[スポンサーリンク]

D

デヒドロアラニン選択的タンパク質修飾反応 Dha-Selective Protein Modification

[スポンサーリンク]

デヒドロアラニン(dehydroalanine, Dha)はセリンもしくはシステインから誘導される特殊アミノ酸であり、Michaelアクセプター構造をしているため、タンパク質の修飾起点として有効活用出来る。すなわち、ほとんどのアミノ酸残基は求核剤もしくはラジカルに対して不活性であるため、これらを作用させることで、選択的に翻訳後修飾されたタンパク質を合成できる。

基本文献

<Installation of Dha>
  • Chalker, J. M.; Gunnoo, S. B.; Boutureira, O.; Gerstberger, S. C.; Fernández-González, M.; Bernardes, G. J. L.; Griffin, L.; Hailu, H.; Schofield. C. J.; Davis, B. G. Chem. Sci. 2011, 2, 1666. DOI: 10.1039/c1sc00185j
<Review>

デヒドロアラニンの生成法

自然界では酵素的なセリン残基の脱水によって生成される[1]が、化学的には反応性の高いシステイン残基の脱硫によって調整される。様々な試薬が開発されているが、Davisらによるテトラヒドロチオフェニウム塩を経由する手法[2]はもっとも簡便に行える一つである。

以前報告されているMSH試薬による手法[3]では、アミノ基がしばしば脱アミノ化されてしまうなど、交差反応性の観点で問題がある[2]。

デヒドロアラニンへの反応例

ほとんどのケースでは反応性の高いチオールのマイケル付加が選定される。以下はその典型事例[4]。

ただ上記条件は反応後には必ずチオエーテル部位が残ってしまうことが問題であり、自然界で見られるようなnativeな翻訳後修飾を再現することが難しい。この観点から、炭素ラジカルの1,4-付加を鍵としたC-C結合形成型の修飾法が確立された[5]。

金属触媒を用いる変換も検討されているが、官能許容性などがしばしば問題となるため、アミノ酸・ペプチドレベルに適用がとどまっている。下記はロジウム触媒によるアリールボロン酸1,4-付加の実施例[6]である。ボリル化/シリル化なども可能性のある変換とされている[7]。金属酵素(p450)を用いることでシクロプロパン化なども行える[8]。

参考文献

  1. Repka, L. M.; Chekan, J. R.; Nair, S. K.; van der Donk, W. A. Chem. Rev. 2017, 117, 5457. DOI: 10.1021/acs.chemrev.6b00591
  2. (a) Chalker, J. M.; Gunnoo, S. B.; Boutureira, O.; Gerstberger, S. C.; Fernández-González, M.; Bernardes, G. J. L.; Griffin, L.; Hailu, H.; Schofield. C. J.; Davis, B. G. Chem. Sci. 2011, 2, 1666. DOI: 10.1039/c1sc00185j (b) Okamoto, R.; Souma, S.; Kajihara, Y. J. Org. Chem. 2009, 74, 2494. DOI: 10.1021/jo8026164
  3. Bernardes, G. J. L.; Chalker, J. M.; Errey, J. C.; Davis, B. G. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 5052. DOI: 10.1021/ja800800p
  4. Chalker, J. M.; Lercher, L.; Rose, N. R.; Schofield, C. J.; Davis, B. G. Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 1835. DOI: 10.1002/anie.201106432
  5. (a) Yang, A.; Ha, S.; Ahn, J.; Kim, R.; Kim, S.; Lee, Y.; Kim, J.; Söll, D.; Lee, H.-Y.; Park, H.-S. Science 2016, 354, 623. DOI: 10.1126/science.aah4428 (b) Wright, T. H.; Bower, B. J.; Chalker, J. M.; Bernardes, G. J. J.; Wiewiora, R.; Ng, W.-L. L.; Raj, R.; Faulkner, S.; Vallée, M. R.; Phanumartwiwath, A.; Coleman, O. D.; Thézénas, M.-L. L.; Khan, M.; Galan, S. R. R.; Lercher, L.; Schombs, M. W.; Gerstberger, S.; Palm-Espling, M. E.; Baldwin, A. J.; Kessler, B. M.; Claridge, T. D.; Mohammed, S.; Davis, B. G. Science 2016, 354, aag1465. DOI: 10.1126/science.aag1465
  6. Key,H. M.; Miller, S. J. J. Am. Chem. Soc. 2017, DOI: 10.1021/jacs.7b08775
  7. Bartoccini, F.; Bartolucci, S.; Lucarini, S.; Piersanti, G. Eur. J. Org. Chem. 2015, 15, 3352. DOI: 10.1002/ejoc.201500362
  8. Gober, J. G.; Ghodge, S. V.; Bogart, J. W.; Wever, W. J.; Watkins, R. R.; Brustad, E. M.; Bowers, A. A. ACS Chem. Biol. 2017, 12, 1726. DOI: 10.1021/acschembio.7b00358

関連書籍

[amazonjs asin=”0123822394″ locale=”JP” title=”Bioconjugate Techniques, Third Edition”][amazonjs asin=”1493960962″ locale=”JP” title=”Bioconjugation Protocols: Strategies and Methods (Methods in Molecular Biology)”]

ケムステ関連記事

外部リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. フォルスター・デッカー アミン合成 Forster-Decker…
  2. 2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル保護基 Teoc Pr…
  3. マイヤー・シュスター転位/ループ転位 Meyer-Schuste…
  4. ガーナーアルデヒド Garner’s Aldehyd…
  5. シャレット不斉シクロプロパン化 Charette Asymmet…
  6. ディールス・アルダー反応 Diels-Alder Reactio…
  7. ベロウソフ・ジャボチンスキー反応 Belousov-Zhabot…
  8. ジオキシラン酸化 Oxidation with Dioxiran…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 目指せ!フェロモンでリア充生活
  2. 前代未聞のねつ造論文 学会発表したデータを基に第三者が論文を発表
  3. セールスコピー大全: 見て、読んで、買ってもらえるコトバの作り方
  4. サントリー生命科学研究者支援プログラム SunRiSE
  5. 第93回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part I
  6. 難分解性高分子を分解する画期的アプローチ:側鎖のC-H結合を活性化して主鎖のC-C結合を切る
  7. 鉄触媒反応へのお誘い ~クロスカップリング反応を中心に~
  8. 第23回 医療、工業、軍事、広がるスマートマテリアル活躍の場ーPavel Anzenbacher教授
  9. カルボン酸、窒素をトスしてアミノ酸へ
  10. コンピューターが有機EL材料の逆項間交差の速度定数を予言!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年11月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

野々山 貴行 Takayuki NONOYAMA

野々山 貴行 (NONOYAMA Takayuki)は、高分子材料科学、ゲル、ソフトマテリアル、ソフ…

城﨑 由紀 Yuki SHIROSAKI

城﨑 由紀(Yuki SHIROSAKI)は、生体無機材料を専門とする日本の化学者である。2025年…

中村 真紀 Maki NAKAMURA

中村真紀(Maki NAKAMURA 産業技術総合研究所)は、日本の化学者である。産業技術総合研究所…

フッ素が実現する高効率なレアメタルフリー水電解酸素生成触媒

第638回のスポットライトリサーチは、東京工業大学(現 東京科学大学) 理学院化学系 (前田研究室)…

【四国化成ホールディングス】新卒採用情報(2026卒)

◆求める人財像:『使命感にあふれ、自ら考え挑戦する人財』私たちが社員に求めるのは、「独創力」…

マイクロ波に少しでもご興味のある方へ まるっとマイクロ波セミナー 〜マイクロ波技術の基本からできることまで〜

プロセスの脱炭素化及び効率化のキーテクノロジーとして注目されている、電子レンジでおなじみの”マイクロ…

世界の技術進歩を支える四国化成の「独創力」

「独創力」を体現する四国化成の研究開発四国化成の開発部隊は、長年蓄積してきた有機…

四国化成ってどんな会社?

私たち四国化成ホールディングス株式会社は、企業理念「独創力」を掲げ、「有機合成技術」…

アザボリンはニ度異性化するっ!

1,2-アザボリンの光異性化により、ホウ素・窒素原子を含むベンズバレンの合成が達成された。本異性化は…

マティアス・クリストマン Mathias Christmann

マティアス・クリストマン(Mathias Christmann, 1972年10…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー