バトラコトキシンは、両生類であるモウドクフキヤガエルのなかまから単離された神経毒。ナトリウムチャネルに作用し、開きっぱなしの状態にさせる作用を持ちます(図左上はピトフーイが描かれたサイエンス誌258号表紙より)。のちに、鳥類であるピトフーイからも同様の分子が発見されました。毒を持つ鳥は、世界にピトフーイのなかまだけです。
詳細
脊椎動物のうち毒のある魚類・毒のある両生類・毒のある爬虫類は簡単に思い浮かびます。しかし、鳥類の場合はどうでしょうか。実は、毒を持つ鳥は、ニューギニア島に生息するピトフーイ1属6種だけであり、神経毒性を持つその成分がバトラコトキシンです[3]。毒鳥、ピトフーイ(Pitohui sp.)が生息するニューギニア島は、太平洋の南に位置する島で、東半分はインドネシア領、西半分はパプアニューギニア領に属します。面積は日本の国土の2倍で、世界の中ではグリーンランドの次に大きな島です。熱帯雨林が広がるこの島には、特有の生態系が広がっています。
Google Mapより作成
もともとバトラコトキシンは、ピトフーイの毒として記載された化合物ではありませんでした。南米コロンビアに生息するモウドクフキヤガエルのなかま(Phyllobates sp.)から1965年に単離[1]され、その有毒成分として1968年に構造が決定[2]されていたのです。この研究から20年以上が経過した1992年に、唯一の毒鳥であるピトフーイからもバトラコトキシンが単離[3]されたのでした。バトラコトキシンは、ピトフーイの筋肉から羽毛までからだのいたるところに含まれます。
バトラコトキシンはステロイド骨格を基本とし、含窒素七員環を含む特有の構造を持ち、(形式)全合成は1998年に岸義人氏らの手で達成[4]されました。
ピトフーイやモウドクフキヤガエルが自分でバトラコトキシンを生合成しているのかというとそうではなく、2004年の報告[5]によれば、カミキリムシやテントウムシと同じく甲虫のなかまに分類される昆虫(Choresine sp.)に由来しているようです。実際、ピトフーイの胃からも、この昆虫は見つかっています[5]。
ピトフーイ以外にバトラコトキシンを含む生き物
バトラコトキシンの標的タンパク質は、電位に依存して開口するナトリウムチャネル[6]であり、常時活性化ダダ漏れ状態にすることで神経毒性を発揮します。
論文[6]より転載・バトラコトキシンとナトリウムチャネルのモデル
バトラコトキシンの分子モデル(GIFアニメーション動作確認: Internet Explorer, Google Chrome)
参考論文
- “Batrachotoxin. The Active Principle of the Colombian Arrow Poison Frog, Phyllobates bicolor.” Daly JW et al. J. Am. Chem. Soc. 1965 DOI: 10.1021/ja01079a026
- “The structure of batrachotoxinin A, a novel steroidal alkaloid from the Columbian arrow poison frog, Phyllobates aurotaenia.” Takashi Tokuyama et al. J. Am. Chem. Soc. 1968 DOI: 10.1021/ja01009a052
- “Homobatrachotoxin in the genus Pitohui: Chemical defense in birds?” Dumbacher JP et al. Science 1992 DOI: 10.1126/science.1439786
- “Total synthesis of batrachotoxinin A.” Michio Kurosu et al. J. Am. Chem. Soc. 1998 DOI: 10.1021/ja981258g
- “Melyrid beetles (Choresine): A putative source for the batrachotoxin alkaloids found in poison-dart frogs and toxic passerine birds.” Dumbacher JP et al. Proc. Natl. Acad. Soc. USA 2004 DOI: 10.1073/pnas.0407197101
- “Identification of new batrachotoxin-sensing residues in segment IIIS6 of the sodium channel.” Du Y et al. J. Biol. Chem. 2011 DOI : 10.1074/jbc.m110.208496
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