[スポンサーリンク]

その他

シラフルオフェン (silafluofen)

[スポンサーリンク]

シラフルオフェンは、ケイ素原子を含んだ構造が特有な、農業害虫の駆除などの用途で使われる殺虫剤。除虫菊の殺虫成分であるピレスリンの構造を真似た上で、魚への毒性などのぞまない作用を避けるように改良されて誕生しました。

 

  • 詳細

シラフルオフェン(silafluofen)は、1984年に大日本除虫菊株式会社、1985年にバイエルクロップサイエンス社が、それぞれ独立に開発した殺虫剤。1分子のシラフルオフェンは、1原子のケイ素原子を持ちます。

GREEN2013silaf05.png

14属元素の特徴比較

シラフルオフェンは、除虫菊として知られるシロバナムシヨケギク(Tanacetum cinerariifolium )の有効成分として発見されたピレスリン(pyrethrin)の構造を参考にして合成された化合物(ピレスロイド)のひとつです。ピレスリンおよびシラフルオフェンは、昆虫の神経細胞にあるナトリウムイオンチャネルを開きっぱなし状態にさせます。これにより、昆虫は運動失調、痙攣に引き続き麻痺し、最終的には死に至ります。

GREEN2013silaf02.png

ケイ素置換で魚毒性を回避

昆虫への作用経路は、シラフルオフェンの蒸気圧が低く、植物体への浸透能力も弱いことから、食害による取り込みや、植物体表面での接触による取り込みによるものと考えられています。そのため、農業害虫の中でも、ウンカ・カメムシ・イナゴなどに対して抜群の効き目を示します。シラフルオフェンは、従来の合成プレスロイドと異なり、哺乳類・鳥類に加えて魚類への毒性が低く改善され、河川や湖沼に流れ込んでも環境に思わぬ影響を与えにくく、安全性の高さが特徴です。ケイ素原子に置換したことで結合長が変化し、それが昆虫のナトリウムチャネルと、魚類のナトリウムチャネルを上手く認識し分けているのだと考えられています。

 

  • 分子モデル

GREEN2013silafluofenmovie.gif

 

  • 参考文献

[1] “Organosilane Insecticides Part 1: Biological and Physical Effects of Isosteric Replacement of Silicon for Carbon in Etofenprox and MTI-800.” Sieburth S et al. Pestic Sci. 1990 DOI: 10.1002/ps.2780280308

[2] “Organosilane Insecticides Part 2: Chemistry and Structure-Activity Relationships.” Sieburth S et al. Pestic Sci. 1990 DOI: 10.1002/ps.2780280309

[3] “New Insecticides by Replacement of Carbon by Other Group IV Elements.”

Sieburth S et al. Pestic Sci. 1990 DOI: 10.1002/ps.2780290210

[4] シラフルオフェン農薬妙録

http://www.acis.famic.go.jp/syouroku/silafluofen/index.htm

[5] 化学ミュージアム「先生は除虫菊、理想的な殺虫成分ピレスロイド」

http://www.chemuseum.com/professional/report/11/

[6] 除虫菊に含まれる生理活性成分の生合成酵素を単離

http://www.chem-station.com/blog/2012/07/post-418.html

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. グルコース (glucose)
  2. ストリゴラクトン : strigolactone
  3. 緑色蛍光タンパク Green Fluorescent Prote…
  4. オキサリプラチン /oxaliplatin
  5. ヘキサン (hexane)
  6. 酢酸ウラニル(VI) –意外なところから見つかる放射性物質–
  7. ジンクピリチオン (zinc pyrithione)
  8. アピオース apiose

注目情報

ピックアップ記事

  1. マイケル・クリシェー Michael J. Krische
  2. ペリプラノン
  3. セリ科植物に含まれる生理活性成分
  4. AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?
  5. マテリアルズ・インフォマティクスにおける分子生成の基礎
  6. シャンパンの泡、脱気の泡
  7. ビス(トリメチルアルミニウム)-1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン付加物 : Bis(trimethylaluminum)-1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane Adduct
  8. tert-ブトキシカルボニル保護基 Boc Protecting Group
  9. 日本化学会第85回春季年会
  10. デミス・ハサビス Demis Hassabis

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年9月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー