[スポンサーリンク]

B

ベンジル保護基 Benzyl (Bn) Protective Group

[スポンサーリンク]

概要

ベンジル(benzyl, Bn)基は、汎用性の高いアルコールおよびアミンの保護基である。

強塩基条件・加水分解条件・強酸性条件・求核剤・ヒドリド還元など、各種条件に耐える。最も安定な保護基の一つであるため、合成序盤で導入されることが多い。

基本文献

  • Czernecki, S.; Georgoulis, C.; Provelenghiou, C. Tetrahedron Lett. 1976, 17, 3535. doi:10.1016/S0040-4039(00)71351-7
  • Bn-trichloroimidate: (a) Iversen, T.; Bundlem, D. R. J. Chem. Soc. Chem. Commun. 1981, 1240. doi: 10.1039/C39810001240 (b) Wessel, H.-P.; Iversen, T.; Bundle, D. R.  J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1985, 2247. doi:10.1039/P19850002247
  • TMS-I deprotection: Jung, M. E.; Lyster, M. A. J. Org. Chem. 1977, 42, 3761. DOI: 10.1021/jo00443a033

反応機構

保護

アルコールに対しては、臭化ベンジル(BnBr)・水素化ナトリウム(NaH)・THFまたはDMF溶媒の組み合わせがもっともよく用いられる。Williamsonエーテル合成と同様の機構で進行する。

またベンジルトリクロロイミデート(BnOC(=NH)CCl3を用いることで、強ブレンステッド酸条件下(TfOH)にベンジルエーテルを得ることができる。塩基性条件下不安定な化合物に適用可能。

脱保護

脱保護は還元条件で行なうのが一般的である。最も典型的にはパラジウム/炭素触媒を用いる接触水素還元で脱保護が成される。脱保護速度は溶媒に依存する(下図)。またBirch還元や電解還元などの1電子還元条件も使用可能である。

 

TMS-I、BCl3などの「ルイス酸+求核剤」条件もよく用いられる。酸素親和性の高いルイス酸が活性化剤として働き、ベンジル位との求核置換反応を促進させる。

DDQなど、適切な酸化条件を選ぶことでも除去できる(下記反応例参照)。

反応例

保護

典型例[1]:丈夫なため合成の初期段階で導入されることが多い。

Dudley試薬によるベンジル化[2]:試薬は安定で取り扱い容易であり、中性条件で反応が進行する。

TriBOTを用いる酸性条件でのベンジル化[3]:3つのBn基全てが機能する。

酸化銀(Ag2O)でBnBrを活性化することで、ジオールのモノベンジル化が効率良く行える[4]。

DPT-BM試薬を用いるベンジル化[5]:ほぼ中性条件でかつ室温で行える特長がある。

スズアセタール法による選択的ベンジル保護[6]

脱保護

O-Bn共存下におけるN-Bn基の選択的脱保護[7]:イミンへの酸化を経由する。

アンモニア源はPd/C-H2条件でのベンジル除去に対して阻害剤として機能する[8]。

トリクロロ酢酸をダミー基質として加えることで、接触還元されてしまうTroc基を保ったままにBn除去が行える[9]。

リチウム―di-tert-butylbiphenyl(LiDBB)によるBn基の除去[10]

BCl3条件を用いる脱保護の例[11]

BCl3条件で発生するベンジルカチオンが引き起こす副反応を防ぐため、ペンタメチルベンゼンを捕捉剤として加える条件が開発されている[12]。下記はYatakemycinの全合成への応用例[13]。

SnCl4条件を用いる選択的脱保護の例[14]

RuO4酸化に伏してベンゾイル基に変換することで、ヒドリド還元条件もしくは加水分解条件でBn基を除去できるようになる[15]。

下記条件では、アルコール隣接位のBnだけを除去できる[16]。

DDQによって酸化的除去も可能。以下は(+)-Laurencin合成への応用例[17]。

2-ナフチルメチル(NAP)基[18]は、酸化条件でベンジル基よりも容易に切断できる。下記はCiguatoxin CTX3Cの全合成において、Bn基からNAP基に変更することで顕著な収率改善を見せた例である[19]。

テトラセノマイシン類の全合成[20]:重ベンジル基が酸化条件に強い保護基として活用されている。三級アルコール上のBn基はDDQ処理で外れやすい[21]ため、この工夫が必要となっている。

実験手順

 

実験のテクニック・コツ

  • Bu4NI(TBAI)やNaIを触媒量加えておくと、保護反応が加速される。BnClやBnBrが系中で高反応性のBnIに変換されるためである。
  • BnBrは催涙性物質なので、ドラフト中で取り扱うことが望ましい。
  • クエンチ時には水を加えるのではなく、炭酸カリウム-メタノールを加えてしばらく攪拌すると、催涙性のBnBrがうまくつぶれてくれる。後処理が快適になるのでオススメ。
  • 外れにくいBn基はしばしば水素添加によってシクロヘキシルメチル基に変換されてしまう。
  • DMF溶媒を使うと、展開時にスポットがテーリングしてTLCが見づらくなる。TLCプレートを数分真空引きしてから展開すると見やすくなる。
  • 抽出操作の際は、低極性の溶媒(Et2Oやhexane-EtOAc混合溶媒系)で抽出し、水洗いするとDMFが除きやすい。
  • Pd/C触媒は試薬・溶媒を加えるときにしばしば発火するので注意。フラスコをアルゴン置換してから加えると発火しづらくなる。
  • 反応が行きづらいからといって途中でPd/C触媒を足すのは厳禁。高確率で発火する。一旦ろ過して仕込み直す。

参考文献

  1. Oguri, H.; Hishiyama, S.; Oishi, T.; Hirama, M. Synlett 1995, 1252. DOI: 10.1055/s-1995-5259
  2. (a) Poon, K. W. C.; Dudley, G. B. J. Org. Chem. 2006, 71, 3923. DOI: 10.1021/jo0602773 (b) Poon, K. W. C.; House, S. E.; Dudley, G. B. Synlett 2005, 3142. DOI: 10.1055/s-2005-921898
  3. Yamada, K.; Fujita, H.; Kunishima, M. Org. Lett. 2012, 14, 5026. DOI: 10.1021/ol302222p
  4. Bouzide, A.; Sauvé, G. Tetrahedron Lett. 1997, 38, 5945. DOI: 10.1016/S0040-4039(97)01328-2
  5. Yamada, K.; Tsukada, Y.; Karuo, Y.; Kitamura, M.; Kunishima, M.  Chem. Eur. J. 2014, 20, 12274. doi:10.1002/chem.201403158
  6. (a) Cruzado, C.; Bernabe, M.; Martin-Lomas, M. J. Org. Chem. 1989, 54, 465. DOI: 10.1021/jo00263a038 (b) Simas, A. B. C.; Pais, K. C.; da Silva, A. A. T. J. Org. Chem. 2003, 68, 5426. DOI: 10.1021/jo026794c (c) Boons, G.-J.; Castle, G. H.; Clase, J. A.; Grice, P.; Ley, S. V.; Pinel, C. Synlett 1993, 913. DOI: 10.1055/s-1993-22650
  7. Kroutil, J.; Tmka, T.; Cemy, M. Synthesis 2004, 446. DOI: 10.1055/s-2004-815937
  8. (a) Czech, B. P.; Bartsch, R. A. J. Org. Chem. 1984, 49, 4076. DOI: 10.1021/jo00195a045 (b) Sajiki, H. Tetrahedron Lett. 1995, 36, 3465. doi:10.1016/0040-4039(95)00527-J (c) Sajiki, H.; Hirota, K. Tetrahedron 1998, 54, 13981. doi:10.1016/S0040-4020(98)00882-5
  9. Boger, D. L.; Kim, S. H.; Mori, Y.; Weng, J.-H.; Rogel, O.; Castle, S. L.: McAtee, J. J. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 1862.  DOI: 10.1021/ja003835i
  10. Shimshock, S. J.; Waltermire, R. E.; DeShong, P. J. Am. Chem. Soc. 1991, 113, 8791. DOI: 10.1021/ja00023a029
  11. Williams, D. R.; Brown, D. L.; Benbow, J. W. J. Am. Chem. Soc. 1989, 111, 1923. DOI: 10.1021/ja00187a081
  12. (a) Yoshino, H.; Tsuchiya, Y.; Saito, I.; Tsujii, M. Chem. Pharm. Bull. 1987, 35, 3438. doi:10.1248/cpb.35.3438 (b) Yoshino, H.; Tsujii, M.; Kodama, M.; Komeda, K.; Niikawa, N.; Tanase, T.; Asakawa, N.; Nose, K.; Yamatsu, K. Chem. Pharm. Bull. 1990, 38, 1735. doi:10.1248/cpb.38.1735 (c) Okano, K.; Okuyama, K.-i.; Fukuyama, T.; Tokuyama, H. Synlett 2008, 1977. DOI: 10.1055/s-2008-1077980
  13. (a) Okano, K.; Tokuyama, H.; Fukuyama, T. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 7136. DOI: 10.1021/ja0619455 (b) Okano, K.; Tokuyama, H.; Fukuyama, T. Chem. Asian J. 2008, 3, 296. doi:10.1002/asia.200700282
  14. Hori, H.; Nishida, Y.; Ohrui, H.; Meguro, H. J. Org. Chem. 1989, 54, 1346. DOI: 10.1021/jo00267a022
  15. (a) Schuda, P. F.; Cichowicz, M. B.; Heimann, M. R. Tetrahedron Lett. 1983, 24, 3829. doi:10.1016/S0040-4039(00)94286-2 (b) Ritter, T.; Zarotti, P.; Carreira, E. M. Org. Lett. 2004, 6, 4371. DOI: 10.1021/ol0480832
  16. (a) Madsen, J.; Bols, M. Angew. Chem. Int. Ed. 1998, 37, 3177. doi:10.1002/(SICI)1521-3773(19981204)37:22<3177::AID-ANIE3177>3.0.CO;2-A (b) Madsen, J.; Viuf, C.; Bols, M. Chem. Eur. J. 2000, 6, 1140. doi: 10.1002/(SICI)1521-3765(20000403)6:7<1140::AID-CHEM1140>3.0.CO;2-6
  17. Baek, S.: Jo, H.; Kim, H.; Kim, H.; Kim, S.; Kim, D. Org. Lett. 2005, 7, 75. DOI: 10.1021/ol047877d
  18. (a) Gaunt, M. J.; Yu, J.; Spencer, J. B. J. Org. Chem. 1998, 63, 4172. DOI: 10.1021/jo980823v (b) Wright, J. A.; Yu, J.; Spencer, J. B. Tetrahedron Lett. 2001, 42, 4033. doi: 10.1016/S0040-4039(01)00563-9 (c) Xia, J.; Abbas, S. A.; Locke, R. D.; Piskorz, C. F.; Alderfer, J. L.; Matta, K. L. Tetrahedron Lett. 2000, 41, 169. doi:10.1016/S0040-4039(99)02046-8
  19. Inoue, M.; Uehara, H.; Maruyama, M.; Hirama, M. Org. Lett. 2002, 4, 4551. DOI: 10.1021/ol027105m
  20. Sato, S.; Sakata, K.; Hashimoto, Y.; Takikawa, H.; Suzuki, K. Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 12608. DOI: 10.1002/anie.201707099
  21. (a) Oikawa, Y.; Horita, K.; Yonemitsu, O. Tetrahedron Lett. 1985, 26, 1541. doi:10.1016/S0040-4039(00)84871-6 (b) Oikawa, Y.; Tanaka, T.; Yonemitsu, O. Tetrahedron Lett. 1986, 27, 3647. doi:10.1016/S0040-4039(00)98547-2

関連反応

関連書籍

Greene's Protective Groups in Organic Synthesis (English Edition)

Greene's Protective Groups in Organic Synthesis (English Edition)

Wuts, Peter G. M.
¥13,205(as of 12/22 09:40)
Release date: 2014/08/08
Amazon product information

外部リンク

関連記事

  1. 根岸カルボメタル化 Negishi Carbometalatio…
  2. 三枝・伊藤 インドール合成 Saegusa-Ito Indole…
  3. クライゼン転位 Claisen Rearrangement
  4. 可逆的付加-開裂連鎖移動重合 RAFT Polymerizati…
  5. ポロノフスキー開裂 Polonovski Fragmentati…
  6. トラウベ プリン合成 Traube Purin Synthesi…
  7. ティシチェンコ反応 Tishchenko Reaction
  8. ルボトム酸化 Rubottom Oxidation

注目情報

ピックアップ記事

  1. JAMSTEC、深度1万900mに棲むエビから新酵素を発見 – バイオ燃料応用に期待
  2. 谷口 透 Tohru Taniguchi
  3. 中村 正治 Masaharu Nakamura
  4. MEDCHEM NEWS 32-4 号「創薬の将来ビジョン」
  5. ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン:Benzo[1,2-b:4,5-b’]dithiophene
  6. 三井化学、出光興産と有機EL材料の協業体制構築で合意
  7. ~祭りの後に~ アゴラ企画:有機合成化学カードゲーム【遊機王】
  8. ムレキシド反応 Murexide reaction
  9. タルセバ、すい臓がんではリスクが利点を上回る可能性 =FDA
  10. 反芳香族性を有する拡張型フタロシアニン

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP