概要
オレフィン-ケテン間の付加環化反応は、シクロブタノン環と込み入った炭素骨格を一挙に構築できる強力な手法である。不安定中間体であるケテンは系中で生成させる。位置異性の制御が難しいため、分子内反応条件下で用いられることが多い。
基本文献
- Staudinger, H. Chem. Ber. 1905, 38, 1735. doi:10.1002/cber.19050380283
- Wilsmore, N. T. M. J. Chem. Soc. 1907, 91, 1938.
- Chick, F.; Wilsmore, N. T. M. J. Chem. Soc. 1908, 946.
<Reviews>
- Ranganathan, S.; Ranganathan, D.; Mehrotra, A. K. Synthesis 1977, 289. DOI: 10.1055/s-1977-24362
- Hyatt, J. A.; Reynolds, P. W. Org. React. 1994, 45, 159. doi:10.1002/0471264180.or045.02
- Tidwell, T. T. Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 5778. DOI: 10.1002/anie.200500098
- Tidwell, T. T. Ketenes, 2nd ed., Wiley interscience, Hoboken, NJ, 2006.
- Tidwell, T. T. Eur. J. Org. Chem. 2006, 563. DOI: 10.1002/ejoc.200500452
- Allen, A. D.; Tidwell, T. T. Eur. J. Org. Chem. 2012, 1081. DOI: 10.1002/ejoc.201101230
開発の歴史
1902年にはウォルフによってウォルフ転位が報告された。現在はケテンを経由していることが明らかとなっているが、当時詳細は不明であった。一方、1905年にシュタウディンガー(1953年ノーベル賞受賞者)は偶然にもケテン(ジフェニルケテン)をはじめて合成した。さらに1907年に、Wilsmoreが無水酢酸に加熱した白金を作用させることでケテンの発生に成功している。
反応機構
協奏的な[2+2]機構で進行する。オレフィンとケテンがねじれの位置関係から接近する遷移状態モデルが受け入れられている。これはcisオレフィンがtransオレフィンよりも高反応性を示す実験事実を上手く説明する。(参考: J. Org. Chem. 1980, 45, 4483.)
反応例
Ginkgolide Bの合成[1]:本合成においては、嵩高いt-ブチル基との反発がジアステレオ選択的環化におけるカギとなっている。 Antheliolide Aの合成[2]
一般にケテンはジエンと[2+2]付加を優先させるが、アセトキシアクリロニトリルはDiels-Alder反応を進行させるケテン等価体として捉えることができる。[3]
クロムFisherカルベンを光照射することでケテンを系中生成させ、反応に用いることができる。[4]
実験手順
ケテンの発生法:ケテンは酸ハライドを嵩高い塩基で処理する、α-ハロ酸ハライドを還元的に処理することで系中生成できる。ケテンダイマーを加熱もしく光照射で分解することでも得られる。Wolff転位経由でも得ることができる。
実験のコツ・テクニック
参考文献
[1] Corey, E. J.; Kang, M. C.; Desai, M. C.; Ghosh, A. K.; Houpis, I. N. J. Am. Chem. Soc. 1988, 110, 649. DOI: 10.1021/ja00210a083[2] Mushti, C. S.; Kim, J.-H.; Corey, E. J. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 14050. DOI: 10.1021/ja066336b
[3] Bartlett, P. D.; Tate, B. E. J. Am. Chem. Soc. 1956, 78, 2473. DOI: 10.1021/ja01592a035
[4] Moser, W. H.; Hegedus, L. S. J. Am. Chem. Soc. 1996, 118, 7873. DOI: 10.1021/ja9537585
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