで問題が解決されることが分かっている。

参考文献

  1. Sereda, T. J.;  Mant, C. T.; Quinn, A. M.; Hodges, R. S. J. Chromatogr. 1993, 646, 17. doi:10.1016/S0021-9673(99)87003-4
  2. Chen, D.; Disotuar, M. M.; Xiong, X.; Wang, Y.; Chou, D. H.-C. Chem. Sci. 2017, 8, 2717. doi:10.1039/C6SC04744K
  3. Schoffelen, S.; van Eldijk, M. B.; Rooijakkers, B.; Raijmakers, R.; Heck, J. R.; van Hest, J. C. M. Chem. Sci. 2011, 2, 701. doi:10.1039/C0SC00562B
  4. Chan, A. O.-Y.; Ho, C.-M.; Chong, H.-C.; Leung, Y.-C.; Huang, J.-S.;  Wong, M.-K.; Che, C.-M. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 2589. DOI: 10.1021/ja208009r
  5. Zhang, L.; Tam, J. P. Anal. Biochem. 1996, 233, 87. DOI: 10.1006/abio.1996.0011
  6. (a) Bandyopadhyay, A.; Cambray, S.; Gao, J. Chem. Sci. 2016, 7, 4589. doi:10.1039/C6SC00172F (b) Faustino, H.; Silva, M. J. S. A.; Veiros, L. F.; Bernardes, G. J. L.; Gois, P. M. P. Chem. Sci. 2016, 7, 5052. doi:10.1039/C6SC01520D
  7. Ren, H.; Xiao, F.; Zhan, K.; Kim, Y.-P.; Xie, H.; Xia, Z.; Rao, J. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 2009, 48, 9658. DOI: 10.1002/anie.200903627
  8. Li, X.; Zhang, L.; Hall, S. E.; Tam, J. P. Tetrahedron Lett. 2000, 41, 4069. doi:10.1016/S0040-4039(00)00592-X
  9. (a) Geoghegan, K. F.; Stroh, J. G. Bioconjugate Chem. 1992, 3, 138. DOI: 10.1021/bc00014a008  (b) Chen, J. K.; Lane, W. S.; Brauer, A. W.; Tanaka, A.; Schreiber, S. L. J. Am. Chem. Soc. 1993, 115, 12591. DOI: 10.1021/ja00079a051
  10. (a) Snell, E. E. J. Am. Chem. Soc. 1945, 67, 194. DOI: 10.1021/ja01218a013 (b) Dixon, H. B. F.; Fields, R. Methods Enzymol. 1972, 25, 409. doi: 10.1016/S0076-6879(72)25036-4 (c) Gilmore, J. M.; Scheck, R. A.; Esser-Kahn, A. P.; Joshi, N. S.; Francis, M. B. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 2006, 45, 5307. DOI: 10.1002/anie.200600368 (d) Witus, L. S.; Moore, T.; Thuronyi, B. W.; Esser-Kahn, A. P.; Scheck, R. A.; Iavarone, A. T.; Francis, M. B. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 16812. DOI: 10.1021/ja105429n
  11.  (a) Witus, L. S.; Netirojjanakul, C.; Palla, K. S.; Muehl, E. M.; Weng, C.-H.; Iavarone, A. T.; Francis, M. B. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 17223. DOI: 10.1021/ja408868a (b) Palla, K. S.; Witus, L. S.; Mackenzie, K. J.; Netirojjanakul, C.; Francis, M. B. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 1123. DOI: 10.1021/ja509955n
  12. Kalia, J.; Raines, R. T. Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 7523. DOI: 10.1002/anie.200802651
  13. MacDonald, J. I.; Munch, H. K.; Moore, T.; Francis, M. B. Nat. Chem. Biol. 2015, 11, 326. doi:10.1038/nchembio.1792
  14. Obermeyer, A.; Jarman, J. B.; Francis, M. B. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 9572. DOI: 10.1021/ja500728c
  15. (a) Antos, J. M.; Chew, G.-L.; Guimaraes, C. P.; Yoder, N. C.; Grotenbreg, G. M.; Popp, M. W.-L.; Ploegh, H. L. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 10800. DOI: 10.1021/ja902681k (b) Williamson, D. J.; Fascione, M. A.; Webb, M. E.; Turnbull, W. B. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 2012, 51, 9377. DOI: 10.1002/anie.201204538 (c) Theile, C. S.;  Witte, M. D.; Blom, A. E. M.; Kundrat, L.; Ploegh, H. L.; Guimaraes, C. P. Nat. Protoc. 2013, 8, 1800. doi:10.1038/nprot.2013.102
  16. (a) Hang, H. C.; Geutjes, E.-J.; Grotenbreg, G.; Pollington, A. M.; Bijlmakers, M. J.; Ploegh, H. L. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129,  2744. DOI: 10.1021/ja0685001 (b) Charron, G.; Zhang, M. M.; Yount, J. S.; Wilson, J.; Raghavan, A. S.; Shamir, E.; Hang, H. C. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 4967. DOI: 10.1021/ja810122f (c) Heal, W. P.; Wright, M. H.; Thinon, E.; Tate, E. W. Nat. Protoc. 2012, 7, 105. doi:10.1038/nprot.2011.425
  17. Abrahmsen, L.; Tom, J.; Burnier, J.; Butcher, K. A.; Kossiakoff, A.;  Wells, J. A. Biochemistry 1991, 30, 4151. DOI: 10.1021/bi00231a007
  18. (a) Nguyen, G. K. T.; Wang, S.; Qiu, Y.; Hemu, X.; Lian, Y.; Tam, J. P. Nat. Chem. Biol. 2014, 10, 732. doi:10.1038/nchembio.1586 (b) Nguyen, G. K.T .; Cao, Y.; Wang, W.; Liu, C. F.; Tam, J. P. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 2015, 54, 15694. DOI: 10.1002/ange.201506810

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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