概要
サレン-コバルト(III) 触媒が促進する加水分解反応にて、末端エポキシドの速度論的光学分割を行う方法。反応性の低い水分子そのものが求核試薬として働く。
合成単位として利用価値の高い、光学活性末端エポキシド・光学活性1,2-ジオールがきわめて簡便・穏和な条件(弱酸性、氷冷~室温)で得られる。
大スケールでのキラルビルディングブロック合成目的にもしばしば用いられる。
触媒が安価・無害・空気/水に安定、触媒使用量は少なく(0.5-5mol%程度)回収再利用が可能、基質一般性は高く選択性はほぼ完璧、ほぼneat条件の溶媒量、バルクスケールでも実施可能。不斉触媒の要請条件をほとんど満たす、現時点で最も理想に近い不斉触媒反応といえる。(実際に本反応はRhodia
Chirex社(USA)およびダイソー株式会社(日本)により工業化されている)
基本文献
- Tokunaga, M.; Larrow, J. F.; Kakiuchi, F.; Jacobsen, E. N. Science 1997, 277, 36. doi:10.1126/science.277.5328.936
- Schaus, S. E.; Brandes, B. D.; Larrow, J. F.; Tokunaga, M.; Hansen, K. B.; Gould, A. E.; Furrow, M. E.; Jacobsen, E. N.. J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 1307. DOI:
10.1021/ja016737l - Nielsen, L. P. C.; Stevenson, C. P.; Blackmond, D. G.; Jacobsen, E. N. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 1360. DOI: 10.1021/ja038590z
反応機構
以下に示すような二分子関与の触媒機構が提唱されている。コバルトはルイス酸としてエポキシドを活性化するとともに、水を担持し求核剤側の活性化も行う。
反応例
下記プロセスはRhodia Chirex社によって工業化されている。
速度論的光学分割法は、基質の半分が無駄になってしまうという本質的欠点をもつが、以下の例[1]では、分子内非対称化反応へと応用することで無駄なく基質を使用している。
実験手順
グリシド酸エステルへの適用例[2]
撹拌子を備えた丸底フラスコに(R,R)-(-)-N,N’-bis(3,5-di-tertbutylsalicylidene)-1,2-cyclohexanediaminocobalt(II) (0.916 g, 1.52 mmol, 0.50 mol%)、p-トルエンスルホン酸(0.304 g, 1.60 mmol, 0.53mol%)、ジクロロメタン(20mL)を加える。空気中で30分撹拌すると反応溶液は明赤色から暗緑色~茶色へと変化していく。溶媒をエバポレータで留去、真空ポンプ(99%ee)。
実験のコツ・テクニック
参考文献
[1] (a) Birman, V. B.; Danishefsky, S. J. J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 2080.DOI: 10.1021/ja012495d (b) Meng, Z.; Danishefsky, S. J. Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 1511. doi:10.1002/anie.200462509 [2] Stevenson, P. C.; Nielsen, L. P. C. Jacobsen, E. N. Org. Synth. 2006, 83, 162, [PDF]
関連反応
- 酵素による光学分割 Enzymatic Optical Resolution
- ペイン転位 Payne Rearrangement
- ジェイコブセン・香月エポキシ化反応 Jacobsen-Katsuki Epoxidation
関連書籍
外部リンク
- ダイソー株式会社
- Eric Jacobsen (Wikipedia)