コルク栓を使ったワインは、保存状態によっては、特有のカビ臭「ブショネ」が生じます。このブジョネ臭の正体が、トリクロロアニソールです。コルクは次亜塩素酸ナトリウム水溶液で殺菌されます。このとき残留した塩素原子が、ある種のカビで代謝されると、トリクロロアニソールができると考えられています。
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詳細
ワインの香り成分は、数十年前の20世紀の技術でも数百種類が確認されています。トリクロロアニソール(2,4,6-trichloroanisole)は、コルクのカビ臭「ブショネ(bouchonne)」の原因分子です。ブジョネ臭があると、ワインの香りを楽しむどころではなくなり、大きく品質を損ねてしまいます。ブショネ臭のするワインからは、数十から数百ppm程度のトリクロロアニソールが検出されます。
トリクロロアニソールは、傷んだワインから1982年に見出されました[1]。トリクロロアニソールの分離にあたっては、まずペンタンと酢酸エチルを混合し有機層を回収します。次に水酸化ナトリウム水溶液と混ぜて酸性成分を除き有機層を回収します。ここからガスクロマトグラフィー・官能検査・質量分析を活用して、トリクロロアニソールの同定に至りました。実際に、きわめて少量のトリクロロアニソールを、開栓したばかりの新しいワインに加えると、ブジョネ臭が確かに再現されたとのことです[1]。
トリクロロアニソールは、嗅覚受容細胞に作用し、一時的に他の匂いを抑え込みます[2]。わたしたちヒトは、これをブショネ臭として不快に感じるわけです。トリクロロアニソールがあっても、ワインの香り分子は細胞膜上の受容体タンパク質(olfactory receptor)で認識されており、そのため細胞の中でセカンドメッセンジャーとなる環状アデノシンモノリン酸(cyclic adenosine monophosphate; cAMP)の濃度が高まります。しかし、トリクロロアニソールがあると、セカンドメッセンジャーの濃度上昇に本来は応答すべきイオンチャネルがはたらかず、したがって脳に電気信号が伝わらないため、嗅覚が遮断されてしまうという仕組みです。このような現象は、1リットルあたりのトリクロロアニソール分子が、ナノモル(nano molar; nmol)やピコモル(pico molar; pmol)やフェムトモル(femto molar; fmol)よりもさらに少ない、わずかアトモル(ato molar; amol)のオーダーで起こると確かめられています[2]。
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分子モデル(GIFアニメーション動作確認; Internet Explorer, Google Chrome)
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参考文献