このシリーズでは、化学者のためのエレクトロニクス講座では半導体やその配線技術、フォトレジストやOLEDなど、エレクトロニクス産業で活躍する化学や材料のトピックスを詳しく掘り下げて紹介します。さて、前回はアルミニウムから銅への半導体内部配線の変遷をご覧いただきましたが、今回は銅に代わる次世代配線技術について特集します。
前回のおさらいですが、当初の半導体内部配線にはアルミニウムが広く利用されていました。その背景には、アルミニウムの高い電気伝導度とスパッタによる加工の容易さがありました。
しかし1990年代に差し掛かると、微細化の進展によりアルミニウムでは所定の性能を発揮できなくなります。具体的には配線抵抗の増大とエレクトロマイグレーション(EM)が座視できない問題として浮上しました。
ここでアルミニウムに代わる材料と目されたのが銅でした。銅は比較的安価で電気伝導度がさらに高く、EMを起こしにくいという利点を兼ね備えていました。しかしながら、スパッタによる微細加工が不可能であったことから加工技術の開発が急務でした。
そこで銅配線の形成に用いられたのがダマシンと呼ばれるめっき手法でした。これは溝や穴などの凹部に銅を埋め込む特殊なめっき技術で、添加剤の利用など高度な技術力が求められるものでした。
ダマシンの確立によっていったんは解決されたかに見えたこれらの課題でしたが、銅にも電気抵抗は存在し、EMを全く起こさないわけではないことから、実際には先延ばしされたに過ぎませんでした。とりわけ、微細化のさらなる進展によって銅配線においてもEMは重要な問題となり、既に半導体性能に直接影響を及ぼすまでになっています。
EM耐性金属による代替
その打開策として現在注目されているのが、一つは銅配線の境界に薄いバリアメタルを設ける手法、もう1つは、配線材料そのものをEM耐性の高い金属に変更する手法です。
前者のバリア層候補素と後者の配線候補として共に嘱望されているのが、コバルトCoとルテニウムRuです。いずれも銅に比べて電流密度の許容値が高いとされています。
しかしながら両者とも比抵抗と熱伝導率では銅に劣るため、配線抵抗の低減と放熱の確保が本質的な課題として残ることが見込まれています。とはいえ銅配線をすべてこれらに置き換えれば現在バリアメタルとして使用されている窒化タンタルTaNなどによる抵抗を排し、総合的には銅より優れた性能を示す可能性があります。
実際にIBM(米)とGLOBALFOUNDRIES(米)、Samsung Electronics(韓)、Applied Materials(米)は共同で、銅配線をコバルト層で被覆することで、抵抗上昇を抑制しながらEM耐性を向上させた多層配線技術を開発しています。さらにIntel(米)も最新の10 nmプロセスにおいて、多層配線の一部にコバルトを採択しています。
ナノカーボン配線
金属結合は脆弱であることから、配線材料として根本的にEMのリスクを抱えており、将来的にさらなる微細化が進展すると、どのような金属であっても問題が顕在化することになります。
そこで基礎研究が進められているのが、全てを強固な共有結合を形成した炭素材料で構築するオールカーボン配線です。配線部を多層グラフェン(MLG)、ビアをカーボンナノチューブ(CNT)で形成することが検討されています。
カーボンナノチューブは次世代配線材料の例 (画像:Wikipedia)
グラフェンは理論抵抗率が、銅の2/3程度と極めて低い一方、許容できる電流密度は100倍~1000倍、熱伝導率は10倍にも達するとされており、その選択的合成や成膜技術の開発が競われています。
CNTに関しては東芝がCVDを用いた高密度成長によるビア形成を実現しており[1]、エレクトロニクス用途への適用が待たれます。
いずれも現状では蒸着などの物理的手法で合成されることが多く、選択性・収率共に改善の余地が残ります。両者とも有機化学的な手法を用いれば高選択的・高収率での合成も不可能ではないと思われることから、その確立にも期待が高まります。
参考文献
[1] 東芝レビュー Vol.66 No.2 (2011), p.46-49.関連リンク
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