[スポンサーリンク]

天然物

ギ酸 (formic acid)

[スポンサーリンク]

ギ酸は炭素数1の還元性を持つカルボン酸。アリから発見されました。

 

詳細

ギ酸は炭素数の最も構造が単純なカルボン酸のひとつ。アルデヒドの性質もあわせ持ち、還元性があります。ギ酸は常温液体で、水とは任意の割合で混和します。ギ酸は水素イオンを放出しやすく、酢酸やプロピオン酸など他のカルボン酸と比べるとやや強い酸です。
ギ酸を濃硫酸で脱水させて起こる化学反応は、実験室での一酸化炭素の生成法として、よく用いられます。一酸化炭素もしくは二酸化炭素からギ酸を作る反応は、どうにか光エネルギーを利用して効率よくできないものか、さかんに研究されています(参考:ケムステ記事「ついに成功した人工光合成」参照)。

GREEN2013formate02.png

濃硫酸によるギ酸の脱水

死んだアリ(formicidae; アリ科)の蒸留で初めて単離されたため、この物質をイギリスの博物学者ジョン・レイ(John Ray)はギ酸(formic acid; 蟻酸)と命名しました。アリ科の昆虫すべてがギ酸を含有するわけではないものの、日本国内でわたしたちがよく見るクロオオアリやクロヤマアリはギ酸が含まれるアリのなかまです。アリに含まれるギ酸の濃度は、高いもので50パーセントを超えます。アリのギ酸は、天敵となる動物に食べられにくくする役割と、アリどうしのコミュニケーションとして警告フェロモンの役割があると考えられています。アリ組織抽出物を使った同位体追跡の実験によれば、ギ酸の炭素原子はグリシンもしくはセリンに由来します。生合成は葉酸が仲介となる経路だと考えられています[1]。
の中には、生まれながらにしてアリにギ酸が含まれることを本能で知っているものもあります[2]。このような鳥は、アリをそのまま食べません。アリをくちばしでついばんだまま自分のからだになすりつけ、ギ酸を放出しきったところで食べる鳥もいます。ギ酸をなすりつけることで、鳥のからだの殺菌や殺虫にもなっていると考えられています。この行動は蟻浴(anting)と呼ばれています。

参考文献

[1] “Biosynthesis and accumulation of formic acid in the poison gland of the carpenter ant Camponotus pennsylvanicus.” Hefetz A et al. Science1978 DOI: 10.1126/science.201.4354.454
[2] “Anting in Blue Jays: evidence in support of a food-preparatory function.” Eisner T et al. Chemoecology2008 DOI: 10.1007/s00049-008-0406-3

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 嗚呼、美しい高分子の世界
  2. イレッサ /iressa (gefitinib)
  3. フルエッギン Flueggine
  4. アスパラプチン Asparaptine
  5. ボンビコール /bombykol
  6. ボルテゾミブ (bortezomib)
  7. トリニトロトルエン / Trinitrotoluene (TNT…
  8. ククルビットウリル Cucurbituril

注目情報

ピックアップ記事

  1. 私がケムステスタッフになったワケ(2)
  2. 第98回日本化学会春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part IV
  3. 高分子を”見る” その2
  4. マイケル・グレッツェル Michael Gratzel
  5. アレクサンダー・リッチ Alexander Rich
  6. ニッケル-可視光レドックス協働触媒系によるC(sp3)-Hチオカルボニル化
  7. 第107回―「ソフトマター表面の物理化学」Jacob Klein教授
  8. パリック・デーリング酸化 Parikh-Doering Oxidation
  9. Molecules That Changed the World
  10. アレクセイ・チチバビン ~もうひとりのロシア有機化学の父~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年9月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー