ソラノエクレピンAは、ジャガイモの水耕栽培液から単離された、ジャガイモシストセンチュウ休眠覚醒成分。
ジャガイモシストセンチュウは、ジャガイモの他、トマトなどナス科植物に寄生し、収穫に壊滅的な被害を与えるため、害虫として忌み嫌われています。殻で覆われたシストと呼ばれる状態でジャガイモシストセンチュウは休眠し、乾燥や霜に耐えて収穫を終えた畑に残存します。このシストになる性質のため、ジャガイモシストセンチュウの駆除は困難で、輪作では対応不可能、農薬散布もなかなか効果があがりません。
そこで、ソラノエクレピンAの特異な生物活性を利用すれば、作物が栽培されていないタイミングで、幼虫を休眠状態から目覚めさせ、餓死させることにより、環境に負荷を与えず線虫被害を根絶できるのではないかと期待されていました。しかし、ソラノエクレピンAは天然から極微量しか得られないため、構造活性相関の研究も進みにくく、大量合成可能な類縁体も知られていません。
2011年[1]、谷野圭持氏・宮下正昭氏らの手により、世界初となる全合成が達成。三員環から七員環までのすべての員数の炭素環を含む複雑かつ特有の構造を有し、3-メチルシクロヘキセノンを出発原料に52工程を要しました。
The key disconnections in a planned total synthesis effort for solanoeclepin A are shown.
この合成標品によって、実際に生理活性も確認されました。この実験で、植物の根抽出物との比較から、ソラノエクレピンAの効果を高める未知物質の存在が新たに示唆され、センチュウ感染にともなう分子機構の解明に向けて進展がありました。
- 参考論文
[1] "Total synthesis of solanoeclepin A." Keiji Tanino et al. Nature Chemistry 2011 DOI: 10.1038/nchem.1044