モリブドプテリンは、細菌のなかまから、動物や植物まで、ほぼすべての生き物で共通して見られる生体分子。モリブデンが配位した、モリブデン補因子は、ビタミンのように酵素タンパク質の機能を補助する役割があります。
ヒトでも植物でも取りこまれたモリブデンは、モリブドプテリンに挿入され、モリブデン補因子のかたちとなったのち、酵素の機能を助けます。必要な摂取量は少なく、めったに欠乏症が出ることはありません。
モリブドプテリンの生合成は、いくつか特徴あるステップを経ます。まず最初[2]は、グアノシン三リン酸から環状ピラノプテリンモノリン酸への変換です。窒素原子と炭素原子の間で共有結合を形成しながら進む分子内環化反応が起きます。そして最後[1]は、モリブドプテリンへのモリブデン原子の挿入です。銅原子が挿入されているところへ置き換わるかたちでモリブデンが組み込まれます。
モリブデン生合成中間体
(GIFアニメーション動作確認: Internet Explorer, Google Chrome)
- モリブドプテリンが必要な酵素の例
モリブデドプテリンにモリブデンが結合したモリブデン補因子を必要とする酵素はいくつかあります。これらはみな酸化還元酵素であるという共通点があります。生化学上、重要なふたつを具体例として紹介します。ここに詳しく解説したものだけではなく、例えばギ酸酸化酵素・亜硫酸酸化酵素・アブシジン酸アルデヒド酸化酵素・エチルベンゼン還元酵素なども、モリブデン補因子を必要とする酵素です。
1.硝酸還元酵素(nitrate reductase)
硝酸還元酵素は、土壌で育つ植物の生長を理解する上で、重要な構成員のひとつです。通常、硝酸還元酵素は亜硝酸を硝酸に変換する酵素です。試験管内で条件を整えれば硝酸を亜硝酸に変換することもできます。
土壌中の窒素分はアンモニウムイオン・亜硝酸イオン・硝酸イオンなどのかたちで存在します。しかし、多くの植物は、根から吸収するために、硝酸イオンのかたちでないと苦手です。土壌中の細菌には、アンモニウムイオンを亜硝酸イオンに変えるものと、亜硝酸イオンを硝酸イオンに変えるものがいます。亜硝酸イオンを硝酸イオンに変える菌は硝酸還元酵素を持っています。
根から硝酸イオンのかたちで窒素分を取り込んだ後、植物はアミノ酸など他の化合物に代謝しなければなりません。このとき、アンモニウムイオンのかたちでないと、植物は上手く使いこなせません。そのため、植物も硝酸還元酵素を持っており、硝酸イオンを亜硝酸イオンに変えることができます。亜硝酸イオンは別の酵素によって直ちにアンモニウムイオンに変換されます。
わたしたちヒトは、植物が土壌から吸収してアミノ酸に変えてくれたものを、食べものとして摂取しています。考え直して、起源を土壌に生える植物までたどってみると、確かにモリブドプテリンなしではわたしたちの生活は成り立ちません。
2.キサンチン酸化酵素(xanthine oxidase)
キサンチン酸化酵素は、ヒトが健康な暮らしを続ける方法を理解する上で、重要な構成員のひとつです。この酵素は、痛風の原因になる尿酸を作る酵素です。
キサンチン酸化酵素は本来ヌクレオチド代謝を仲立ちする重要な酵素です。しかし、尿酸が作られすぎてしまうと、組織で結晶化して痛風を引き起こします。痛風は、イノシン酸・アデニル酸・グアニル酸など、尿酸の原料となるプリン体を、食事で過剰に摂取していると、発症しやすくなります。なんでもバランスが大切です。
この酵素の機能を抑制して体の調子を整える医薬品として、アロプリノールや、2011年1月に新しく日本でも承認されたフェブキソスタットなどが知られています。
- 参考論文
[1] “Structure of the molybdopterin-bound Cnx1G domain links molybdenum and copper metabolism” Jochen Kuper et al. Nature 2004 DOI: 10.1038/nature02681
- 関連書籍