[スポンサーリンク]

F

フェルキン・アーン モデル Felkin-Anh Model

[スポンサーリンク]

 

概要

α位に不斉中心を持つようなカルボニル化合物への求核付加では、立体選択性が発現する。これをよく説明するモデルとして受け入れられているのがFelkin-Anhモデルである。

それ以前に受け入れられていたCram則と異なり、立体電子効果を取り入れている点が特徴である。このためより多くの基質に対して適用がある。

 

基本文献

  • Cherest, M.; Felkin, H.; Prudent, N. Tetrahedron Lett. 1968, 9, 2199. doi:10.1016/S0040-4039(00)89719-1
  • Anh, N. T.; Eisenstein, O. Nouv. J. Chim. 19771, 61.
  • Anh, N. T.; Eisenstein, O.; Lefour, J-M.; Dau, M-E. J. Am. Chem. Soc. 1973, 95, 6146. DOI: 10.1021/ja00799a068
  • Anh, N. T.; Eisenstein, O. Tetrahedron Lett. 197617, 155. doi:10.1016/0040-4039(76)80002-0
  • Anh, N. T. Top. Curr. Chem. 1980, 88, 146.
  • Mengel, A.; Reiser, O. Chem. Rev. 1999, 99, 1191. doi: 10.1021/cr980379w

 

モデルの解説

カルボニルα位に三種類の置換基(RL>RM>RS)をもつ基質を想定する。

・ケトン(R≠H)の場合

① まずは基質の最安定配座を考える。RLがカルボニル平面に対して90°の二面角を向いた配座がそれであり、求核剤はRLと反対の方向から反応する。また、もうひとつの置換基Rとの立体反発を避けるため、RMがカルボニル基のゴーシュに位置する配座がより優勢となる。

feklin_anh_2
② 次に反応遷移状態を考える。立体電子効果、すなわちsp2→sp3への軌道遷移を考慮に入れ、Burgi-Dunitz角(カルボニルC=Oから約100°の方向)で求核剤が近づくモデルをここでは考える。この際、最も大きな置換基RLは求核剤との立体反発を避けるべく接近方向の対極(約180°)を向くように若干配座が修正される。こういったモデルにより、立体選択性はうまく説明される。

feklin_anh_3

・アルデヒド(R=H)の場合

水素は立体要請が小さいために、ケトンの場合と異なり、①の配座安定性においてそれほどのエネルギー差が生じない。しかし求核剤が接近するときの、近傍の置換基RMもしくはRSとの立体反発由来のエネルギー差が生じてくる。このため、結果的にケトンの場合と同様の立体選択性にて目的物が得られることになる。

feklin_anh_5

・α位置換基の一つが(キレート能のない)電気陰性基の場合

この場合には軌道相互作用を最大限に考えるべく、電気陰性基Xとα位炭素のσ*軌道と、カルボニルのπ*軌道が最大限重なりあうような配座から反応が進行する。すなわちXがカルボニル平面に対して二面角90°の配座を取り、その状態からRLとの立体反発を避けるように求核剤が近づく。この遷移状態ではC-Xσ*軌道との超共役効果により、電子密度の高まったπ*軌道が安定化される。

feklin_anh_4.gif

・α位置換基の一つが配位性官能基で、かつキレート可能な金属が介在している場合

この特別な場合については、キレーションモデル(Chelation Model)という名称が付けられている。Felkin-Anhモデルとは立体選択性が逆になるよう解釈される。すなわち、金属が配位性官能基Dおよびカルボニル酸素とキレートした配座が優先となり、RLとの立体反発を避けるように求核剤が近づく。

feklin_anh_6.gif

関連書籍

[amazonjs asin=”4759808191″ locale=”JP” title=”立体電子効果―三次元の有機電子論”]

外部リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 超原子価ヨウ素 Hypervalent Iodine
  2. グレーサー反応 Glaser Reaction
  3. フィッシャー・スペイア エステル合成 Fischer-Speie…
  4. クラプコ脱炭酸 Krapcho Decarboxylation
  5. 原子移動ラジカル重合 Atom Transfer Radical…
  6. アザ-ウィティッヒ反応 Aza-Wittig Reaction
  7. 四酸化ルテニウム Ruthenium Tetroxide (Ru…
  8. エッシェンモーザーメチレン化 Eschenmoser Methy…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第136回―「有機化学における反応性中間体の研究」Maitland Jones教授
  2. Kindle Paperwhiteで自炊教科書を読んでみた
  3. 留学せずに英語をマスターできるかやってみた(2年目)
  4. 『夏休み子ども化学実験ショー2019』8月3日(土)~4日(日)、科学技術館にて開催
  5. ケミカルバイオロジーとバイオケミストリー
  6. 書類選考は3分で決まる!面接に進める人、進めない人
  7. メタロペプチド触媒を用いるFc領域選択的な抗体修飾法
  8. 飯野 裕明 Hiroaki Iino
  9. 分子マシンー2016年ノーベル化学賞より
  10. 特許取得のための手続き

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年8月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP