[スポンサーリンク]

odos 有機反応データベース

ワッカー酸化 Wacker oxidation

[スポンサーリンク]

概要

PdCl2-CuCl2触媒によるエチレン→アセトアルデヒドの酸化プロセスとして元来開発された。酸素を酸化剤として用いることができる。

一般の末端アルケンの酸化にも用いることができる。生成物はメチルケトンとなる。溶媒はDMFが多用される。

通常、内部アルケンは反応性に乏しく、末端アルケンのみを選択的に酸化することが可能。

基本文献

  • Smidt, J.; Sieber, R. Angew. Chem. 19591, 176. doi:10.1002/ange.19590710503
  • Smidt, J.; Hafner, W.; Jira, R.; Sieber, R.; Sedlmeier, J.; Sabel, A. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1962, 1, 80. doi:10.1002/anie.196200801
  • Tsuji, J. Synthesis 1984, 369.
  • 辻二郎ら、有機合成化学協会誌 1989, 47, 649.
  • Hegedus, L. S. Comprehensive Organic Synthesis, 19914, 552.
  • Tsuji, J. Comprehensive Organic Synthesis 19917, 449.

反応機構

アルケンの酸化はPd(II)、Pd(0)の酸化はCu(II)、Cu(I)の酸化は酸素分子によりなされる。これらのプロセスが協奏的に働くことで触媒サイクルが機能する。
wacker_oxi_2.gif

反応例

末端アルケンのみが選択的に酸化され、内部アルケンやアルデヒドは酸化されない。[1] wacker_oxi_4.gif
Wacker酸化と溝呂木-Heck反応を組み合わせた、高立体選択的縮環骨格合成[2]
wacker_oxi_5.gif銅を用いない反応や酸素のみを酸化剤として用いるワッカー反応[3]

Fe触媒によるWacker型酸化反応[4]

実験手順

1-デカンの酸化[5] wacker_oxi_6.gif

実験のコツ・テクニック

  • CuClを用いる場合、オレフィンを入れる前に先にアクティベートする必要がある。@rt、1h
  • 近年ターミナルオレフィンをアルデヒドに変換するコンプリメンタリーな系も開発されている。こちらこちら。
  • 反応系では塩酸が複成するので、酸に弱い化合物(アセトナイド)などの場合はCuClの代わりにCu(OAc)2を用いるなど工夫が必要。*元文献はこちら。また、塩基性条件下では反応は進行しない。
    A suspension of alkene (1.84 g, 10.0 mmol), PdCI2 (177 mg, 1.0 mmol, 10 mol%), and Cu(OAc)2-H20 (0.40 g, 2.0 mmol, 20 mol%) in N,N-dimethylacetamide (15 mL) and water (2 mL) was placed under oxygen (1 atm) and stirred for 3 d. The mixture was diluted with ether (10 mL), filtered through Celite employing ether (3 x 10 mL) to wash the filter cake, poured into water (20 mL), and extracted with ether (3 x 5 mL). The organic phase was washed with brine (3 x 10 mL), dried over Na2SO4, and concentrated. Adsorption on silica gel and gradient flash chromatography (hexanes –> 3:1 hexanes/ethyl acetate) afforded 4 (1.68 g, 84.0% yield).

参考文献

  1. Tsuji, J. Synthesis 1984, 369.
  2. Larock, R. C. et al. J. Am. Chem. Soc. 1991,113, 7815. DOI:10.1021/ja00020a083.
  3. (a) Mitsudome, T.; Umetani, T.; Nosaka, N.; Mori, K.; Mizugaki, T.; Ebitani, K.; Kaneda, K. Angew. Chem., Int. Ed. 2006, 45, 481. DOI: 10.1002/anie.200502886. (b) Mitsudome, T.; Mizumoto, K.; Mizugaki, T.; Jitsukawa, K.; Kaneda, K. Angew. Chem., Int. Ed. 2010, 49, 1238. DOI: 10.1002/anie.200905184.
  4. Liu, B.; Jin, F.; Wang, T.; Yuan, X.; Han, W. Angew. Chem., Int. Ed. 2017, early view DOI: 10.1002/anie.201707006
  5. Jiro Tsuji, Hideo Nagashima, Hisao Nemoto, Org. Synth. 1989, 62, 9. DOI: 10.15227/orgsyn.062.0009

関連反応

関連書籍

 

外部リンク

関連記事

  1. 三枝・伊藤 インドール合成 Saegusa-Ito Indole…
  2. 歪み促進型アジド-アルキン付加環化 SPAAC Reaction…
  3. マルコフニコフ則 Markovnikov’s Rul…
  4. 二酸化セレン Selenium Dioxide
  5. ベックマン開裂 Beckmann Fragmentation
  6. [2+2]光環化反応 [2+2] Photocyclizatio…
  7. 可逆的付加-開裂連鎖移動重合 RAFT Polymerizati…
  8. ベックマン転位 Beckmann Rearrangement

注目情報

ピックアップ記事

  1. アウグスト・ホルストマン  熱力学と化学熱力学の架け橋
  2. 化学者のためのエレクトロニクス講座~有機半導体編
  3. 【誤解してない?】4s軌道はいつも3d軌道より低いわけではない
  4. ケムステVシンポ「最先端有機化学」開催報告(前編)
  5. 「生物素材で新規構造材料を作り出す」沼田 圭司 教授
  6. 次世代医薬とバイオ医療
  7. 第98回日本化学会春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part I
  8. ポロノフスキー開裂 Polonovski Fragmentation
  9. Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis 5th Edition
  10. NMRの基礎知識【測定・解析編】

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

四置換アルケンのエナンチオ選択的ヒドロホウ素化反応

四置換アルケンの位置選択的かつ立体選択的な触媒的ヒドロホウ素化が報告された。電子豊富なロジウム錯体と…

【12月開催】 【第二期 マツモトファインケミカル技術セミナー開催】 題目:有機金属化合物 オルガチックスのエステル化、エステル交換触媒としての利用

■セミナー概要当社ではチタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素等の有機金属化合物を“オルガチッ…

河村奈緒子 Naoko Komura

河村 奈緒子(こうむら なおこ, 19xx年xx月xx日-)は、日本の有機化学者である。専門は糖鎖合…

分極したBe–Be結合で広がるベリリウムの化学

Be–Be結合をもつ安定な錯体であるジベリロセンの配位子交換により、分極したBe–Be結合形成を初め…

小松 徹 Tohru Komatsu

小松 徹(こまつ とおる、19xx年xx月xx日-)は、日本の化学者である。東京大学大学院薬学系研究…

化学CMアップデート

いろいろ忙しくてケムステからほぼ一年離れておりましたが、少しだけ復活しました。その復活第一弾は化学企…

固有のキラリティーを生むカリックス[4]アレーン合成法の開発

不斉有機触媒を利用した分子間反応により、カリックスアレーンを構築することが可能である。固有キラリ…

服部 倫弘 Tomohiro Hattori

服部 倫弘 (Tomohiro Hattori) は、日本の有機化学者。中部大学…

ぱたぱた組み替わるブルバレン誘導体を高度に置換する

容易に合成可能なビシクロノナン骨格を利用した、簡潔でエナンチオ選択的に多様な官能基をもつバルバラロン…

今年は Carl Bosch 生誕 150周年です

Tshozoです。タイトルの件、本国で特に大きなイベントはないようなのですが、筆者が書かずに誰が…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP