概要
芳香族化合物は通常求核置換反応に対して不活性であるが、シアノ基やニトロ基など強い電子求引性置換基をもつ芳香環は、またジアゾやベンザインなど特別な活性官能基を経由する場合には、求核置換反応を受け入れることができる。
基本文献
- SN(ANRORC) Mechanism: Henk C. Van der Plas, Acc. Chem. Res. 1978, 11, 462. doi:10.1021/ar50132a005
- Vicarious nucleophilic substitution: Makosza, M.; Winiarski, J. Acc. Chem. Res.1987, 20, 282. doi:10.1021/ar00140a003
反応機構
メカニズムは基質に依存して多様。大別して以下のものが考えられる。
①SNAr機構(付加-脱離型):電子求引基の存在が必須。脱離基としては通常ハロゲンが用いられる。活性の高さは通常のSN1/SN2反応とは逆のトレンド、すなわちF>Cl>Br>I
となる。求核付加後のアニオンが非局在化した中間体はMeisenheimer Complexと呼ばれる。
②SN1機構(脱離-付加型):ジアゾニウム基などのように強力な脱離基が存在するときに限り、ベンゼニウムカチオン中間体を経て反応が進行する。
③ベンザイン機構: 塩基性の強い求核剤を用いた場合に見られる。
④SN(ANRORC)機構:一度開環体を経る特別な機構。ANRORC は 「Addition of the Nucleophile, Ring Opening, and Ring Closure」を指す。すなわち、この機構は求核剤の付加、開環、そして閉環の 3 段階からなる。
なお、同様の機構はヘテロ環化合物の異性化においても見られる (参照: Dimroth 転位 (ANRORC 型))。
⑤代償型求核置換機構(Vicarious Nucleophilic Substitution):
芳香環ではなく求核剤側に脱離基が存在する特殊な場合。形式上、芳香環上のヒドリドが置換される。
⑥SRN1機構(フリーラジカル): チオラートを脱離基、ヨウ素などを脱離基とするとき、つまりレドックス活性のあるコンビネーションをもつ場合に起こりうる。
反応例
触媒的芳香族求核置換反応[1]
実験手順
シュレンク管中で、Ru(cod)(2-methylallyl)2 (6.4 mg, 0.020 mmol)と1,5-bis(diphenylphosphino)pentane (12.3 mg, 0.028mmol), TfOH (3.5 μL, 0.040 mmol) を1,4-ジオキサン(02. mL)に懸濁させる。その反応溶液へ p-フルオロトルエン (2.0 mmol), morpholine (0.40 mmol), triethylamine (0.40 mmol) とtriethylsilane (0.40 mmol)を加えた後、還流下24時間反応させる。溶媒を減圧柳居した後、薄層カラムクロマトグラフィー(TLC:hexane/AcOEt =10/1)により精製し生成物を72%の収率で得る. [1]
実験のコツ・テクニック
参考文献
[1] Otsuka, M.; Endo, K.; Shibata, T. Chem. Commun. 2010, 46, 336. doi:10.1039/b919413d
関連反応
- 求核置換反応 Nucleophilic Substitution
- スマイルス転位 Smiles Rearrangement
- クロム(η6-アレーン)カルボニル錯体 Cr(η6-arene)(CO)3 Complex
- チチバビン反応 Chichibabin Reaction
- ウィリアムソンエーテル合成 Williamson ether synthesis
- ジムロート転位 (ANRORC 型) Dimroth Rearrangement via An ANRORC Mechanism
関連書籍
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