温度変化など環境ストレスに耐性を付与する生理活性を持った植物ホルモン。葉の脱離(abscission)を誘導したり、気孔を閉鎖させたり、乾燥耐性を付与するタンパク質を誘導したりします。また、種子が休眠するために必要であり、穂についたまま種子が発芽しないように防いでいます。
アブシジン酸の前駆物質はまずカロテノイドから色素体で生合成され、細胞質ゾルでアブシジンアルデヒドが酸化されてアブシジン酸となります。カロテノイド派生物質1分子からアブシジン酸前駆物質2分子への生合成酵素CCD1(CAROTENOID CLEAVAGE DIOXYGENASE 1)を標的とした阻害剤として、アバミン(abamine)誘導体が開発中[1]です。
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信号を伝えたアブシジン酸は、不活性化酵素CYP707A(CYTOCHROME P450 707 A)の作用により9位の炭素原子の位置でヒドロキシ化されます。すると、自発的に環化してファゼイン酸となり、生理活性を失います。不活性化によってアブシジン酸の生理作用を調整するこの酵素反応を標的とした阻害剤として、アブシナゾール(abscinazole)誘導体が開発中[2]です。
アブシジン酸の受容体は、PYR1(PYRABACTIN RESISTANCE 1)タンパク質とその相同タンパク質です[3],[4]。アブシジン酸が受容体に認識されると、PP2Cホスファターゼに分類されるABI1(ABA INSENSITIVE 1)タンパク質やその相同タンパク質と直接に相互作用するように変わり、脱リン酸化の酵素活性部位がふさがれ機能しなくなります。するとキナーゼであるSnRK(SNF1 RELATED PROTEIN KINASE)タンパク質が持つリン酸化がそのままになります。これによって、リン酸化シグナルのスイッチが切り換わりになり、イオンチャネルや転写因子の挙動が変化して、アブシジン酸応答が観察されるようになります。
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アブシジン酸のアゴニスト(作動薬)としては、ヒドロキシ化されて不活性化されないテトラロンアブシジン酸(tetralone abscisic acid)[5]と、アブシジン酸受容体解明の突破口を開いた立役者ピラバクチン(pyrabactin)[3]のふたつが知られます。
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アブシジン酸が植物のからだを運ばれる仕組みも近年になって解明されました。シロイヌナズナでは、細胞の中に運び入れる輸送体としてABCG40(ATP-BINDING CASSETTE G40)タンパク質[6]、細胞の外に運び出す輸送体としてはABCG25 (ATP-BINDING CASSETTE G25)タンパク質[7]が、それぞれ機能を担っています。2012年になって、硝酸イオンの輸送活性をあわせ持つNRT1.2(NITRATE TRANSPORTER 1.2)タンパク質にもアブシジン酸輸送活性のあることが判明し、植物栄養との関係に注目が集まっています[8]。
農芸化学上、アブシジン酸は魅力的な多数の生理活性を持つにも関わらず、応用展開はほとんど進んでいません。大量合成の可能な植物成長調節剤の開発が、今も期待されています。
ヒトにおいては、アブシジン酸は内生のサイトカインであり免疫機能を仲介するという報告があるものの、生合成・受容システムともに、詳しくは定かではありません[9]。
- 参考論文
“A 9-cis-epoxycarotenoid dioxygenase inhibitor for use in the elucidation of abscisic acid action mechanisms.” Nobutaka Kitahata et al. Bioorg. Med. Chem. 2006 DOI: 10.1016/j.bmc.2006.04.025
[2] アブシジン酸不活性化酵素を標的とした阻害剤としてアブシナゾールを開発“Abscinazole-F1, a conformationally restricted analogue of the plant growth retardant uniconazole and an inhibitor of ABA 8 0 -hydroxylase CYP707A with no growth-retardant effect.” Yasushi Todoroki et al. Bioorg. Med. Chem. 2009 DOI: 10.1016/j.bmc.2009.07.070
[3] アブニシン酸生理活性を持つピラバクチンでアブシジン酸受容体を同定“Abscisic Acid Inhibits Type 2C Protein Phosphatases via the PYR/PYL Family of START Proteins.” Sang-Youl Park et al. Science 2009 DOI: 10.1126/science.1173041
[4] 酵母ツーハイブリッドスクリーニングでアブシジン酸受容体を同定“Regulators of PP2C Phosphatase Activity Function as Abscisic Acid Sensors.” Yue Ma et al. Science 2009 DOI: 10.1126/science.1172408
[5] 不活性化酵素の反応を受けないテトラロンアブシジン酸の化学合成と生理活性“Synthesis and biological activity of tetralone abscisic acid analogues.” James M. Nyangulu et al. Org. Biomol. Chem. 2006 DOI: 10.1039/b509193d
[6] 細胞の中に運び入れるアブシジン酸輸送体を同定“PDR-type ABC transporter mediates cellular uptake of the phytohormone abscisic acid.” Joohyun Kang et al. Proc. Natl. Acad. Soc. USA 2010 DOI: 10.1073/pnas.0909222107
[7] 細胞の外に運び出すアブシジン酸輸送体を同定“ABC transporter AtABCG25 is involved in abscisic acid transport and responses” Takashi Kuromori et al. Proc. Natl. Acad. Soc. USA 2010 DOI: 10.1073/pnas.0912516107
[8] 硝酸輸送体ファミリーの中からアブシジン酸輸送活性のあるものを同定“Identi?cation of an abscisic acid transporter by functional screening using the receptor complex as a sensor.” Yuri Kanno et al. Proc. Natl. Acad. Soc. USA 2012 DOI: 10.1073/pnas.1203567109
[9] ヒトでアブシジン酸は内生のサイトカインである“Abscisic acid is an endogenous cytokine in human granulocytes with cyclic ADP-ribose as second messenger.” Santina Bruzzone et al. Proc. Natl. Acad. Soc. USA 2007 DOI: 10.1073/pnas.0609379104
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