概要
分子内閉環反応の起こりやすさは、閉環部位での軌道相互作用の難易に大きく影響される。この傾向を纏め上げたものがBaldwin則である。
求核・求電子・ラジカル環化いずれに対しても適用可能。
基本文献
- Baldwin, J. E. J. Chem. Soc. Chem. Commun. 1976, 18, 734. doi:10.1039/C39760000734
- Baldwin, J. E., et al. J. Org. Chem.1977, 42, 3846. doi:10.1021/jo00444a011
- Baldwin, J. E.; Lusch, M. J. Tetrahedron 1982, 38, 2939. doi:10.1016/0040-4020(82)85023-0
- Chatgilialoglu, C.; Ferreri, C.; Guerra, M.; Timokhin, V.; Froudakis, G.; Gimisis, T. J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 10765. DOI: 10.1021/ja0261731
<review>
- Gilmore, K.; Alabugin, I. V. Chem. Rev. 2011, 111, 6513–6556. DOI: 10.1021/cr200164y
- Gilmore, K.; Mohamed, R. K.; Alabugin, I. V. Wiley Interdisciplinary Review: Comp. Mol. Sci. 2016, DOI: 10.1002/wcms.1261
開発の歴史
1976年イギリス・オックスフォード大学のBaldwinが閉環反応の起こりやすさの傾向をまとめ、論文に報告した。
詳細
エントロピー効果、立体電子効果、環ひずみなどを考慮すると、閉環のための一般的経験則が総じて以下のようにまとめられる。
・5~7員環は最も巻きやすい。
・3,4員環は環ひずみを生じる分、生成速度は小さくなる。
・8~11員環は渡環反発および環歪みを生じ最も形成が困難。
・12員環以上は閉環がエントロピー的に不利であり、分子間反応が起こりやすい。
開裂する結合が環の外側にある場合をexo環化、内側にある場合をendo環化と呼んで区別する。
求核剤攻撃を受ける炭素の混成がsp3の場合はテトラヘドラル(tet)、sp2の場合はトリゴナル(trig)、spの場合はダイアゴナル(dig)と表記して分類する。軌道相互作用を考慮すると、求核剤は下に示すように適切な角度をもってして接近する必要に迫られる。この接近が容易かそうでないかで環化の起こりやすさは決まる。
以上に形成環の員数を付け加えて環化反応を分類すると、以下のようなルールが成り立つ。
有利: 3~7-exo-tet、3~7-exo-trig、6,7-endo-trig, 3~7-endo-dig, 5~7-exo-dig
不利: 5~7-endo-tet、3~5-endo-trig、3,4-exo-dig
不利な環化だからといって起こらないわけではなく、あくまで有利な環化に比べて起こりにくいだけである。