このシリーズでは、化学者のためのエレクトロニクス講座では半導体やその配線技術、フォトレジストやOLEDなど、エレクトロニクス産業で活躍する化学や材料のトピックスを詳しく掘り下げて紹介します。今回は電子回路の製造に欠かせない金、パラジウムをはじめ、各種無電解貴金属めっきの各論をご紹介します。
無電解金めっき
・置換金めっき
無電解金めっきにおいては、あらかじめ形成しておいたニッケルなどの下地を置換することで薄い金皮膜を形成する置換金めっきがしばしば用いられます。これは卑金属がイオン化する際に溶液中の金イオンに電子を受け渡して析出させるもので、金属樹と同様の原理です。
置換めっきでは下地の卑金属が完全に被覆されるとそれ以上は厚くならないことから、一般には0.25 μm程度までの薄い被膜しか形成できず、ピンホールなどの欠陥が問題となるケースもあります。その一方で、めっき液中に還元剤を含まないことから安定性の高さが長所で、長期保管が可能とされます。
置換金めっき浴はシアン浴とノンシアン浴に大別されます。シアン浴はシアン化金カリウムK[Au(CN)2]を主成分とする浴で、ほかにシアン酸化合物や遊離シアン源となるNaCNなどを含みます。もっともオーソドックスな組成ですが、極めて塩基性であることからレジストなどを溶解してしまう恐れもあります。
ノンシアン浴はこの点を改良したもので、金の錯化剤(配位子)として亜硫酸イオンやメルカプトコハク酸などを利用しています。安定性ではシアン浴に劣りますが、多くが中性で幅広い用途に利用できるのが強みです。
・還元金めっき
還元剤による自己触媒反応によって析出する一般的な無電解めっきです。置換めっきと比較して厚付けが可能で、それゆえワイヤボンディングなどの用途に用いられています。一方で安定性には難があるものもあり、めっき速度の向上を図ると安定性が悪化しやすくなるというジレンマを抱えています。
金イオンは様々な還元剤によって自己触媒的に単体金として析出することから、浴の種類は比較的豊富です。シアン浴ではヒドラジン、ホルムアルデヒド、ホウ素系還元剤(KBH4、DMAB)など、ニッケルや銅と比較してそのバリエーションの広さがお分かりになるかと思います。
また、還元金めっき浴においてもシアン化合物を含まないノンシアン浴の需要が高まっています。代表的なものに、錯化剤としてクエン酸、還元剤にジエチルグリシンを用いる浴があり、利用が進んでいます。
無電解パラジウムめっき
高い耐食性を誇り、金や銅のようには拡散しないことから配線層の金めっきの下地として、内部金属を保護しつつ金の使用量を低減(省金化)するために用いられるのがパラジウムです。とはいえパラジウムも貴金属であり、その鉱床はロシアや南アフリカに偏在していることから価格が不安定で、政治的要因によって供給難に陥りやすい欠点もあります。近年ではロシアによるウクライナ侵攻の影響のほか南アフリカでの産出量も減少傾向にあり、価格も高止まりを見せています。
とはいえ、(従来の価格であれば貴金属としてはルテニウムに次いで安価なことから)パラジウムを用いることでトータルコストを抑えられることから重宝されており、はんだ付け性やワイヤボンディング性に優れることから広範に利用されています。
パラジウムは電解めっきにおいては水素脆化が大きな課題となりますが、無電解めっきではその抑制が可能な条件が広がります。周期表で一つ上に位置するニッケルと類似した浴組成が用いられます。
最も一般的なのが次亜リン酸浴です。次亜リン酸自身の還元も並行して進行するためPd-P合金となり、これは硬度の高さが特徴であることから物理的な外力の加わる部位にも適しています。錯化剤としてエチレンジアミン(en)、安定剤としてチオジグリコール酸(TDG)を含むものです。
また、トリメチレンアミンボラン(TMAB)浴を用いることにより、ピンホールが少なく耐食性に優れたPd-B合金を得ることも可能です。無電解ニッケルと置換金(ENIG)の間にPd層を導入する際(ENEPIG)のパラジウム被膜として多く採用されています。
純粋なパラジウムを得るためには還元剤としてギ酸を用いるのが適当です。錯化剤としてはエチレンジアミンやグルタミン酸、アスパラギン酸などが用いられます。ただし純粋なパラジウムは水素脆化などの課題を抱えており、ニッケルとの合金とする例が一般的です。
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長くなりましたのでこのあたりで区切ります。次回は合金めっきや複合めっきなど、産業界を支える特殊なめっき技術を紹介します。お楽しみに!
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