アルデヒド→アルコール、アルケン
概要
・キラル補助基を持つアリル(クロチル)ボランは、アルデヒドと反応してキラルホモアリルアルコールを高い立体選択性で与える。高い選択性はそのまま精密有機合成的価値となり、複雑鎖状化合物の合成目的に、Evansアルドール反応と同様に定石扱いで用いられる。
・様々な方法が報告されているが、頻用されるのはdiisopinocampheylborane法(Brown)および酒石酸エステル法(Roush法)である。
・ケトンを基質とした場合には、総じて選択性は劇的に低くなる。
基本文献
- (a) Herold, T.; Hoffmann, R. W. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1978, 17, 768. DOI: 10.1002/anie.197807682 (b) Herold, T.; Schrott, U.; Hoffmann, R. W. Chem. Ber. 1981, 114, 359. (c) Hoffmann, R. W.; Herold, T. Ibid. 1981, 114, 375.
- Brown, H. C.; Yadav, P. K. J. Am. Chem. Soc. 1983, 105, 2092. DOI: 10.1021/ja00345a085
- Roush, W. R.;Walts, A. E.; Hoong, L. K. J. Am. Chem. Soc.1985, 107, 8186. DOI: 10.1021/ja00312a062
- Corey, E. J.;Yu, C. M.; Kim, S. S. J. Am. Chem. Soc.1989, 111, 5495. DOI: 10.1021/ja00196a082
Review
- Lachance, H.; Hall, D. Org. React. 2008, 73, 1. DOI: 10.1002/0471264180.or073.01
開発の歴史
1970年代前半にBrownらによって精力的に研究されたアリルボランの付加反応。1978年にドイツの化学者Hoffmanらによってカンファーグリコールを不斉補助基とした不斉アリルホウ素化が報告された。その後、1983年Blownらによってピネンにヒドロホウ素化することによって得られるB-allyldiisopinocampheylboraneが不斉アリルホウ素化に有効であることが報告された。そのご、1985年にRoushらにより、1989年にはCoreyらによって新たなキラルアリルホウ素化剤が報告されている。
反応機構
上記反応スキームに示したように六員環遷移状態を経て進行する。このため、E体のアリルボランからはanti体、Z体からはsyn体のキラルアルコールが得られる。
B-O結合の短さ故、一般に六員環遷移状態はtightになり、選択性はきわめて高い傾向にある。
反応例
鎖状・マクロライド系生理活性物質の合成に頻用される。
例) Epothilone類の合成[1]
例)ケトン/ケトイミンの不斉アリルホウ素化[2a,2b]
柴崎らは、アリルピナコールボランを用い、低反応性のケトン・ケトイミンを求電子剤とする触媒的不斉アリル化反応を達成している。近年Shausら[2c]によって、BINOL誘導体を用いるより簡便な方法も報告されている。
Soderquistらによって近年開発されたキラルアリルボランを用いれば、ケトンを基質としても高い立体選択性で反応が進行する[3]。
実験手順
実験のコツ・テクニック
参考文献
[1] Nicolaou, K. C.; Ninkovic, S.; Sarabia, F.; Vourloumis, D.; He, Y.; Vallberg, H.; Finlay, M. R. V.; Yang, Z. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 7974. DOI: 10.1021/ja971110h [2] (a) Wada, R.; Oisaki, K.; Kanai, M.; Shibasaki, M. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 8910. DOI: 10.1021/ja047200l (b) Wada, R.; Shibuguchi, T.; Makino, S.; Oisaki, K.; Kanai, M.; Shibasaki, M. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 7687. DOI: 10.1021/ja061510h (c) Lou, S.; Moquist, P. N.; Schaus, S. E. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 12660. DOI: 10.1021/ja0651308 [3] (a) Burgos, C. H.; Canales, E.; Matos, K.; Soderquist, J. A. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 8044. DOI: 10.1021/ja043612i(b) Canales, E.; Prasad, K. G.; Soderquist, J. A. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 11572. DOI: 10.1021/ja053865r
関連反応
- ケック不斉アリル化 Keck Asymmetric Allylation
- ケック アリル化反応 Keck Allylation
- 細見・櫻井アリル化反応 Hosomi-Sakurai Allylation
- エヴァンスアルドール反応 Evans Aldol Reaction
- ブラウンヒドロホウ素化反応 Brown Hydroboration
- 鈴木・宮浦クロスカップリング Suzuki-Miyaura Cross Coupling
関連書籍
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