概要
触媒量の四酸化オスミウムと再酸化剤共存下、アルケンをcis–vic-ジオールへと変換する反応。きわめて穏和に進行するうえ、他の試薬では実現しにくい変換でもあるため、オスミウムの高価さにもかかわらず頻繁に用いられる条件である。
アセトン/水、もしくはt-BuOH/水の混合溶媒系が多用されている。
再酸化剤としては、固体で取り扱い容易なN-メチルモルホリンオキシド(NMO)がもっともよく用いられる(Upjohn法)。他にはトリメチルアミンオキシド(Me3NO)、t-BuOOH(Milas法)、OsCl3-K3Fe(CN)6なども用いられる。
過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO4)を再酸化剤として用いれば、生成するジオールを系中で連続的に酸化的開裂できる。この場合、生成物はカルボニル化合物となる(Lemieux-Johnson酸化)。
ピリジンなどの配位性アミンを共存させることで反応が加速される。
メタンスルホニルアミド(MsNH2)の添加も反応加速効果がある(オスメートエスエルの加水分解を促進するとされている)、
キニーネ/キニジン由来の不斉配位子を併用すれば、不斉ジヒドロキシル化も可能である(SharplessAD)。
基本文献
- Milas, N. A.; Sussman, S. J. Am. Chem. Soc. 1936, 58,1302. doi:10.1021/ja01298a065
- VanRheenen, V.; Kelly R. C.; Cha, D. Y. Terahedron Lett. 1976, 1973. doi:10.1016/S0040-4039(00)78093-2
- Sharpless, K. B.; Akashi, K. J. Am. Chem. Soc. 1976, 98, 1986. DOI: 10.1021/ja00423a067
- Lemieux-Johnson Oxidation: Pappo, R.; Allen, D. S., Jr.; Lemieux, R. U.; Johnson, W. S. J. Org .Chem. 1956, 21, 478. DOI:10.1021/jo01110a606
<review>
- Cha, J. K.; Kim, N.-S. Chem. Rev. 1995, 95, 1761. DOI: 10.1021/cr00038a003
- Eames, J.; Mitchell, H.; Nelson, A.; O’Brien, P.; Warren, S.; Wyatt, P. J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1 1999, 1095. doi:10.1039/a900277d
- Francais, A.; Bedel, O.; Haudrechy, A. Tetrahedron 2008, 64, 2495. doi:10.1016/j.tet.2007.11.068
反応機構
四酸化オスミウムはオレフィンに[3+2]付加を起こし、オスメートエステル中間体を与える。触媒回転させるには、オスメートエステルが加水分解される必要がある。このため、通常含水系で反応が行われる。この加水分解が触媒系の律速段階となっている。
反応例
- 過ヨウ素酸ナトリウムを再酸化剤として用いると、ワンポットでアルケンの開裂が起こせる。2,6-ルチジンを共存させておくことで副反応が防げる。[1]
- クロラミン-Tなどを共存させておくと、アミノヒドロキシル化を起こすことも可能である。[2]
- スルホニルオキシカルバメートを用いるアミノ基の分子内導入を行った例。[3]
- 分子内にアルコールが存在する基質の場合、酸化的環化反応が進行する。[4]
- フェニルボロン酸存在下で反応を行うと、反応性が劇的に改善されるとともに、ジオールをフェニルホウ酸エステルとして単離可能[5a]。また生じたアルコールの酸化による副反応を防ぐことができる。さらに、通常の条件に加えてジアステレオ選択性が変化する場合がある[5b]
以下は奈良坂変法をSordarinの合成へと適用した例である[6]。
- TMEDA配位子の電子供与性により、化合物のヒドロキシル基などの極性官能基と水素結合を形成しやすくなり、極性官能基側からよりジヒドロキシ化が進行するといわれている(Donohoe変法)[7]
実験手順
シクロヘキセンのジヒドロキシル化[8]
実験のコツ・テクニック
※マイクロカプセル化四酸化オスミウムは、揮発性が無く濾過によって回収再利用も可能であるため、大変扱いやすい。本試薬は和光純薬工業より市販されている。[9]
※四酸化オスミウムは揮発性であり毒性が強いため、反応はドラフト中で行うこと。
参考文献
- ] Yu, W.; Mei, Y.; Kang, Y.; Hua, Z.; Jin, Z. Org. Lett. 2004, 6, 3217. DOI: 10.1021/ol0400342
- Sharpless, K. B.; Chong, A. O.; O’Shima, K. J. Org. Chem. 1976, 41, 177. DOI: 10.1021/jo00863a052
- Donohoe, T. J.; Chughtai, M. J.; Klauber, D. J.; Griffin, D.; Campbell, A. D. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 2514. DOI: 10.1021/ja057389g
- (a) Donohoe, T. J.; Harris, R. M.; Burrows, J.; Parker, J. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 13704. DOI: 10.1021/ja0660148 (b) Donohoe, T. J.; Wheelhouse, K. M. P.; Lindsay-Scott,P. J.; Churchill, G. H.; Connolly, M. J.; Butterworth, S.; Glossop, P. A. Chem. Asian. J. 2009, 4, 1237. DOI: 10.1002/asia.200900168
- (a) Iwasawa, N.; Kato, T.; Narasaka, K. Chem. Lett. 1988, 1721. doi:10.1246/cl.1988.1721 (b) Gypser, A.; Michel, D.; Nirschl, D. S.; Sharpless, K. B. J. Org. Chem. 1998, 63, 7322. DOI:10.1021/jo980850l
- Chiba, S.; Kitamura, M.; Narasaka, K. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 6931. DOI: 10.1021/ja060408h
- (a) Donohoe, T. J.; Moore, P. R.; Waring, M. J.; Newcombe, N. J. Tetrahedron Lett. 1997, 38, 5027. (b) Donohoe, T. J.; Mitchell, L.; Waring, M. J.; Helliwell, M.; Bell, A.; Newcombe, N. J. Tetrahedron Lett. 2001, 42, 8951.
- VanRheenen, V.; Kelly R. C.; Cha, D. Y. Terahedron Lett. 1976, 1973. doi:10.1016/S0040-4039(00)78093-2
- (a) Nagayama, S.; Endo, M.; Kobayashi, S. J. Org. Chem. 1998, 63, 6094. DOI: 10.1021/jo981127y (b) Kobayashi, S.; Endo, M.; Nagayama, S. J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 11229. DOI: 10.1021/ja993099m
関連反応
- ケネディ酸化的環化反応 Kennedy Oxydative Cyclization
- シャープレス不斉アミノヒドロキシル化 Sharpless Asyemmtric Aminohydroxylation (SharplessAA)
- シャープレス不斉ジヒドロキシル化 Sharpless Asyemmtric Dihydroxylation (SharplessAD)
- ウォルフ・キシュナー還元 Wolff-Kishner Reduction
関連書籍
外部リンク
- 四酸化オスミウム(Wikipedia日本)
- Osmium Tetroxide (Wikipedia)
- Upjohn Dihydroxylation (organic-chemistry.org)
- マイクロカプセル化四酸化オスミウム
- Upjohn dihydroxylation – Wikipedia