ダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon:DLC)は炭素から成るアモルファスの薄膜で、高硬質、低摩擦、高撥水性、生体親和性などの特徴があり、様々な製品に使われ始めている。
DLCとは
炭素の素材といえば、グラファイト、ダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブなどが挙げられるが、これらは主に炭素の結合によって分類される。ダイヤモンドライクカーボンはその名の通り、ダイヤモンドのように炭素がsp3の結合をしている。ただしダイヤモンドのようにすべての炭素原子のみできれいな正四面体構造を取っているわけではなく、アモルファスの状態になっていて水素やsp2の結合も含まれている。DLCは薄膜として作られるため、基材の上に製膜されることがほとんどである。
DLCを語るほとんどの専門書では下記の図が登場し、水素、sp3の炭素、sp2の炭素の割合で特性が変化することを説明している。まず、水素を含まないta-Cとa-Cを水素フリーDLCと呼び、潤滑油の存在下では水素含有に比べて摩擦係数が低い。ta-Cとa-Cを比べるとta-Cのほうがsp3の結合割合が多い=高硬度であるためta-CのDLCをコーティングすることが多い。一方のta-C:Hとa-C:Hは、潤滑物質がない状態では水素フリーに比べて摩擦係数が低い。水素が含まれていることでポリマーのように柔らかくなり高分子への成膜がしやすい。これらは一般的な事象であり、基質や成膜方法によって変化する。
合成方法
- プラズマCVD:アセチレンやメタンガスを原料ガスとしてプラズマによりDLCを製膜させる。原料に水素原子を含むため、水素含有の膜となる。複雑な形状でも均一に製膜できることと成膜の速さが速く処理時間が短いことが特徴である。
- PVD:PVDの中でもスパッタリングが主に使われる。原料は、グラファイトターゲットを主に使うので水素フリーの膜となる。
応用例
- 自動車のエンジン:エンジンでは、燃料を燃焼させてピストンを回している。そのため、部品同士が接触する面では摩擦が少ないほうがエネルギー効率が良くなるためDLCがエンジンパーツのコーティング法として注目されていて、日産のエンジンには量産車に使われている。水素を含むDLCは潤滑油との親和性が悪く油膜ができないので水素フリーが使われている。
- ペットボトル:ペットボトルはガラス瓶に比べて軽いため利便性が優れているが酸素透過率が高いため、参加しやすい液体には敬遠されてきた。しかし、DLCをコーティングすることで酸素透過率を10倍、水蒸気透過率を五倍下げることができ、ワインなどもペットボトルに詰めることができるようになった。生産性が早いCVDでDLCが成膜されている。
- 掘削工具:ドリルなどの金属を加工する道具には、基材に負けずに長く使えるための高硬度が求められている。そのため硬度が高いDLCをコーティングされている。
- 身の回り品:硬く摩擦が少なくなるので身の回りのものに広く適用できると考えられている。また、炭素と水素から構成されているので生体親和性が高く医療機器にも適用できることが分かってきている。
このように広く応用できるが、コーティングするにはどの方法でも減圧チャンバーが必要であるため、メッキなどに比べると導入コストが高くなってしまう。今後は、広く実用化されることが期待される。
炭素に関するケムステ関連記事
- 炭素繊維は鉄とアルミに勝るか? 番外編 ~NEDOの成果について~
- 炭素繊維は鉄とアルミに勝るか? 2
- 炭素繊維は鉄とアルミに勝るか? 1
- 二酸化炭素 (carbon dioxide)
- もし炭素原子の手が6本あったら
- 究極の黒を炭素材料で作る
- 二酸化炭素をはきだして♪
- 炭素ボールに穴、水素入れ閉じ込め 「分子手術」成功
- C70の中に水分子を閉じ込める
関連書籍
[amazonjs asin=”4781307280″ locale=”JP” title=”DLCの応用技術―進化するダイヤモンドライクカーボンの産業応用と未来技術 (新材料・新素材シリーズ)”] [amazonjs asin=”4526059412″ locale=”JP” title=”高機能化のためのDLC成膜技術”]関連リンク
- ダイヤモンドライクカーボン: wikipedia
- 固体NMR:DLCを評価する際に使う分析機器の一種