ペルフルオロデカリンは、代替血液のフルオゾールに含まれ、酸素運搬の役割を担っていた主成分物質。ペルフルオロデカリン1分子は、炭素10原子とフッ素18原子からなります。
詳細
フッ素原子は、原子のサイズが小さいわりに、電気陰性度が大きく、そのためにフッ素化合物は特有の性質を持っています。含フッ素有機化合物が、血液の代わりとして酸素運搬が可能なことは、1966年にサイエンスで報告[1]されています。ペルフルオロデカリン(perfluorodecalin)も、酸素運搬が可能な含フッ素有機化合物のひとつです。
含フッ素有機化合物を使った代替血液であるフルオゾールは、1970年代に日本のミドリ十字社が中心となって開発されました。フルオゾールは1980年頃に臨床試験が開始されるなど[2]し、1989年にはアメリカ食品医薬品局(FDA)に承認されました。世界で初めて承認された含フッ素有機化合物使用の代替血液であり、また2013年現在フルオゾールは唯一の承認です。ただし、今もなお含フッ素有機化合物を使った代替血液の研究は、フルオゾールの他にもあります。
フルオゾールは、ポリオキシエチレン・リン脂質・グリセリン・ヒドロキシエチルスターチとともに、含フッ素有機化合物を懸濁させたエマルジョン(emulsion)です。フルオゾールには、ペルフルオロデカリンが14パーセント、ペルフルオロトリプロピルアミンが6パーセント含まれています。フルオゾールには、その見た目から「白い血液」の別名がありました。
通常の輸血と比べ有用さに欠けたため、フルオゾールのような含フッ素有機化合物は、世界を見渡しても現在あまり使われていません。また、ミドリ十字での不祥事が発覚し、批判が集まったこともあって開発は頓挫し、そのため日本国内では承認に至っていません。代替血液としての使用にあたっては、命が助かったのち、体内に残存する含フッ素有機化合物が、分解されたり排泄されたりなかなかしないため、かなり長い間そのままになってしまうという問題もあります。
分子モデルGIFアニメーション
参考文献
- “Survival of Mammals Breathing Organic Liquids Equilibrated with Oxygen at Atmospheric Pressure.” Clarj LC et al. Science 1966 DOI: 10.1126/science.152.3730.1755
- “Clinical use of a blood substitute.” Honda K et al. N. Engl. J. Med. 1980 DOI: 10.1056/nejm198008143030710