[スポンサーリンク]

日用品

カプロラクタム (caprolactam)

[スポンサーリンク]

カプロラクタムは、環の構造を持つ炭素数6のアミドで、ナイロンの原材料となる分子。

カプロラクタム(ε-caprolactam)は、環の構造を持つアミドであり、1分子に炭素原子6個・窒素原子1個・酸素原子1個・水素原子11個を持つ物質です。ポリアミド系繊維であるナイロン6(nylon-6)の単量体です。少量の水の存在下で加熱すると、環のアミド部分が開いて次々と鎖状に結合し、開環重合が起きて、高分子化合物としてナイロン6が得られます。この合成法は1941年に東レが中心になって開発されました。

ナイロンは、軽くて柔らかく、弾力性に富みのびやすい性質があります。とくにストッキングなど合成繊維としての用途は画期的でした。ナイロンを使ったストッキングには特有のつやがあります。ナイロンは通常使用に対しては並はずれた強度を示す一方で、鋭利な岩肌には断絶されやすく登山用ロープには向かず国内で過去に事故が起きています。ナイロンには、ナイロン6の他に、アジピン酸ヘキサメチレンジアミンから作るナイロン6,6があります。

カプロラクタムの化学合成

GREEN2013caprolactam02

カプロラクタムの工業製法にはいくつかのルートがあります。従来は、紫外線照射下シクロヘキサンに塩化ニトロシルを作用させるか、シクロヘキサノンヒドロキシルアミンを作用させるかしてシクロヘキサノンオキシムを得て、これに濃硫酸下でベッグマン転位を起こす、方法が主に使われていました。これらの方法はみな、濃硫酸の中和のためにアンモニアを使用していました。そのため、大量の硫酸アンモニウムが副産してしまいます。この欠点は、21世紀に入って解決がはかられました。

住友化学が中心となって見出されたカプロラクタムの新しい製造法[1],[2],[3]は、シクロヘキサノンをシクロヘキサノンオキシムにする1段階目の反応と、シクロヘキサノンオキシムをカプロラクタムにする2段階目の反応からなります。1段階目では、チタン及びケイ素の酸化物からなるMFI構造を取ったゼオライトを触媒に使います。この反応では、チタンが触媒となりアンモニアと過酸化水素からヒドロキシルアミンが系中で生成して起こるもの、と考えられています。2段階目が新製法のポイントで、アルミニウムなど他の元素をほとんど含まない高純度のケイ素の酸化物からなるMFI構造を取ったゼオライトを触媒に使います。反応は、メタノール蒸気[1]およびアンモニア添加[1]下、温度350度[1]で行われます。濃硫酸の中和で硫酸アンモニウムが生成することはありません。通例ベッグマン転位には過酷な酸条件が要求されるため、穏和な条件でシクロヘキサノンオキシムからカプロラクタムに変換が可能であったことは珍しく、理論計算[2]によれば代わりにゼオライトのケイ素原子に隣接したヒドロキシ基が活性の本質に関与していると考えられています。なお。MFI構造とは、ゼオライトの100以上が知られる構造の1つです[4]。

GREEN2013capromfi03.png

MFI構造

分子モデル

GREEN2013caprolactammovie.gif

参考文献

  1.  “Some aspects of the vapor phase Beckmann rearrangement for the production of ε -caprolactam over high silica MFI zeolites.” Hiroshi Ichihashi et al. Catal. Today 2002 DOI: 10.1016/S0920-5861(01)00514-4
  2. “Theoretical study on vapour phase Beckmann rearrangement of cyclohexanone oxime over a high silica MFI zeolite.” Masaya Ishida et al. Catal. Today 2003 DOI: 10.1016/j.cattod.2003.10.021
  3. 住友化学の新しいε-カプロラクタム製造技術 (http://www.sumitomo-chem.co.jp/rd/report/theses/2001-2.html#report_title1)
  4. Zeolite Framework Types (http://izasc-mirror.la.asu.edu/fmi/xsl/IZA-SC/ft.xsl)
Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. バニリン /Vanillin
  2. 化学者のためのエレクトロニクス講座~化合物半導体編
  3. サラシノール salacinol
  4. ボルテゾミブ (bortezomib)
  5. カイニン酸 kainic acid
  6. アセトアミノフェン Acetaminophen
  7. チエナマイシン /thienamycin
  8. イレッサ /iressa (gefitinib)

注目情報

ピックアップ記事

  1. 【読者特典】第92回日本化学会付設展示会を楽しもう!PartII
  2. 大村氏にウメザワ記念賞‐国際化学療法学会が授与
  3. 企業研究者のためのMI入門②:Pythonを学ぶ上でのポイントとおすすめの参考書ご紹介
  4. ランタノイド Lanthanoid
  5. 農薬メーカの事業動向・戦略について調査結果を発表
  6. 手で解く量子化学I
  7. 第85回―「オープン・サイエンス潮流の推進」Cameron Neylon教授
  8. 2009年人気記事ランキング
  9. ODOOSをリニューアル!
  10. 細胞を模倣したコンピューター制御可能なリアクター

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年9月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー