概要
ひとつの分子から分子の一部である複数の原子(または原子団)が脱離して多重結合が形成される反応を、一般に脱離反応(Elimination
Reaction)と呼ぶ。
脱離基に結合する炭素(α炭素)の隣接位(β位)にあるプロトン(β水素)が引き抜かれる反応形式をβ脱離反応、引き抜かれるプロトンと脱離基が同じ炭素上にある場合は、α脱離反応と呼ばれる。α脱離からはカルベンが生じる。
基本文献
反応機構
<β脱離の分類について>
脂肪族炭水素のβ脱離反応の機構は、以下のように大別される。
①一分子脱離反応(E1反応)
・SN1反応と同様に、まず脱離基が解離したカルボカチオン中間体を経て、その後塩基でプロトンが引き抜かれる二段階機構で進む。
・ 一般に脱離基の解離が律速段階である。反応速度は基質の濃度のみに依存し、塩基の濃度には非依存。1次の反応速度式で表される。
・条件によってはSN1反応やカチオン性転位(Wagner-Meerwein転位)などが競合する。
・カルボカチオンが十分安定である場合、配座の異性化が起こりうる。このため反応は立体特異的に進むことはない。
②二分子脱離反応(E2反応)
・塩基によるβ水素引きぬきと、脱離基の解離が同時(協奏的)に起こる場合、これをE2反応と呼称する。
・反応速度は基質と塩基に1次ずつ依存する、二次速度式で表される。
・α炭素間とβ炭素間が自由回転できるときは、脱離基Lとβ水素が同一平面状かつantiの位置にある立体配座(antiperiplanar)から脱離(anti脱離)が進行する。これはπ結合形成のための軌道の重なりが最大化されるためである。反応は立体特異的に進行する。
・反応速度は基質と塩基の濃度双方に1次ずつ依存する。すなわち、全体で反応速度は2次の速度式で表される。
・立体要請の小さな塩基を使った場合、しばしば求核置換(SN2反応)が競合する。
・配座の自由度が規制されてanti-periplanar配座が取れない場合、もしくは分子間でβ水素引きぬきが起こる特別な場合に関しては、synperiplanar配座からの脱離(syn脱離)が起こる。こちらもやはり軌道の重なりが最大化される。以下はその好例である。
③共役塩基一分子脱離反応(E1cB反応)
・上記二つとは異なり、まずβ水素が塩基によって引きぬかれてカルボアニオン中間体が生成し、脱離基がアニオンとして解離してアルケンを生成する機構。これを特にE1cB反応と呼ぶ。一般に脱離基Lの解離が律速段階である。
・カルボアニオンが安定である基質、脱離基の性能が良くない場合、β水素の酸性度が低い場合などに有意に起こる。例えばフルオロアルカンからのβ脱離、アルドール(βヒドロキシカルボニル)化合物の塩基性脱水反応などがその典型例となる。
<脱離の位置選択性について>
熱力学支配条件での位置選択性はZaitsev則、つまり置換数の多いアルケンができるように起こると説明される(参考:Angew.
Chem. Int. Ed. 2009, 48, 5724.)。これはいわゆるMarkovnikov則の逆といえる。置換数が多いほどアルケンが熱力学的に安定である理由も、超共役(hyperconjugation)によって説明される。すなわち、アルケンのπ*軌道へと置換基のσ軌道からの電子が流れこむことによって安定化されるためである。
ただし、脱離基として嵩高い四級アンモニウムなどが脱離する場合や、立体要請の大きなt-BuO–などを塩基に用いる場合には、Zaitsev則に従わない生成物が主に生じてくる(Hofmann脱離)。
反応例
実験手順
実験のコツ・テクニック
参考文献
関連書籍