テトラメチルアンモニウムは、最も構造が単純な第4級アンモニウム。化学の広範な分野で用途があります。分子のかたちが神経調節物質であるアセチルコリンと似ているため神経毒性があり、巻貝のエゾボラはテトラメチルアンモニウムを含有することが知られています。
- 詳細
テトラメチルアンモニウムは、テトラミン(tetramine)とも呼ばれます。水酸化テトラメチルアンモニウムや塩化テトラメチルアンモニウムのかたちで手に入れることができます。有機合成や生化学試薬、素材の原材料などとして、テトラメチルアンモニウムは用途があります。
ただし、テトラメチルアンモニウムには、アンモニア類に共通した塩基性による化学やけどに加えて、きわだった神経毒性があるため、取り扱いには注意が必要です。テトラメチルアンモニウムは神経伝達物質であるアセチルコリンの代わりに、神経細胞の表面にあるアセチルコリン受容体タンパク質に作用し、筋肉の麻痺や呼吸困難を起こして、一度で大量に摂りこんでしまった場合は死に至ることもあります。
テトラメチルアンモニウムイオン(左)とアセチルコリン(右)の構造式
テトラメチルアンモニウムには、実験室だけでなく自然界でも作る生き物がいます。一般にはよくつぶ貝と呼ばれる巻貝のなかまです。エゾボラ属に分類される巻貝(Neptunea sp.)のうち、イギリスの比較的に冷たい北側の沿岸部で見られるなかま(Neptunea antiqua )で、テトラメチルアンモニウムは最初に発見[1]されました。この他に、食用として国内市場に流通している次の巻貝でも含有が確認されています。
・エゾボラ(Neptunea polycostata )
・エゾボラモトキ(Neptunea intersculpta )
・チヂミエゾボラ(Neptunea constricta )
・クリイロエゾボラ(Neptunea lamellose )
・ヒメエゾボラ(Neptunea arthritica )
これらエゾボラ属の巻貝の調理にあたっては、テトラメチルアンモニウムが濃縮された唾液腺を確実に取り除くことが必要になります。中毒症状は、頭痛やめまいが2時間から3時間ほど続くというもので、国内に死亡例はないようです。十分に注意しましょう。
エゾボラ属の巻貝におけるテトラメチルアンモニウムの蓄積には季節差があります。秋から冬にかけてはとくに濃度が高く、季節によっては最大で湿重量1gあたり2mgから9mgほどにも達します[2]。テトラメチルアンモニウムは成人男性の場合、10mg以上の摂取で効果が現れると考えられています。
エゾボラ属の巻貝は肉食性であり、飼育観察の結果から、餌となる二枚貝の捕獲にテトラメチルアンモニウムを使っていると考えられています[2]。この他、微量を海水中に漂わせることで天敵避けにもなっているのではないかという指摘があるものの、実態は定かではありません。
- 分子モデル
- 参考文献
[1] "An Acetylcholine-like Salivary Poison in the Marine Gastropod Neptunea antiqua." Ranger Fange Nature 1957 DOI: 10.1038/180196a0
[2] "The seasonality and role of the neurotoxin tetramine in the salivary glands." Power AJ et al. Toxicon 2002 DOI: 10.1016/S0041-0101(01)00211-2
[3] エゾボラモドキ(通称:バイ貝)によるテトラミン食中毒にご注意ください!(http://www.city.osaka.lg.jp/kenko/page/0000005616.html)