アコニチンは、トリカブトという植物に含まれる有毒成分。俗に植物毒最強とされます。トリカブトを誤食すると、命に関わるため、たびたび問題になります。他方、トリカブトに「修治」と呼ばれる加熱などの特別な処理を施すと、漢方薬になります。
詳細
アコニチン(aconitine)は、トリカブト属の植物(Aconitum?sp.)に含まれる主要な有毒成分。精製すると天然有機化合物の中ではきわだって結晶を作りやすく、19世紀にはすでに1cm近くの大きさまで結晶を成長させた報告[1]があります。トリカブトには、アコニチンと構造が似た類縁の化合物も含まれ、これらにも生物活性があります。アコニチンの標的タンパク質は、神経細胞のナトリウムチャネルであるとされ、開きっぱなし状態にしてナトリウムイオンを流入させます。
漢方薬の原料としては、トリカブトを「附子」と呼びます。この名称は、致死性の毒として、日本の伝統芸能のひとつである狂言『附子』にも登場することで有名です。漢方薬としてトリカブトを使う場合、加熱など「修治」と呼ばれる操作を施すのが一般的です。修治によって、アコニチンは全部または一部のエステル結合が加水分解されます。こうしてできた生成物は毒性が弱まります。トリカブト抽出物が複雑な多成分系天然物である上に、アコニチンと同様の骨格を持つ類縁化合物はいずれも化学合成が困難であり多工程を要するため[2],[3]、どの成分がどう効いているのかはっきり解明されたとは言えません。修治による分解産物が何か効いているのかもしれませんし、あるいは毒性物質が分解されてそのまま後に残った成分の効果が現れてきているのかもしれません。
アコニチンと化学構造が類似したトリカブト成分であるラッパコニチンは、ナトリウムチャネルによるナトリウムイオンの輸送を、むしろ阻害する活性があることが知られています。このラッパコニチンは、心臓疾患の治療薬として使われることがあります[4],[5]。
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参考文献
[1] “Crystallographical characters of aconitine from Aconitum napellus.” Tutton AE et al. J. Chem. Soc. 1891 DOI: 10.1039/CT8915900288
[2] “Total synthesis of talatisamine, a delphinine type alkaloid.” Wiesner K et al. J. Am. Chem. Soc. 1974 DOI: 10.1021/ja00822a048
[3] “Total synthesis, relay synthesis, and structural confirmation of the C18-norditerpenoid alkaloid neofinaconitine.” Shi Y et al. J. Am. Chem. Soc. 2013 DOI: 10.1021/ja4064958
[4] “Cardiac effects of lappaconitine and N-deacetyllappaconitine, two diterpenoid alkaloids from plants of the Aconitum and Delphinium species.” Heubach et al. Planta Medica 1998 DOI: 10.1055/s-2006-957359
[5] “Irreversible block of human heart (hH1) sodium channels by the plant alkaloid lappaconitine.” Wright SN et al. Mol. Pharmacol. 2001 DOI: 10.1124/mol.59.2.183