概要
テトラキス(テトラブチルアンモニウム)デカタングステン酸(TBADT)は、UV照射によって水素移動(HAT)型C-H引抜き能を発揮する、有機溶媒に可溶なポリオキソメタレート型光触媒である。
かなり強固な不活性3級C-H結合、2級C-H結合などからも炭素ラジカルを生じさせることができる。反応系にラジカル受容体を共存させておくことで、C(sp3)-H結合の官能基化に用いることができる。
現在研究の進められている触媒的C-H官能基化反応に有効な触媒の一つとして注目を集めている。
基本文献
- Jaynes, B. L.; Hill, C. J. J. Am. Chem. Soc. 1993, 115, 12212. DOI: 10.1021/ja00078a089
- Zheng, Z.; Hill, C. L. Chem. Commun. 1998, 2467. DOI: 10.1039/A805036H
<Review>
- Hill, C. L. Synlett 1995, 127. DOI: 10.1055/s-1995-4883
- Tanielian, C. Coord. Chem. Rev. 1998, 178-180, 1165. doi:10.1016/S0010-8545(98)00160-X
- Hill, C. L. J. Mol. Catal. A 2007, 262, 2. doi:10.1016/j.molcata.2006.08.042
- Fagnoni, M.; Dondi, D.; Ravelli, D.; Albini, A. Chem. Rev. 2007, 107, 2725. DOI: 10.1021/cr068352x
- Tzirakis, M. D.; Lykakis, I. N.; Orfanopulos, M. Chem. Soc. Rev. 2009, 38, 2609. DOI: 10.1039/b812100c
反応機構
参考:J. Phys. Chem. A 2003, 107, 1102.
反応例
長時間を要するが、太陽光でも反応は実施可能である[1]。
TBADT-コバルト協働触媒系によるアルカンからの水素放出反応[2]
有機触媒との協働による不斉四級炭素構築[3]: TBADTはカテコールアセタールのC-H引き抜きに関与している。
実験手順
TBADTの調製法[1]
臭化テトラブチルアンモニウム(2.4 g)とタングステン酸ナトリウム二水和(5.0 g)を150 mLずつの脱イオン水にそれぞれ溶解し、激しく攪拌しながら90℃に保つ。両方の溶液に濃塩酸を滴下し、pHを2に調整する(タングステン酸溶液は薄緑色になる)。その後、二つの溶液を混合し、90℃で30分間攪拌する。得られた白色懸濁液(TBDAT)を室温に放冷し、ブフナー漏斗でろ過する。固体を水洗後、120℃のオーブンで3時間乾燥させる。室温まで放冷後、白色固体を塩化メチレン(固体1gあたり20mL)に懸濁させ、2時間攪拌する。ろ過して黄色上清を分離し、>90%純度を持つTBADTを収率85-95%(タングステン含有量ベース)で得る。純度はUV分析によって得る(ε323= 1.35 x 104 dm3mol-1cm-1 in CH3CN)。
参考文献
- Protti, S.; Ravelli, D.; Fagnoni, M.; Albini, A. Chem. Commun. 2009, 7351. DOI: 10.1039/B917732A
- West, J. G.; Huang, D.; Sorensen, E. J. Nat. Commun. 2015, 6, 10093. doi:10.1038/ncomms10093
- Murphy, J. J.; Bastida, D.; Paria, S.; Fagnoni, M.; Melchiorre, P. Nature 2016, 532, 218. doi:10.1038/nature17438