概要
アルデヒドからの一炭素増炭(Homologation)によるアルキン合成法。
1,1-ジハロアルケンを2当量のアルキルリチウムで処理した後、得られたリチウムアセチリドを酸で処理すると末端アルキンが選られる。この際、酸の代わりに求電子剤を捕捉剤として用いると、ワンポットで二置換アルキンへと変換できる。
強塩基性条件に耐えない基質には適用不可。
基本文献
- Desai, N. B.; McKelvie, N.; Ramirez, F. J. Am. Chem. Soc. 1962, 84, 1745. doi:10.1021/ja00868a057
- Corey, E. J.; Fuchs, P. L. Tetrahedron Lett. 1972, 13, 3769. DOI: 10.1016/S0040-4039(01)94157-7
Review
- Eymery, F.; Iorga, B.; Savignac, P. Synthesis 2000, 185. DOI: 10.1055/s-2000-6241
- Habrant, D.; Rauhala, V.; Koskinen, A. M. P. Chem. Soc. Rev. 2010, 39, 2007. DOI: 10.1039/b915418c
開発の経緯
一工程目のジブロモアルケン合成はFausto Ramirezらによって1962年に開発された。二工程目のジブロモアルケン→アルキンの転位はFritsch-Buttenberg-Wiechell転位と呼ばれる反応である。
E.J.Coreyとその学生Philip L. Fuchsが、これを組み合わせて実用的なアルキン合成とした。
反応機構
【Step 1】
ジブロモオレフィンへの変換はWittig反応やAppel反応と類似の機構で進行する。
【Step2】
アルキルリチウム処理によるアルキンへの変換は、単純なE2脱離機構では無い。立体的に空いているBrがハロゲン-リチウム交換をまず起こし、α脱離によってカルベン中間体が生成し、1,2-転位する機構で進行する(Fritsch-Buttenberg-Wiechell転位)。重水素ラベル化実験によって、水素が優先的に転位することが確かめられている(参考:Eur. J. Org. Chem. 2007, 2477.)。
また下記機構から分かるとおり、酸性度の高い末端C(sp)-HがBuLiによって即座に脱プロトン化されるため、BuLiは原料に対して2当量必要になる。
反応例
改良法
トリフェニルホスフィンの代わりにP(OiPr)3を用いることでジブロモアルケン合成の段階、特にケトンに対する反応性が改良され、精製も容易になることが示されている[1]。
天然物全合成への応用
(-)-Laulimalideの合成[2]
Callyspongiolideの全合成[3]
実験手順
Corey-Fuchs反応の適用例[4]
【1,1-ジブロモ-2-(4-メトキシフェニル)エテン】
CBr4(122 g、368 mmol)のCH2Cl2(500 mL)溶液に、窒素雰囲気下、0°CでPh3P(193 g、736 mmol)を加え、0°Cで1時間攪拌した。反応液にp-アニスアルデヒド (25 g、184 mmol)を加え、0°Cで1時間撹拌し、H2O(100 mL)でクエンチした。有機層を飽和食塩水(100 mL)で洗浄したのち、乾燥(MgSO4)し、減圧下で濃縮した。残渣をヘキサン(3 L)に注ぎ、上清を回収した。残渣をCH2Cl2(200mL)に再溶解し、ヘキサン(3 L)に注ぎ、上清を回収した。このプロセスをもう一度繰り返し、合わせた上清をシリカゲル(150 g)に通し、溶出液を濃縮して標記化合物を得た。収量:40 g (80%)。
【3-(4-メトキシフェニル)プロピオル酸メチル】
窒素雰囲気下、-78°Cに冷却した1,1-ジブロモ-2-(4-メトキシフェニル)エテン (30 g、103 mmol)の無水THF(350 mL)溶液に、BuLi(141 mL、226 mmol、1.6 M)をゆっくり滴下し、-78°Cで30分、引き続き0°Cで30分攪拌した。反応液にクロロギ酸メチル(11.6 mL、150 mmol)を-78°Cで加え、0°Cに昇温して1時間攪拌した。混合物を飽和NaHCO3/NH4Cl水溶液(1:1, 124 mL)で希釈し、水層をEt2O(125 mL)で抽出した。有機層を合わせて乾燥(MgSO4)させ、減圧下に濃縮した。得られた油状物を シリカゲルクロマトグラフィー(500g, 10% EtOAc/hexane)で精製し、16.7 g(85%)の目的物を得た。
実験のコツ・テクニック
- CBr4は通常アルデヒドに対して2当量用いられるが、この場合PPh3は4当量必要であり、大量の不要物が発生し除去が困難になる。Zn dustを2当量加えるプロトコルは、PPh3を2当量に減ずることが可能であり、精製も容易になるため好まれる。
関連動画
参考文献
- Fang, Y.-Q.; Lifchits, O.; Lautens, M. Synlett 2008, 413. DOI: 10.1055/s-2008-1032045
- Ghosh, A. K.; Wang, Y. J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 11027. DOI: 10.1021/ja0027416
- Wölfl, B.; Mata, G.; Fürstner, A. Chem. Eur. J. 2018, 25, 255. doi:10.1002/chem.201804988
- Morris, J.; Wishka, D. G. Synthesis 1994, 43. DOI: 10.1055/s-1994-25402
関連反応
- フリッチュ・ブッテンバーグ・ウィーチェル転位 Fritsch-Buttenberg-Wiechell Rearrangement
- デーリング・ラフラム アレン合成 Doering-LaFlamme Allene Synthesis
- アッペル反応 Appel Reaction
- ホーナー・ワズワース・エモンス反応 Horner-Wadsworth-Emmons (HWE) Reaction
- ウィッティヒ反応 Wittig Reaction
- コルヴィン転位 Colvin Rearrangement
- セイファース・ギルバート アルキン合成 Seyferth-Gilbert Alkyne Synthesis
- 大平・ベストマン アルキン合成 Ohira-Bestmann Alkyne Synthesis
関連書籍
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- Corey-Fuchs Reaction (Organic Chemistry Portal)
- Corey-Fuchs Reaction – Wikipedia
- コーリー・フックス反応 – Wikipedia
- Corey-Fuchs Reaction (SynArchive)