概要
既存のペプチド合成においては、分子量が大きくなるにつれて、官能基同士の望まぬ相互作用が指数関数的に増えるとともに、反応点がペプチド内部に潜り込んで遭遇しにくくなる。この結果、縮合の反応性が劇的に落ちる。たとえば液相は最大10残基程度、固相でも最大50残基程度がその適用限界とされている。
この壁を克服する方法論として有効なのが、Native Chemical Ligation (NCL) 法である。
C末端にチオエステルを持つペプチドとN末端に無保護システインを持つペプチドを、生体適合条件下(pH 7、20℃~37℃)に混ぜるだけで反応が進行し、余分な活性化剤を必要としない。側鎖無保護のペプチドでも反応が収率良く進行する。ペプチドに生来備わっている官能基(Native Functional Group)を利用している点で価値が高い手法である。この方法によっておよそ200残基程度までのペプチド鎖を化学合成することが可能になった。
必然的に結合部はシステイン残基にならざるを得ないが、硫黄原子を還元的に除去して別の残基にする方法なども開発されている。
基本文献
- Dawson, P. E.; Muir, T. W.; Clark-Lewis, I.; Kent, S. B. H. Science 1994, 266, 776. DOI:10.1126/science.7973629
- Johnson, E. C. B.; Kent, S. B. H. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 6640. DOI: 10.1021/ja058344i
<Review of NCL>
- Dawson, P. E.; Kent, S. B. H. Annu. Rev. Biochem. 2000, 69, 923.
- Clark, R. J.; Craik, D. J. Pept. Sci. 2009, 94, 414. DOI: 10.1002/bip.21372
- McGrath, N. A.; Raines, R. T. Acc. Chem. Res. 2011, 44, 752. DOI: 10.1021/ar200081s
- Raibaut, L.; Olivier, N.; Melnyk, O. Chem. Soc. Rev. 2012, 41, 7001. DOI: 10.1039/C2CS35147A
- Wong, C. T. T.; Tung, C. L.; Li, X. Mol. Biosys. 2013, 9, 826. DOI: 10.1039/C2MB25437A
- Agouridas, V.; Mahdi, O. E.; Diemer, C.; Cargoët, M.; Monbaliu, J.-C. M.; Melnyk, O. Chem. Rev. 2019, 119, 7328. doi:10.1021/acs.chemrev.8b00712
<General Review of Chemical Synthesis of Peptides/Proteins>
- Humphrey, J. M.; Chamberlin, A. R. Chem. Rev. 1997, 97, 2243. DOI: 10.1021/cr950005s
- Bray, B. L. Nat. Rev. Drug Discov. 2003, 2, 587. doi:10.1038/nrd1133
- Nilsson, B. L.; Soellner, M. B.; Raines, R. T. Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 2005, 34, 91. DOI: 10.1146/annurev.biophys.34.040204.144700
- Kent, S. B. H. Chem. Soc. Rev. 2009, 38, 338. DOI: 10.1039/b700141j
- Pattabiraman, V. R.; Bode, J. W. Nature 2011, 480, 471. doi:10.1038/nature1070
- Stolzew, S. C.; Kaiser, M. Synthesis 2012, 44, 1755. DOI: 10.1055/s-0031-1289765
反応機構
S-to-Nアシル転移を鍵過程として進行する。最初のチオエステル交換過程は可逆である。例えば内部システインのように、チオール官能基が結合形成部位以外に存在しても、反応には影響を及ぼさない。見方を変えれば適切なチオールを触媒にすることで反応を加速させることも可能。
反応例
ラネーニッケルによる脱硫により、Cys残基を選択的にAla残基に変換する事が可能。[1]
4-メルカプトフェニル酢酸(MPAA)や、2-メルカプトエタンスルホナート(MESNa)が良好な触媒として機能する。
タンパク質の全合成への応用
Kentらによって、HIV-1プロテアーゼCovalent DimerがNCL法を使って合成された[2]。これは化学的手法によって合成された史上最大のペプチドである(2009年現在)。
実験手順
実験のコツ・テクニック
参考文献
- Yan, L.Z.; Dawson, P.E. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 526. DOI: 10.1021/ja003265m
- Torbeev, V. Y.; Kent, S. B. H. Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 1667. DOI: 10.1002/anie.200604087
関連反応
- メリフィールド ペプチド固相合成法 Merrifield Solid-Phase Peptide Synthesis
- 縮合剤 Condensation Reagent
- ボーディ ペプチド合成 Bode Peptide Synthesis
関連書籍
[amazonjs asin=”4944157517″ locale=”JP” title=”最新ペプチド合成技術とその創薬研究への応用 (遺伝子医学MOOK 21)”]外部リンク
- 有機って面白いよね!! 「無保護のペプチド合成を目指して」
- ペプチド?(Wikipedia日本)
- 脱水縮合?(Wikipedia日本)
- Peptide?(Wikipedia)
- Condensation Reaction?(Wikjpedia)
- Native Chemical Ligation – Wikipedia