エンテロシン(Enterocin)は、放線菌Streptomyces maritimusにより生産される抗生物質である。ユニークなかご状骨格を持ち、古くから研究が行われて来た。
40年以上前に行なわれた同位体標識実験の結果より、その生合成過程においてFavorskii転位が起こっていることが示唆された。そのため、生合成の観点からも注目を集めていた。2000年には、Bradley Mooreらによりその生合成遺伝子が明らかとされた [1]。
エンテロシンの生合成
エンテロシンは、II型ポリケタイド合成酵素が関わっていることが明らかとなっている[2]。EncCによりオクタケタイド中間体を経た後に、環化が起こりエンテロシンとなる。しかし、通常のII型ポリケタイド合成酵素と異なり、Enterocinには、環化酵素が存在しなかった。そのため、どの酵素がFavorskii転位を触媒しているのか、また、Favorskii転位は非酵素的に進行しているのかについては、謎であった。
2013年にBradley S. Mooreらはエンテロシン生合成酵素のEncMの結晶化に成功し、その酵素反応解析とX結晶構造解析から、EncMがFavorskii転位反応を触媒していることを明らかとした[3]。
生合成におけるFavorskii転位について
エンテロシン以外にも生合成過程においてFavorskii転位が行なわれていると考えられているものが存在する。有名なところで言えばオカダ酸である。EncM以前に、酵素的にFavorskii転位反応が進行する例はほとんど知られていなかった。今後様々な天然物の生合成を明らかにしていく上で、エンテロシンの生合成研究から得られた知見は、大変重要であると考えられている。
3Dモデル
関連文献
- Cloning, sequencing and analysis of the enterocin biosynthesis gene cluster from the marine isolate `Streptomyces maritimus’: evidence for the derailment of an aromatic polyketide synthase, Jorn Piel, Christian Hertweck, Paul R Shipley, Deanna M Hunt, Mark S Newman and Bradley S Moore, Chem. Biol.2000, 7, 943-955. DOI: 10.1016/S1074-5521(00)00044-2
- EncM, a versatile enterocin biosynthetic enzyme involved in Favorskii oxidative rearrangement, aldol condensation, and heterocycle-forming reactions, Longkuan Xiang, John A. Kalaitzis, and Bradley S. Moore
Proc. Natl. Acad. Sci. 2004, 101, 15609-15614. DOI: 10.1073/pnas.0405508101 - Flavin-mediated dual oxidation controls an enzymatic Favorskii-type rearrangement, Robin Teufel, Akimasa Miyanaga, Quentin Michaudel, Frederick Stull, Gordon Louie, Joseph P. Noel, Phil S. Baran, Bruce Palfey & Bradley S. Moore, Nature 2013, 503, 552-558. DOI: 10.1038/nature12643