[スポンサーリンク]

その他

ゲオスミン(geosmin)

[スポンサーリンク]

 

ゲオスミン(geosminの発音は「ジオスミン」の方が近い)はデカリン([4.4.0]-ビシクロデカン)骨格にそれぞれ光学活性な2つのメチル基と1つの水酸基を持つ、「雨の匂い」の原因の化合物である。命名の由来はギリシャ語のgeo-(γεο-, 地球の), -smin = smell, odore (?σμ?, 匂い)。

微生物によって産生され、土中に蓄積されたものが雨粒に叩かれた地面から舞い上がったものがいわゆる雨の匂いとして感知される。1965年以降からGerberらによって17種のストレプトマイセス属の放線菌および藻類から揮発性オイルとして検出され[1]、1968年にトランス-1,10-ジメチル?トランス-9-デカロールとして最初の構造決定が為されている[2]。1981年にはBentlyらによってゲオスミンがセスキテルペン類の分解により生成している可能性が高いことが報告され[3]、2006年にはファルネシル二リン酸(farnesyl diphosphate)からの生合成ルートが報告された[4]

farnesyldiphosphate.jpg

サイエンティフィック・アメリカン誌の記事では、ゲオスミンによる匂いは主に雨の後に感じられるもので、雨の前の匂いはオゾンであるとの記述がある[5]

ヒトは大気中5 ppt (1000リットル中に5ミリグラム。一般的な家庭用の風呂桶は200リットル弱。)の濃度でもゲオスミンの匂いが感じ取ることが出来、またデカリン骨格を持つ化合物は香料に使われるものが多いとのこと[6]。飲料水への混入はその匂いによる味の低下が問題となるため、ゲオスミンと同様に微生物によって産生される2?メチルイソボルネオール(2-methylisoborneol)と合わせて、その効率的な分離回収、分解技術の開発が研究され続けている。[7]

 

参考文献

[1] a: Gerber, N. N. CRC Crit. Rev. Microbiol., 1979, 7, 191-214. DOI: 10.3109/10408417909082014

b: Gerber, N. N.; Lechevalier, H. A. Appl. Microbiol., 1965, 13, 935-938.

[2]?Gerber, N. N.?Tetrahedron Lett., 1968, 2971-2974. DOI: 10.1016/S0040-4039(00)89625-2

[3]?Bentley, R.; Meganathan, R. FEBS Lett., 1981, 125, 220-222. DOI: 10.1016/0014-5793(81)80723-5

[4]?Jiang, J.; He, X.; Cane, D. E. J. Am. Chem. Soc., 2006, 128, 8128-8129. DOI: 10.1021/ja062669x

[5]?Yuhas, D.?”Storm Scents: You Can Smell Oncoming Rain”,Scientific American(18 July 2012).

[6] 有機化学美術館・別館、「雨の匂い」?http://blog.livedoor.jp/route408/archives/51418188.html

[7] Marcussen, H.; Holm, P. E.; Hansen, H. C. B.,?Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety, 2013, 12, 333-352. DOI: 10.1111/1541-4337.12015

 


Avatar photo

せきとも

投稿者の記事一覧

他人のお金で海外旅行もとい留学を重ね、現在カナダの某五大湖畔で院生。かつては専ら有機化学がテーマであったが、現在は有機無機ハイブリッドのシリカ材料を扱いつつ、高分子化学に

関連記事

  1. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無電解めっきの原理編~
  2. シラン Silane
  3. Sulfane sulfur が生み出す超硫黄分子
  4. ヘロナミドA Heronamide A
  5. キセノン (xenon; Xe)
  6. シアノスター Cyanostar
  7. リコペン / Lycopene
  8. ミノキシジル /Minoxidil

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第17回 研究者は最高の実験者であるー早稲田大学 竜田邦明教授
  2. フリー素材の化学イラストを使ってみよう!
  3. 反芳香族性を示すπ拡張アザコロネン類の合成に成功
  4. 秘密保持契約(NDA)
  5. アニオン重合 Anionic Polymerization
  6. カーボンナノチューブ薄膜のSEM画像を生成し、物性を予測するAIが開発される
  7. 徹底比較 トラックボールVSトラックパッド
  8. 単分子レベルでの金属―分子接合界面構造の解明
  9. 大分の高校生が特許を取得!
  10. マテリアルズ・インフォマティクスの基本とMI推進

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年10月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

植物由来アルカロイドライブラリーから新たな不斉有機触媒の発見

第632回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府(中分子化学研究室)博士課程後期3年の…

MEDCHEM NEWS 33-4 号「創薬人育成事業の活動報告」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化する化学」を開催します!

第49回ケムステVシンポの会告を致します。2年前(32回)・昨年(41回)に引き続き、今年も…

【日産化学】新卒採用情報(2026卒)

―研究で未来を創る。こんな世界にしたいと理想の姿を描き、実現のために必要なものをうみだす。…

硫黄と別れてもリンカーが束縛する!曲がったπ共役分子の構築

紫外光による脱硫反応を利用することで、本来は平面であるはずのペリレンビスイミド骨格を歪ませることに成…

有機合成化学協会誌2024年11月号:英文特集号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年11月号がオンライン公開されています。…

小型でも妥協なし!幅広い化合物をサチレーションフリーのELSDで検出

UV吸収のない化合物を精製する際、一定量でフラクションをすべて収集し、TLCで呈色試…

第48回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」を開催します!

いよいよ本年もあと僅かとなって参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。冬…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール–アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール–アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

【日産化学 26卒/Zoomウェビナー配信!】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 キャリアマッチングLIVE

3日間で10領域の研究職社員がプレゼンテーション!日産化学の全研究領域を公開する、研…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP