[スポンサーリンク]

天然物

モリブドプテリン (molybdopterin)

[スポンサーリンク]

GREENm0010.PNG

モリブドプテリンは、細菌のなかまから、動物や植物まで、ほぼすべての生き物で共通して見られる生体分子。モリブデンが配位した、モリブデン補因子は、ビタミンのように酵素タンパク質の機能を補助する役割があります。

 

ヒトでも植物でも取りこまれたモリブデンは、モリブドプテリンに挿入され、モリブデン補因子のかたちとなったのち、酵素の機能を助けます。必要な摂取量は少なく、めったに欠乏症が出ることはありません。

モリブドプテリンの生合成は、いくつか特徴あるステップを経ます。まず最初[2]は、グアノシン三リン酸から環状ピラノプテリンモノリン酸への変換です。窒素原子と炭素原子の間で共有結合を形成しながら進む分子内環化反応が起きます。そして最後[1]は、モリブドプテリンへのモリブデン原子の挿入です。銅原子が挿入されているところへ置き換わるかたちでモリブデンが組み込まれます。

GREEN2013mocomovie.gif

モリブデン生合成中間体

(GIFアニメーション動作確認: Internet Explorer, Google Chrome)

 

  • モリブドプテリンが必要な酵素の例

モリブデドプテリンにモリブデンが結合したモリブデン補因子を必要とする酵素はいくつかあります。これらはみな酸化還元酵素であるという共通点があります。生化学上、重要なふたつを具体例として紹介します。ここに詳しく解説したものだけではなく、例えばギ酸酸化酵素・亜硫酸酸化酵素・アブシジン酸アルデヒド酸化酵素・エチルベンゼン還元酵素なども、モリブデン補因子を必要とする酵素です。

 

1.硝酸還元酵素(nitrate reductase)

硝酸還元酵素は、土壌で育つ植物の生長を理解する上で、重要な構成員のひとつです。通常、硝酸還元酵素は亜硝酸硝酸に変換する酵素です。試験管内で条件を整えれば硝酸を亜硝酸に変換することもできます。

土壌中の窒素分はアンモニウムイオン・亜硝酸イオン・硝酸イオンなどのかたちで存在します。しかし、多くの植物は、根から吸収するために、硝酸イオンのかたちでないと苦手です。土壌中の細菌には、アンモニウムイオンを亜硝酸イオンに変えるものと、亜硝酸イオンを硝酸イオンに変えるものがいます。亜硝酸イオンを硝酸イオンに変える菌は硝酸還元酵素を持っています。

根から硝酸イオンのかたちで窒素分を取り込んだ後、植物はアミノ酸など他の化合物に代謝しなければなりません。このとき、アンモニウムイオンのかたちでないと、植物は上手く使いこなせません。そのため、植物も硝酸還元酵素を持っており、硝酸イオンを亜硝酸イオンに変えることができます。亜硝酸イオンは別の酵素によって直ちにアンモニウムイオンに変換されます。

わたしたちヒトは、植物が土壌から吸収してアミノ酸に変えてくれたものを、食べものとして摂取しています。考え直して、起源を土壌に生える植物までたどってみると、確かにモリブドプテリンなしではわたしたちの生活は成り立ちません。

 

2.キサンチン酸化酵素(xanthine oxidase)

キサンチン酸化酵素は、ヒトが健康な暮らしを続ける方法を理解する上で、重要な構成員のひとつです。この酵素は、痛風の原因になる尿酸を作る酵素です。

キサンチン酸化酵素は本来ヌクレオチド代謝を仲立ちする重要な酵素です。しかし、尿酸が作られすぎてしまうと、組織で結晶化して痛風を引き起こします。痛風は、イノシン酸アデニル酸グアニル酸など、尿酸の原料となるプリン体を、食事で過剰に摂取していると、発症しやすくなります。なんでもバランスが大切です。

この酵素の機能を抑制して体の調子を整える医薬品として、アロプリノールや、2011年1月に新しく日本でも承認されたフェブキソスタットなどが知られています。

 

  • 参考論文

[1] “Structure of the molybdopterin-bound Cnx1G domain links molybdenum and copper metabolism” Jochen Kuper et al. Nature 2004 DOI: 10.1038/nature02681

[2]"Identification of a Cyclic Nucleotide as a Cryptic Intermediate in Molybdenum Cofactor Biosynthesis." Hover et al. J. Am. Chem. Soc. 2013 DOI: 10.1021/ja401781t

 

  • 関連書籍

 

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. フラーレン /Fullerene
  2. 化学者のためのエレクトロニクス入門⑤ ~ディスプレイ分野などで活…
  3. セレノネイン selenoneine
  4. 化学者のためのエレクトロニクス講座~次世代の通信技術編~
  5. ポリ乳酸 Polylactic Acid
  6. 亜酸化窒素 Nitrous oxide
  7. シコニン
  8. ヒノキチオール (hinokitiol)

注目情報

ピックアップ記事

  1. イリヤ・プリゴジン Ilya Prigogine
  2. 研究室でDIY!~割れないマニホールドをつくろう~
  3. 米で処方せん不要の「やせ薬」発売、売り切れ続出
  4. アーサー・L・ホーウィッチ Arthur L. Horwich
  5. 【速報】HGS 分子構造模型「 立体化学 学生用セット」販売再開!
  6. 第20回ケムステVシンポ『アカデミア創薬 A to Z』を開催します!
  7. ビタミンDで肺ガンの生存率が上がる?
  8. ボロントリフルオリド – エチルエーテル コンプレックス : Boron Trifluoride – Ethyl Ether Complex
  9. メリフィールド氏死去 ノーベル化学賞受賞者
  10. 最近の有機化学論文2

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年1月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP