グリチルリチン酸は、生薬植物である甘草に多く含まれる天然有機化合物。甘草は漢方薬で最も汎用される植物であり、グリチルリチン酸は目薬・化粧品・シャンプー・入浴剤・その他 医薬部外品にも入っていることがあります。漢方薬には、甘草の根を乾燥したものを使います。
良薬が口に甘い!?
グルクロン酸が2つ結合した配糖体であるグリチルリチン酸?(glycyrrhizic acid)には特有の甘味があります。グルクロン酸が1つだけの場合はさらに6倍の甘味がある[2]一方で、グルクロン酸がまったく結合していない場合はあまり甘味を感じません。配糖体に糖がついていないアグリコンは、グリチルレチン酸?(glycyrrhezic acid)と呼ばれます。体内で、糖がついたグリチルリチン酸は、糖がついていないグリチルレチン酸に分解されます。糖がついていないグリチルレチン酸には、コルチゾールをコルチゾンにするステロイドホルモン変換酵素の阻害活性[1]があり、糖質コルチコイドとして知られるコルチゾールが蓄積します。多成分系天然物である甘草抽出物の薬理作用は、主にこのグリチルレチン酸によるものだと考えられています。グリチルリチン酸は甘味料としても使用が可能であり、欧米では食料や飲料への利用がよく見られる一方で、過剰に摂取すると、コルチゾールが糖質コルチコイドとしてステロイドホルモンを認識する受容体タンパク質だけでなく、鉱質コルチコイドどしてステロイドホルモンを認識する受容体タンパク質にまで結合して作用を示し出し、副作用として高血圧などの症状が出ることもあるため、注意が必要です。
グリチルリチン酸の生合成
カンゾウ(Glycyrrhiza uralensis?; 甘草) 発現遺伝子の研究から、生合成の鍵となる酵素が、いくつか解き明かされています。まず炭素骨格ができます。この次に、分子が酸化されてグリチルレチン酸になります。11位の炭素原子を酸化する酵素は CYP88D6 [3]、30位の炭素原子を酸化する酵素はCYP72A156 [4]と判明しており、いずれもシトクロムP450と呼ばれる種類のタンパク質です。このあと、配糖体化酵素が作用して、糖がついていないグリチルレチン酸は、糖がついたグリチルリチン酸に変換されると考えられています。
分子モデル
参考文献
[1] “Glycyrrhetinic acid bound to 11 beta-hydroxysteroid dehydrogenase in rat liver microsomes.” Atsushi Irie et al.?Biochim. Biophys. Acta. 1992, DOI: 10.1016/0167-4838(92)90012-3
[2] “Sweetness of glycyrrhetic acid 3-O-beta-d-monoglucuronide and the related glycosides.” Kenji Mitsutani et al.?Biosci. Biothech. Biochem. 1994 DOI:10.1271/bbb.58.554
[3] “Licorice beta-amyrin 11-oxidase, a cytochrome P450 with a key role in the biosynthesis of the triterpene sweetener glycyrrhizin.” Hikaru Seki et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2008 DOI:?10.1073/pnas.0803876105
[4] “Triterpene Functional Genomics in Licorice for Identi?cation of CYP72A154 Involved in the Biosynthesis of Glycyrrhizin.” Hikaru Seki et al.Plant Cell 2011 DOI:10.1105/tpc.110.082685