[スポンサーリンク]

天然物

ノビリシチンA Nobilisitine A

[スポンサーリンク]

 

ノビリシチンA (nobilisitine A)は、Clivia nobilis から単離されたアルカロイドの一種である。1999年にEvidenteらにより単離された[1]1H NMRと13C NMRを用いた解析により、下図(1)の構造が提唱された。しかし、2010年にBanwellらがノビリシチンAの全合成を達成したところ、そのNMRスペクトルは、Evidenteらが単離したものとは異なっていた[2]。Banwell らは、X線結晶構造解析も行い構造を確認し、Evidenteらの提案した化学構造が誤りであることを示した。

NobilisitineA

 

計算化学による構造訂正

2011年にTantilloらは、計算化学を用いてノビリシチンAのNMRスペクトルの計算を行った[3]

ノビリシチンAには32個のstereo isomerが存在する。Deanらは、EvidenteらのNMRスペクトルを詳しく解析し、C/D環がcis縮環していると予想した。そして、8個の立体異性体(stereo isomer)にまで候補を絞った。

Stereo isomerだけでなく、flexibleな化合物の計算を行う際には、コンフォメーションにも気をつけなくてはならない。8個のstereo isomerそれぞれに配座異性体(conformer)があると考えると、膨大な数になってしまう。そこで、TantilloらはBanwellらのNMRスペクトルに着目した。BanwellらはX線結晶構造解析も行っており、コンフォメーションも明らかとなっているからである。

DFT計算を行なった結果、1H NMRは平均 0.31ppm、13C NMRは平均3.4 ppmというわずかなズレで計算値と実験値が一致した。このことより、用いた汎関数が適切であるということ、計算化学によりノビリシチンAのNMRスペクトル予測が出来るのではないか、と言うことに関して確証が得られた。

NobilisitineA2

 

その後、Tantilloら上に示す化合物について計算を行い、実測値と計算値のズレが最も小さい化合物4をノビリシチンAと提唱している。今後、化合物4の全合成が行われれば、この計算の正しさが証明されるに違いない。

 

関連文献

  1. Evidente, A.; Abou-Donia, A. H.; Darwish, F. A.; Amer, M. E.; Kassem, F. F.; Hammoda, H. A. M.; Motta, A. Phytochemistry 1999, 51, 1151–1155. DOI: 10.1016/S0031-9422(98)00714-6
  2. Schwartz, B. D.; Jones, M. T.; Banwell, M. G.; Cade, I. A. Org. Lett. 2010, 12, 5210–5213. DOI: 10.1021/ol102249q
  3. Michael W. Lodewyk and Dean J. Tantillo J. Nat. Prod. 2011, 74, 1339–1343. DOI: 10.1021/np2000446

 

Avatar photo

ゼロ

投稿者の記事一覧

女の子。研究所勤務。趣味は読書とハイキング ♪
ハンドルネームは村上龍の「愛と幻想のファシズム」の登場人物にちなんでま〜す。5 分後の世界、ヒュウガ・ウイルスも好き!

関連記事

  1. 2,5-ジ-(N-(­­­­–)-プロイル)-パラ-ベンゾキノン…
  2. クレアチン creatine 
  3. ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン / Hexanitrohe…
  4. 亜鉛クロロフィル zinc chlorophyll
  5. ロピニロールのメディシナルケミストリー -iPS創薬でALS治療…
  6. 化学者のためのエレクトロニクス講座~化合物半導体編
  7. フェノールフタレイン ふぇのーるふたれいん phenolphth…
  8. テトラメチルアンモニウム (tetramethylammoniu…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 製薬産業の最前線バイオベンチャーを訪ねてみよう! ?シリコンバレーバイオ合宿?
  2. 三共、第一製薬が統合へ 売上高9000億円規模
  3. 投票!2018年ノーベル化学賞は誰の手に!?
  4. トシルヒドラゾンとボロン酸の還元的カップリング反応とその応用展開
  5. 2009年8月人気化学書籍ランキング
  6. d8 Cu(III) の謎 –配位子場逆転–
  7. 掃除してますか?FTIR-DRIFTチャンバー
  8. ハンチュ ジヒドロピリジン合成  Hantzsch Dihydropyridine Synthesis
  9. 独バイエル、2004年は3部門全てで増収となった可能性=CEO
  10. 高校生が河川敷で化学実験中に発火事故

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年10月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

有機合成化学協会誌2025年2月号:C–H結合変換反応・脱炭酸・ベンゾジアゼピン系医薬品・ベンザイン・超分子ポリマー

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年2月号がオンライン公開されています。…

草津温泉の強酸性硫黄泉で痺れてきました【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい!  というわけで、硫黄系の温泉であり、日本でも最大の自然温泉湧出量を誇る草津温泉…

ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法

第643回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の木之下 拓海(きのした …

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP