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高井・内本オレフィン合成 Takai-Utimoto Olefination

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概要

ハロホルム(CHX3)とCrCl2によって調製したgem-ジクロム試薬とアルデヒドを反応させ、ハロゲン化アルケニルを合成する反応。

活性種である有機クロム化合物は官能基受容性が高く、穏和な条件下に進行することが最大のメリット。通常E-アルケンが主生成物として得られる。CHX3の代わりに1,1-ジハロゲニド(CR2X2)を用いることもできる。生成物は各種クロスカップリング反応の原料としても有用。

基本文献

<mechanism>
  • Hodgson, D. M.; Boulton, L. T.; Maw, G. N. Tetrahedron Lett. 1994, 35, 2231. doi: 10.1016/S0040-4039(00)76805-5
  • Takai, K.; Shinomiya, N.; Kaihara, H.; Yoshida, N.; Moriwake, T.; Utimoto, K. Synlett 1995, 963. doi:10.1055/s-1995-5141
  • Murai, M.; Taniguchi, R.; Hosokawa, N.; Nishida, Y.; Mimachi, H.; Oshiki, T.; Takai, K. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 13184. doi:10.1021/jacs.7b07487
  • Geddis, S. M.; Hagerman, C. E.;  Galloway, W. R. J. D.; Sore, H. F.; Goodman, J. F.; Spring, D. R. Beilstein J. Org. Chem. 2017, 13, 323. doi:10.3762/bjoc.13.35
  • Werner, D.; Anwander, R. J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 14334. doi:10.1021/jacs.8b08739
<review>

開発の経緯

1986年に京都大学(当時)の高井和彦・内本喜一郎らによって開発された。

高井和彦 (写真:日本化学会)

反応機構

gem-ジクロム化合物が活性種として提唱されている。E選択性についてはアルデヒド置換基の立体項が大きくなるほど改善される。またアルケニルハライドがI<Br<Cl順に選択性が良くなる。これらを合理的に説明する遷移状態モデルとして、Cr-X架橋構造を介する下記のようなものが提唱されている。

サリシルアルデヒド相手に反応を行うと、通常とは異なりZ-選択的反応が進行する(Beilstein J. Org. Chem. 2017, 13, 323.)が、Crとのキレーションによりアルデヒド置換基がアキシアル配座を向きやすくなるためだと考察される。

gem-ジクロム種の存在はごく最近まで実験的証拠に乏しい実情があったが、2017年に高井らによってgem-ジクロム有機金属化合物が単離・構造決定され、活性種相当の反応性を実際に示す事が確認された。

(結晶構造はJ. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 13184より引用)

反応例

亜鉛やマンガンを還元剤とし、O-Cr結合を解離させる目的でTMSClを添加することでクロムの触媒化が達成される[1]。

<全合成への応用>

極めて穏和に進行するために、様々な官能基豊富化合物や天然物合成中間体の合成に応用されている。

(+)-asimicinおよび(+)-bullatacinの合成[2]

(−)-Polycavernoside Aの合成[3]

Phorboxazole Aの合成[4]

Superstolide Aの合成[5]

実験のコツ・テクニック

  • CrCl2は極めて酸素に敏感であるため、失活には注意。

参考文献

  1. (a) Takai, K.; Ichiguchi, T.; Hikasa, S. Synlett 1999, 1268. DOI: 10.1055/s-1999-2829 (b) Takai, K.; Kunisada, Y.; Tachibana, Y.; Yamaji, N.; Nakatani, E. Bull. Chem. Soc. Jpn. 2004, 77, 1581. doi:10.1246/bcsj.77.1581
  2. Hoye, T. R.; Tan, L. Tetrahedron Lett. 1995, 36, 1981. doi:10.1016/0040-4039(95)00207-S
  3. Paquette, L. A.; Barriault, L.; Pissarnitski, D. J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 4542. doi:10.1021/ja990384x
  4. Smith, A. B., III; Minbiole, K. P.; Verhoest, P. R.; Schelhaas, M. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 10942. DOI: 10.1021/ja011604l
  5. Tortosa, M.; Yakelis, N. A.; Roush, W. R. J. Org. Chem. 2008, 73, 9657. doi:10.1021/jo801794s\

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