概要
アルキン-コバルト錯体の隣接位はカルボカチオンが安定に存在できるので、SN1置換に利用できる。脱離基としては性能の悪いアルコキシ基やアセトキシ基をも使用できる。
一方で、アルキンの電子はコバルトとの錯形成に使用されるため、反応することはない。つまりコバルトをアルキンの保護基として捉えることもできる。
基本文献
- Lockwood, R. F.; Nicholas, K. M. Tetrahedron Lett. 1977, 18, 4163. doi:10.1016/S0040-4039(01)83455-9
- Nicholas, K. M. J. Organomet. Chem. 1979, C21, 44.
- Nicholas, K. M. Acc. Chem. Res. 1987, 20, 207. DOI: 10.1021/ar00138a001
- Teobald, B. J. Tetrahedron 2002, 58, 4133. DOI: 10.1016/S0040-4020(02)00315-0
反応機構
隣接位のカルボカチオンは、アルキン-コバルトσ結合との超共役作用によって安定化される。これによりSN1的な置換が容易に起こる。(参考:J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 900. )
反応例
アルキン-コバルト錯体は直線上ではなく、幾分折れ曲がった構造をしているため、中員環化反応に適用することが可能である。
(+)-Epoxydictymeneの合成[1]: Schreiberらは、アルキン-コバルト錯体をNicholas反応→Pauson-Khand反応と続けて用いることで複雑な縮環骨格を高効率的に合成している。NMOを加えることで反応が加速されるが、これは配位子のCOをCO2に酸化し、解離を促すためと言われている。
Nicholas反応とピナコール転位を鍵として、Ingenolの全合成[2]が達成されている。
実験手順
実験のコツ・テクニック
参考文献
[1] Jamison, T. F.; Shambayati, S.; Crawe, W. E.; Schreiber, S. L. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 4353. DOI: 10.1021/ja970022u [2] Tanino, K.; Onuki, K.; Asano, K.; Miyashita, M.; Nakamura, T.; Takahashi, Y.; Kuwajima, I. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 1498. DOI: 10.1021/ja029226n
関連反応
- クロム(η6-アレーン)カルボニル錯体 Cr(η6-arene)(CO)3 Complex
- アルキンの環化三量化反応 Cyclotrimerization of Alkynes
- ポーソン・カーン反応 Pauson-Khand Reaction
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