[スポンサーリンク]

一般的な話題

化学者のためのエレクトロニクス講座~次世代配線技術編

[スポンサーリンク]

このシリーズでは、化学者のためのエレクトロニクス講座では半導体やその配線技術、フォトレジストやOLEDなど、エレクトロニクス産業で活躍する化学や材料のトピックスを詳しく掘り下げて紹介します。さて、前回はアルミニウムから銅への半導体内部配線の変遷をご覧いただきましたが、今回は銅に代わる次世代配線技術について特集します。

chip

半導体チップ(画像:pixabay)

前回のおさらいですが、当初の半導体内部配線にはアルミニウムが広く利用されていました。その背景には、アルミニウムの高い電気伝導度とスパッタによる加工の容易さがありました。

初期の半導体配線の例(画像:Wikipedia

しかし1990年代に差し掛かると、微細化の進展によりアルミニウムでは所定の性能を発揮できなくなります。具体的には配線抵抗の増大とエレクトロマイグレーション(EMが座視できない問題として浮上しました。

ここでアルミニウムに代わる材料と目されたのがでした。銅は比較的安価で電気伝導度がさらに高く、EMを起こしにくいという利点を兼ね備えていました。しかしながら、スパッタによる微細加工が不可能であったことから加工技術の開発が急務でした。

そこで銅配線の形成に用いられたのがダマシンと呼ばれるめっき手法でした。これは溝や穴などの凹部に銅を埋め込む特殊なめっき技術で、添加剤の利用など高度な技術力が求められるものでした。

ダマシンの確立によっていったんは解決されたかに見えたこれらの課題でしたが、銅にも電気抵抗は存在し、EMを全く起こさないわけではないことから、実際には先延ばしされたに過ぎませんでした。とりわけ、微細化のさらなる進展によって銅配線においてもEMは重要な問題となり、既に半導体性能に直接影響を及ぼすまでになっています。

抵抗増大

配線の微細化によって抵抗が増大してしまいます(イメージ)

EM耐性金属による代替

その打開策として現在注目されているのが、一つは銅配線の境界に薄いバリアメタルを設ける手法、もう1つは、配線材料そのものをEM耐性の高い金属に変更する手法です。

前者のバリア層候補素と後者の配線候補として共に嘱望されているのが、コバルトCoルテニウムRuです。いずれも銅に比べて電流密度の許容値が高いとされています。

しかしながら両者とも比抵抗と熱伝導率では銅に劣るため、配線抵抗の低減と放熱の確保が本質的な課題として残ることが見込まれています。とはいえ銅配線をすべてこれらに置き換えれば現在バリアメタルとして使用されている窒化タンタルTaNなどによる抵抗を排し、総合的には銅より優れた性能を示す可能性があります。

実際にIBM(米)とGLOBALFOUNDRIES(米)、Samsung Electronics(韓)、Applied Materials(米)は共同で、銅配線をコバルト層で被覆することで、抵抗上昇を抑制しながらEM耐性を向上させた多層配線技術を開発しています。さらにIntel(米)も最新の10 nmプロセスにおいて、多層配線の一部にコバルトを採択しています。

ナノカーボン配線

金属結合は脆弱であることから、配線材料として根本的にEMのリスクを抱えており、将来的にさらなる微細化が進展すると、どのような金属であっても問題が顕在化することになります。

そこで基礎研究が進められているのが、全てを強固な共有結合を形成した炭素材料で構築するオールカーボン配線です。配線部を多層グラフェン(MLG)、ビアをカーボンナノチューブ(CNT)で形成することが検討されています。

カーボンナノチューブカーボンナノチューブは次世代配線材料の例 (画像:Wikipedia)

グラフェンは理論抵抗率が、銅の2/3程度と極めて低い一方、許容できる電流密度は100倍~1000倍、熱伝導率は10倍にも達するとされており、その選択的合成や成膜技術の開発が競われています。

CNTに関しては東芝がCVDを用いた高密度成長によるビア形成を実現しており[1]、エレクトロニクス用途への適用が待たれます。

いずれも現状では蒸着などの物理的手法で合成されることが多く、選択性・収率共に改善の余地が残ります。両者とも有機化学的な手法を用いれば高選択的・高収率での合成も不可能ではないと思われることから、その確立にも期待が高まります。

参考文献

[1] 東芝レビュー Vol.66 No.2 (2011), p.46-49.

関連リンク

PC Watch

関連書籍

[amazonjs asin=”4782855508″ locale=”JP” title=”半導体デバイス―基礎理論とプロセス技術”] [amazonjs asin=”4904774809″ locale=”JP” title=”新炭素材料ナノカーボンの基礎と応用-カーボンナノチューブからグラフェンまで- (設計技術シリーズ)”] [amazonjs asin=”4759813853″ locale=”JP” title=”二次元物質の科学: グラフェンなどの分子シートが生み出す新世界 (CSJ Current Review)”] [amazonjs asin=”4781312128″ locale=”JP” title=”ナノカーボンの応用と実用化《普及版》―フラーレン,ナノチューブ,グラフェンを中心に― (新材料・新素材)”]
gaming voltammetry

berg

投稿者の記事一覧

化学メーカー勤務。学生時代は有機をかじってました⌬
電気化学、表面処理、エレクトロニクスなど、勉強しながら執筆していく予定です

関連記事

  1. Mestre NovaでNMRを解析してみよう
  2. 高活性な不斉求核有機触媒の創製
  3. 有機合成化学協会誌2021年8月号:ナノチューブカプセル・ナノグ…
  4. 【8/25 20:00- 開催!】オンラインイベント「研究者と描…
  5. 第2回慶應有機合成化学若手シンポジウム
  6. ケミカル・ライトの作り方
  7. 乙卯研究所 研究員募集 2023年度
  8. 使っては・合成してはイケナイ化合物 |第3回「有機合成実験テクニ…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 2,9-ジブチル-1,10-フェナントロリン:2,9-Dibutyl-1,10-phenanthroline
  2. 【7/28開催】第3回TCIオンラインセミナー 「動物透明化試薬ウェビナー CUBICの基礎と実例」
  3. 史跡 佐渡金山
  4. リンダウ島インセルホール
  5. 求核剤担持型脱離基 Nucleophile-Assisting Leaving Groups (NALGs)
  6. 第40回ケムステVシンポ「クリーンエネルギーの未来を拓く:次世代電池と人工光合成の最新動向」を開催します!
  7. グラム陰性菌を爆沈!!Darobactin Aの全合成
  8. 中国へ講演旅行へいってきました②
  9. 酵母還元 Reduction with Yeast
  10. マックス・プランク Max Planck

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年10月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

ヤーン·テラー効果 Jahn–Teller effects

縮退した電子状態にある非線形の分子は通常不安定で、分子の対称性を落とすことで縮退を解いた構造が安定で…

鉄、助けてっ(Fe)!アルデヒドのエナンチオ選択的α-アミド化

鉄とキラルなエナミンの協働触媒を用いたアルデヒドのエナンチオ選択的α-アミド化が開発された。可視光照…

4種のエステルが密集したテルペノイド:ユーフォルビアロイドAの世界初の全合成

第637回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院薬学系研究科・天然物合成化学教室(井上将行教授主…

そこのB2N3、不対電子いらない?

ヘテロ原子のみから成る環(完全ヘテロ原子環)のπ非局在型ラジカル種の合成が達成された。ジボラトリアゾ…

経済産業省ってどんなところ? ~製造産業局・素材産業課・革新素材室における研究開発専門職について~

我が国の化学産業を維持・発展させていくためには、様々なルール作りや投資配分を行政レベルから考え、実施…

第51回ケムステVシンポ「光化学最前線2025」を開催します!

こんにちは、Spectol21です! 年末ですが、来年2025年二発目のケムステVシンポ、その名…

ケムステV年末ライブ2024を開催します!

2024年も残り一週間を切りました! 年末といえば、そう、ケムステV年末ライブ2024!! …

世界初の金属反応剤の単離!高いE選択性を示すWeinrebアミド型Horner–Wadsworth–Emmons反応の開発

第636回のスポットライトリサーチは、東京理科大学 理学部第一部(椎名研究室)の村田貴嗣 助教と博士…

2024 CAS Future Leaders Program 参加者インタビュー ~世界中の同世代の化学者たちとかけがえのない繋がりを作りたいと思いませんか?~

CAS Future Leaders プログラムとは、アメリカ化学会 (the American C…

第50回Vシンポ「生物活性分子をデザインする潜在空間分子設計」を開催します!

第50回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!2020年コロナウイルスパンデミッ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP