概要
2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカル (TEMPO)は、非常に安定に存在しうる市販の有機フリーラジカルである。有機合成においては第一級アルコールを選択的にアルデヒドへと酸化させる目的で用いられる。通常触媒量のTEMPOおよび再酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムやPhI(OAc)2を用いる手法が一般的である。第二級アルコールが共存していても酸化されないため、選択的な酸化が可能である。
基本文献
- Lebelev, O. L.; Kazarnovskii, S. N. Zhur. Obshch. Khim. 1960, 30, 1631.
- Golubev, V. A.; Rozantsev, E. G.; Neiman, M. B.; Izv.Akad.Nauk SSSR Ser.Khim. 1965, 11, 1927.
- de Nooy, A. E. J.; Besemer, A. C.; van Bekkum, H. Synthesis 1996, 1153. DOI: 10.1055/s-1996-4369
- Anelli, P. L.; Biffi, C.; Montanari, F.; Quici, S.; J.Org.Chem. 1987, 52, 2559.
- Zhao, M.; Li, J.; Mano, E.; Song, Z.; Tschaen, D. M.; Grabowski, E. J. J.; Reider, P. J.; J.Org.Chem. 1999, 64, 2564.
- Epp, J. B.; Widlanski, T. S.; J.Org.Chem. 1999, 64, 293.
Review
- Sheldon, R. A.; Arends, I. W. C. E.; ten Brink, G. J.; Dijksman, A. Acc. Chem. Res. 2002, 35, 774. doi:10.1021/ar010075n
反応機構
TEMPOが酸化されて生じたN-オキソアンモニウムカチオンが酸化活性種として働く。
開発の歴史
1965年にGolubev・Rozantsev・Neimanらによって、オキソアンモニウム塩を当量作用させると、アルコールがアルデヒドに酸化される反応が報告された。1987年にAnelliらにより、再酸化剤としてNaOClを用いることで、触媒量のTEMPOでカルボン酸に酸化酸化できることが見出された。その後、ZhaoらがNaClO2を化学量論量用い、NaClOを触媒量用いる改良法を報告した。同年、Widlanskiらによって、PhI(OAc)2が酸化剤として有効であることが示された。
反応例
Kuehneromycin Aの合成[1]
アリルアルコールは特に活性であり、酸化されやすい硫黄・セレン原子を含む化合物においても選択的に酸化を受ける。[2]
二相系で反応を行うと第1級/2級アルコールの選択的酸化が行える。[3]
AZADO試薬はTEMPOよりも立体障害が少なく、活性が高い。立体的に混み合ったアルコールの酸化も可能。[4]
実験手順
PhI(OAc)2を再酸化剤として用いるTEMPO酸化[5]
撹拌子を備えた250mL丸底フラスコに、以下の順序で試薬を加える:アセトニトリル(28 mL)、(Z)-3,7-dimethyl-2,6-octadien-1-ol (nerol) (5.70 mL, 32.5 mmol)、pH7.0緩衝水溶液(8 mL)、TEMPO (490 mg, 3.24 mmol)、ヨードベンゼンジアセテート (11.49 g, 35.71 mmol)。原料が消失するまで反応溶液を0℃で撹拌する。ジエチルエーテル(100 mL)で反応溶液を希釈し、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液(2×50mL)で洗浄する。水層をジエチルエーテル(3×35mL)で洗浄し、有機層を合わせ飽和重曹水(40mL)、飽和食塩水(40mL)で洗浄する。無水硫酸ナトリウムにて有機層を乾燥後、濾過し、エバポーレータ(35℃, 70 mmHg)にて濃縮する。残渣をカラムクロマトグラフィ(シリカゲル、ジエチルエーテル/ヘキサン=1/9)で生成することで、目的物を無色油状物質として得る(4.30-4.39 g, 収率87-89%)
実験のコツ・テクニック
参考文献
- Jauch, J. Angew. Chem., Int. Ed. 2000, 39, 2764. [abstract]
- De Mico, A.; Margarita, R.; Parlanti, L.; Vescovi, A.; Piancatelli, G. J. Org. Chem. 1997, 62, 6974. DOI: 10.1021/jo971046m
- Einhorn, J.; Einhorn, C.; Ratajczak, F.; Pierre, J.-L. J. Org. Chem. 1996, 61, 7452. DOI: 10.1021/jo9609790
- Shibuya, M.; Tomizawa, M.; Suzuki, I.; Iwabuchi, Y. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 8412. DOI: 10.1021/ja0620336
- Piancatelli,G.; Leonelli, F. Org. Synth. 2006, 83, 18. [PDF]
関連反応
- 植村酸化 Uemura Oxidation
- アルブライト・ゴールドマン酸化 Albright-Goldman Oxidation
- オッペナウアー酸化 Oppenauer Oxidation
- パリック・デーリング酸化 Parikh-Doering Oxidation
- フィッツナー・モファット酸化 Pfitzner-Moffatt Oxidation
- コーリー・キム酸化 Corey-Kim Oxidation
- 向山酸化 Mukaiyama Oxidation
- PCC/PDC酸化 PCC/PDC Oxidation
- TPAP(レイ・グリフィス)酸化 TPAP (Ley-Griffith)Oxidation
- デス・マーチン酸化 Dess-Martin Oxidation
- スワーン酸化 Swern Oxidation